またですか
次の日、日高は、いつものように学校に向かって登校していた。彼女は、迷子の少女を思い出して何処に行ったのだろうかと心配になった。彼女は両親を探していた。両親に出会えただろうか、出会えなかったとしたらどうしてしまったのだろうか、そんなことを考えていると申し訳ない気持ちになった。
彼女は少女の心配事が頭から離れず、目の前にあるものに気づかず思いっ切り蹴飛ばしてしまった。
「キャンッ!」
「あっ!」
しゃがんでいたその子は、日高に蹴られてしまったため、涙目になってこちらを睨んでいた。この子は、日高と同じ制服を着ていた。赤髪のポニーテールと赤みがかった目があの少女を思い出させた。
「ご、ごめんなさい……、大丈夫ですか?」
「もうっ!歩きスマホ禁止だよっ!」
「歩きスマホじゃないけど……。あ、足を怪我しているの?」
彼女は足を押さえて痛そうにしていた。
「そうなんだよね……」
「え、え~っと……肩を貸しましょうか……?」
「おっ!おぉ、優しいじゃん」
彼女は満面の笑みになると、すっと立ち上がった。日高は彼女が押さえていた足がなんともなっていないことに気づいてポカンと口を開けた。
「あれっ?!あなた、立てる……の?」
「立てるわよ」
しれっと言い切った彼女に、このやり取りは何だったのだろうかと思って日高は意味が分からなかった。しかし、それ以上に彼女の顔を見て確信し、またか思っていた。
「そ、それなら……ま、また教室で……」
「うん?教室?」
「た、珠川さんですよね……」
「何で私の名前を知ってるのよっ!!」
今度は彼女が驚いていたが、日高には同じ教室の"珠川えん"にしか見えなかった。赤髪なのは、外国人の血が混ざっているからだと噂話で聞いたことがあった。日本人離れしたナイスボディも噂のネタになっていた。
「わ、私、同じクラスの日高です……」
日高は何故か丁寧語になっていた。
「えっ!嘘でしょっ?!あんた居たっけ?」
「い、居ました……」
しかも、自分はこんなにも影が薄いのかと、またも思い知らされて軽くショックを受けた。
(私って影が薄すぎ……)
同じクラスメイトだと知った珠川は、あ~と何かを知ったのか、手を叩いて突然喜びだした。
「そうかぁっ!お姉ちゃんは私の匂いがしたのかぁっ!そうね、そういうことだわっ!はぁ~っ!スッキリしたっ!」
「……わ、私の匂いですか?」
一人で分かったような顔をされた日高の方は、何が何だか分からなかった。目の前の珠川は満足したのか笑っていた。
「さ、学校に行こっとっ!学校ってやっぱ、面白いよねっ!」
「学校が……面白い……」
日高は学校が面白いと思ったことはあっただろうかと思ってしまった。毎日登校して毎日同じように勉強して、何の変化も無い毎日だった。その瞬間、一瞬、彼女の脳裏に何かが浮かんだ。
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そこは自室だった。理由は分からないが気分が高揚していた。ベッドの上のぬいぐるみに爆笑し、そのまま寝転んだところで、急に呼吸が出来なくなり、目の前が真っ暗になった。
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「よ~し、んじゃ、一緒に学校に行こうよ~っ!」
突然の珠川の声に日高は我に返った。自室の風景が消えて、こちらを向いて笑っている珠川が見えた。
「えっ!なになにっ?!」
「だから、一緒に学校に行こうってっ!どしたの?」
「あ、うん、わ、分かった……そうだね」
「あははっ!へ~んな子だなぁっ!」
日高は、先ほどの映像が何だったのか分からず混乱していた。珠川は続けて変なことを言った。
「あんたってここを毎朝通っているわけよねぇ?これがあんたにとって一番印象に残っていることなわけ?」
「え?……それってどういう意味……?」
「まぁ、私は関係ないけどさ~。さ、行こっか!」
「う、うん」
珠川は最初の印象とは異なり、気さくな性格だった。そんな性格は、暗い性格の日高と以外にもマッチしていた。日高の見た映像は彼女の声で消えてしまって珠川のノリに従って学校に向かった。