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異端を狩る者の詩は誰も歌わない  作者: 大嶋コウジ
ワールド壱の二:嫌になったら生まれ変われば良いんじゃね?
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君らしさ

 アイドルなんて今考えてみれば恥ずかしい事をしていたものだよね。でも、毎日が楽しくて仕方なかったよ。

 自分の大好きな歌を歌えばみんなが喜んでくれた。元気をもらえたとか、気分が落ち着いたとか、涙が流れたとか、自分にとっては不思議だったけど、嬉しい事を言ってくれるファンも居てくれて嬉しかったもんさ。


 あぁ、言い忘れていた。アイドルとして二人で活動していたんだよ。もう一人は大人しい子だったんだけど、私のハチャメチャぶりを押さえてくれる良い子だったよ。今でも毎年一回は家族ぐるみで食事会を開くこともあるのさ。その時は昔の動画を舜ちゃん(孫の蓮沼舜一)がふざけて流してね、みんなで見るんだけど、もう恥ずかしくて、止めてくれってお願いしているのさ。


 二人でテレビにも出たこともあったけど、インターネットが主流になった頃で歌だけじゃ生きていけないぞって事で、二人で話し合ってスタッフに相談して、自分達でチャンネルを作ったんだよ、すごいだろ?

 リアルで歌っているっていうのに仮想キャラまで作って、それと一緒に歌って踊って、何故かそれが受けて200万以上再生した時はみんなでお寿司を食べに行ったよ。

 あははっ!そうそう、今思うと下らないネタもやったもんさ。コスプレしたり、街中をだらだらと散歩したり、ゲーム実況したり、面白いところだと、化学実験とか、夜釣りとか。廃墟の病院を訪問ってのは怖かったなぁ……。そんなこんなで視聴者からの意見を入れてとにかく何でもやったんだ。お化粧のハウツー動画とか、服の選び方みたいな動画は今でも再生数が伸びているのさ。お陰でお小遣いは稼げているよ。


 だけどね、動画専用に会社を興してスタッフも増えて、アイドルの後輩も出来て軌道に乗り出したところで、時代が騒がしくなり始めてしまった。歴史で習っただろ?世界中で戦争が起こり、ネットが規制されて私達は食いっぱぐれ。

 戦争のしすぎで地球が怒ってひねくれちゃったのか、ズルッて転んじゃった。地震がたくさん起こって、私の家族も、あの子の家族もスタッフもその家族もたくさん死んでしまった……。お金も使えなくなって、ひもじく生きたものさ……。


 でも、生き残っちゃった私達は、どうしようって考えたんだ。

 結局、歌だよねって事になったんだ。だから、世間がどうだろうと元気づけるために歌い続けることにしたのさ。お客が数人しかいないこともあったけど、私達と同じように家族を失った人や、子どもや老人までもが歌を聴いてくれた。元気になれたって涙を流してくれた人も居た。みんなの涙がこっちが支えられてしまうこともあったよ。食べ物の無い日もあったけど、本当に幸せだったんだ。結婚して子どもも出来てねぇ。


 日本人は本当に強いって思うよ。奪い合うこと無く、協力し合いながらここまで来られた。私達が出来た事なんて本当に小さな事だって思う。それでも、復興できたのは未だ一部。この地域は幸い高い建物が少なくて地盤も強かったみたいだね。この高校だってほとんど残っていたしね。あんた達は幸せかもしれない。


----- * ----- * -----


 蓮沼の祖母は、そこまで話して津名を見て仰天した。


「やだよ、この子はっ!な、泣くことがあるかいっ!」


「う、うぅぅぅ、き、君らしい……、君らしいよ……」


 彼女は慌てて津名の涙を拭いて上げた。しかし、らしいという意味が全く分からなかった。


「ら、らしい?」


「そうだよ、君はいつだって明るくて輝いていて無邪気で周りを明るくする……、うぅぅ……」


「何日か前に会ったばかり……だよね……?」


 彼女は、本当に会ったのだろうかと、一瞬、疑問が沸いて言葉に詰まった。しかし、その理由は分からなかった。


「そうですね、本当に復興し始めているのは、この地域だけでした……」


 津名は、ここ数日、夜の寝ずに様々な事を調べていた。巨大な地震の影響は大きく、世界中が壊滅状態に陥った。日本は影響が少なかった地域の一つだったが、それでも都心でもM8の地震が起こって大きなビルは崩壊し、地震火災が人々を襲った。火が落ち着いても交通網は乱れ、ガス、電気、水などの社会インフラが使い物にならなり、人々の生活は貧窮した。更にインターネットも使えなくなり、ネットに頼った生活は諦めざるを得なくなり、昔ながらの紙を使った生活に戻り、銀行へ人々が殺到するなど人々の不安は十年近く続いた。


「政治も経済も立て直しはこれからです……」


「そうだよ~、未来は君たちに託すからね。だ・け・ど、今晩はおばあちゃんでも出来ることがあるってところを見せてやるからねっ!」


 彼女はポーズを決めてニコリとした。


「えっ?」


 津名がその意味を考えていると、蓮沼舜一が自分の祖母に声をかけに来た。


「ばあちゃん、出番だってよ……って、あれ津名か……。ん?お前また泣いていたのか……?な、何があった……」


「この子は良い子だね。仲良くしなよ、舜ちゃん」


「当たり前だよ、何を言って……、じゃなくて、ほら、あそこだってっ!早くしないとっ!」


 蓮沼舜一は祖母にテントの方を指差して早く移動しろと促した。


「あいよ。はぁ~、映像だけでも若返るってのは嬉しいねぇ」


「良ちゃんはリモートだよね?」


「だってよ~。おい、津名、泣いてないで婆ちゃん達を応援しろって」


「ふ、ふぇ?応援……?グスッ」


 それを聞いた蓮沼舜一は呆れてしまった。


「お前、マジで言ってる?文化祭委員会なのに知らなかったの?……婆ちゃん見て驚いてぐらいだから、まさかと思ってたけどなぁ……」


「え、えぇ……、あっ!」


 立体映像のステージ上にスポットライトが当たると、二人のアイドルが現れた。一人は蓮沼時子の若い頃の姿であり、もう一人は髪の長い大人しそうな綺麗な女性だった。キラキラと輝く


 その歌は日本の復興を願う歌だった。緩やかな曲調で誰でも踊りやすい振り付けがあって、その見本が立体映像で映されて誰もが参加出来るように演出された。それは盆踊りのようにも見えたが、少しテンポも早く、ポップミュージックのようでもあった。


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