クラスメイト
津名のテレポーテーション騒ぎが落ち着くと、運用チームの谷田川と本通さおりが慌てるように津名に話しかけてきた。
「津名っ!そうだ、それよりもさ……」
「そうそう、問題発生なのっ!」
二人の慌てように津名は何が起こったのだろうかと思った。
「ど、どしたの?」
「問題文が足りなくなってきたんだよぉ!」
「景品もヤバいっ!無くなりそうっ!」
「えぇ……。使い回せば良いのでは?谷田川達が沢山作ってくれたよね?……ん?景品も?」
"あれ?問題文、いっぱい作ったのにね……、変じゃいな"
問題作成チームも兼任していた谷田川は、他にも四名で問題を数十個は作ったはずだった。十分に用意したはずだったので津名も理解出来なかった。しかし、その理由は本通がすぐに教えてくれた。
「すぐネットに流す人がいるのよっ!!だから簡単にクリアされちゃうのっ!」
珠川えんもこれに加わり始めた。
「そうなんだよぉ、ありえんてぃっしょぉ」
大寬と日高は何てことをするんだと思った。
「う~ん、困ったね……」
"そうじゃ、ありえん茶"
「止めてってお願いしているんだけどね。ポスターも貼ったんだよっ?」
本通は出口に美術部らしい可愛い文字で「問題文は公開しないで下さいね」と書いてある張り紙を指差した。
「そうか……」
津名は改めて自分達が作った出し物を見渡した。
津名達のクラスの出し物だった配管工アクションゲームを模した出し物は、彼の演説後からクラスが一致団結し、四つもの教室を使った大イベントになっていた。
ステージは、地上~地下~水中~お城となっていて、参加者が教室に入ると立体映像によって配管工の姿になった。各ステージの「?」ブロックを叩くと謎解きの問題が出て来て、それが解けると次のステージに移動できるといったゲームになっていた。お城まで到着して最後の謎が解けるとお菓子やら飲み物が振る舞われた。
谷田川達の運用チームでは、立体映像でゲームに出てくるコスプレをしていて、来訪してくれた人達が困ったときのサポートを担当していた。
"ま、まぁ、あの人数ならありえる茶じゃまいか"
日高は入口を空中から眺めてそう言った。
このイベントは大好評となっていて教室の前は大行列が出来ていた。つまり、その反動か、謎解きの問題がネットに公開されてしまい、簡単に解かれてしまう事態になっていた。こうして問題文が足りなくなり始めていたのだった。
文化祭は、金土日と三日間も開催されていたが、金曜日時点ですでにほとんどの問題が公開されてしまっていた。
"どするんじゃ、津名氏。ある意味嬉しい悲鳴?"
日高は津名の方を向いたが、彼は唐突に大声で笑い始めた。
「あはは……はははっ!あははははっ!」
意味不明な笑いのため皆不思議に思った。大寬と珠川えんと日高も津名が可笑しくなったのでは無いかと心配した。
「あんた……、どうしたのよ」
「どしたん、津名君?遂に壊れたかっ!」
"あたしの笑い上戸が感染したみたい……?"
しばらく笑い続けた津名は、落ち着くと笑顔でこう言った。
「あははっ!悩んでも仕方ないって事だねっ!」
津名の言葉は、悩んでても仕方ないって事を意味していた。
大寬と日高はそれを聞いて一安心した。
「……なによ、心配させて……。そうよ時代は変わっていくのよっ?」
"津名氏、元気になったな"
しかし、珠川えんは何があったのか分からなかったため、訳が分からず戸惑った。
「君らなんかあったわけ?……まぁ、いいかぁ」
冷静になった津名はこの場に居るクラスメイト達に指示を出し始めた。
「谷田川さんと本通さん」
「お、おう?」
「うん」
「問題文作成チームは、オブジェクトチームと一緒に問題文を後百個考えてくれる?」
「えっ!そんなにっ!」
「ふぇぇ……」
谷田川と本通は戸惑ったが顔を見合わせて、うんとうなずき合った。
「よし、やるかっ!」
「そうだねっ!こんなに来てくれているんだもんねっ!」
津名はニコリとすると大寬と珠川の方を向いた。
「景品は売上を使ってフリマの人達から買ってこよう。大寬さんと珠川さん、行こうっ!」
「良いわよっ!」
「おっしゃっ!」
"あはは、イイねっ!"
日高は参加出来ないことを少し残念に思った。霊体では不参加状態に等しく少し寂しかった。しかし、そんな彼女も津名は忘れていなかった。
"日高さんも一緒に買い物だよっ!同じクラスメイトでしょ?良い物を選んでねっ!"
そう言われて日高は胸がかっと熱くなって、目に涙が溢れた。
"う、うんっ!うんっ!あたしも行くぞっ!えらぶぞぉぉっ!うぅぅぅ……、ぶぇぇ~んっ!"
津名を含めクラスメイト達は忙しく動き回った。客観的には馬鹿げた出し物だった。しかし、彼らは一生懸命だった。それが未来の自分達につながる何かだと確信しているかのようだった。
津名自身も走り続けた。過去起こった事、自分の努力が無駄だったかもしれなかった事、しかし、今とこれからを考えて行かねばならないと思った。自分が出来ることを今すべきだと思った。そう考えて動いてるうちに彼の悩みは消えていった。
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しかし、これらの光景を捻くれた目で見つめる輩が居た。カメラ越しに教室の動きを見ていた螢田は歯ぎしりしながら怒りを爆発させた。
「やっぱ、駄目なヤツばっかじゃねぇかっ!!!こいつらクソばっかだっ!」
螢田の横には闇に包まれた者が彼をニヤけながら見ていた。同時に津名がマジックと誤魔化したテレポーテーションは、魂のレベルが高いものだけが使える能力だと分かっていて疑問が晴れなかった。
"こいつは何者なんだ……?"
その者の声は聞こえなかったのか、螢田は何かを決意して叫んだ。
「決めたっ!やっぱ、俺はツナを頂くっ!!」
"はぁ?蓮沼じゃないのかい?"
「……こいつムカつくんだよっ!やっぱ、こいつに移った後すぐに蓮沼に移るっ!それならお前の仲間が使えるだろっ!」
いつもなら同意する闇の者は何かに恐れていた。
"……止めときな"
「何でだよっ!」
"あいつは得たいが知れない……。それにこいつの身体は壊れているだろ?"
「いいんだよっ!ムカつくんだっ!やっぱ、俺はやるっ!」
"駄目だって言ってるだろっ!"
「俺は許さないっ!」
"ちっ……。あぁ、そうかい。私は知らないからね"
「お前なんて頼りにしていないっ!」
"そうかいそうかい。私が与えた力でせいぜい頑張りな。だけど、その身体は頂くからね"
「いつものようにそうすれば良いだろっ!津名の身体もすぐに使えよっ!」
"ふん……上手くいくと良いがね"
闇の者は、螢田に聞こえないような小声でそう言った。




