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異端を狩る者の詩は誰も歌わない  作者: 大嶋コウジ
ワールド壱の二:嫌になったら生まれ変われば良いんじゃね?
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転生への道①

 U付属幼稚園に通う松田浩一まつだこういちは、何故自分が友達から虐められているのか分からなかった。自分よりも遙かに大きな友達だった開成英之かいせいひでゆきがある日から自分に暴力を振るうようになった。


 ある日、開成は、自分の友達を集めて、自分は王様だと高々に宣言した。


「きょうからオレは王さまだっ!おまえはオレをまもるセンシ、おまえはオレをまもるマホウツカイ、おまえは……」


 それどころか、友達達を次々に自分の部下として役割を言い渡していった。それは子ども向けテレビ番組を見て自分は王様役だと決めたに過ぎなかったのだが、松田にとっては地獄の始まりだった。


「こういち、おまえはオレのドレイな」


「えっ!ドレイ!?やだよ、そんなのっ!」


 幼い松田にさえ、奴隷の意味が分かった。同じ番組を見ていたからだった。無論、奴隷になるのを嫌がったが、子どもの征服欲はそれを無視した。


「うるさいぞ、ドレイッ!」


「な、なんだよぉ」


 部下になった友達も開成に同調していた。


「そうだよ、ドレイッ!」

「ドレイはだまってろよぉっ!」

「そうだっ!そうだっ!」


 とどめを刺すように王様は部下に命令した。


「みなのもの、ドレイをなぐれっ!」


 部下は忠実に命令に従って、松田は殴る蹴るの暴行を受けた。終わった後、松田は担任に訴えて開成達は大人からこっぴどく怒られて、その日は終わった。


 しかし、翌日もその"役割"に変わりは無かった。

 先生に言いつけるなと開成達から命令されて、更に強く殴られた。先生に訴えることが出来なくなった松田は、親に話したが結局、親は担任に言うしか無く、一時的に虐めが止まってもまたしばらくすると再開された。

 端から見れば、子供のじゃれ合いにしか見えなかっただろうが、当人にとっては非常に大きな問題だった。


 松田が抵抗できなかった理由はもう一つあった。

 彼の目には、開成達の後ろに黒い影が立ちこめているのが分かっていた。それが一体何なのかは分からなかったが、その影は自分を殴るときに高らかに笑ってるのだけが分かった。その笑いが不気味で怖くて仕方がなかった。担任に訴えた時もその黒い影の不気味な目が自分を睨め付けているのが分かった。

 ともかく、松田はその黒い影が自分を殺そうとしているようにしか見えなくて恐怖で震えた。


 虐めが続いたある日、彼は、殴られている時に藁にも縋る思いで心の声でその影にお願いをしてみることにした。


"お、おねがいだよ、なぐらないでっ!"


 すると、その声が松田の声に反応した。彼にはその影がニヤリとしたのが分からなかった。


"殴るのを止めて欲しいのか?"


"う、うん、やめて……"


"そうだな、その代わり私の言うことを聞くんだ"


"うん、分かったよぉ……。言うことを聞くよ……"


 その了承がどんな意味を持つのか彼には分かっていなかった。だが、彼にとって殴られるのが終わるなら何でも良かった。


"……ふふふ、よし、良いだろう。今夜お前のところに行くことにする"


"ぼ、ぼくのうちにくるの?"


"そうさ。だがな、母親と寝るな、一人で眠るんだ、良いな?"


"う、うん、わかった……"


 松田が同意すると、不思議な事に開成達はその場から何処かに行ってしまった。


「おい、行こうぜ」


「はっ!おうさま」

「おうさま、わかりました」

「はいっ!」


 頭を押さえていた松田が顔を上げると、影だけがそこに残っていて自分をあの不気味な目で見つめていた。


「ひぃっ!」


"今夜だ、今夜お前のところに行く、良いな、一人で寝るんだぞ"


「わ、分かったよ」


 すると影はすっと消えていった。


 幼き子どもは、何故、その声が自分が母親と一緒に寝ていることが分かっているのか、そこまでの考えには至らなかった。ともかく、この状況から逃げるために必死だった。影の存在は恐ろしかったが殴られるよりはましだった。


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