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異端を狩る者の詩は誰も歌わない  作者: 大嶋コウジ
ワールド壱の二:嫌になったら生まれ変われば良いんじゃね?
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星の自浄作用

 津名は、歴史年表を閲覧し終わった後、何かが抜けたように茫然自失となった。しかし、その目は自分が見たことの無い世界地図を睨むように見つめていた。


「イフレ、時間が止まっちゃってたけど、や~っと分かった?」


「……」


「何よ……、ど、どうしたのよ……」


 大寬の嫌みっぽい突っ込みは、津名には聞こえていかのようだった。彼女は、津名が固まってしまったので、それ以上は何も言えなくなってしまった。日高も津名の異常さにどうしたのかと思った。


"あぁ、津名君……泣くでないぞ……、いや、泣いてないか……。でも何だかいつもと違う感じじゃまいか?"


 津名が見終わった展示物には、大陸の移り変わりと絶望的な内容が書いてあった。一行一行は短かったが、そこには数え切れないほどの生と死が書かれていた。


「……」


 彼には、地球上のホームへの混乱もあり得ないレベルだろうと想像できた。突然の死を迎えた人達が数億人レベルでホームに戻った。それを受け入れる準備は出来ていたのだろうかと思った。そして、同じぐらいの人数が、死んだことにすら気づけず、地上を彷徨っているに違いないと思った。


「星の自浄作用が動いてしまった……」


 彼は独り言のようにそう言った。


「……そうね……」


"自浄作用?……地球が自分でそうしたって事?えぇ、生きてるみたいなことを言うね。……えっ、地球って生きてるの?"


 それはまさに地球の自浄作用だった。津名は、起こしてはならない星の自浄作用が起こってしまったのだと思った。


 大寬と日高はさすがに冗談も言えなくなっていた。


「イフレ……」


"津名君、大丈夫?"


 目を瞑っていた津名は少し顔を上げた。


「何も変わらなかった……。僕の努力は無駄だった」


 津名はそう言うと、その場から一瞬で消えてしまった。日高と大寬は彼が急に消えたので戸惑うしか無かった。


「あっ!」


"ぬぉっ?消えたぁ……"


 幸い、人気の無い出し物のため、ここには誰も居なかった。

 しかし、それよりも、大寬は津名がここまで落ち込むとは思わず反省した。彼の繊細さを考えて、入った方が良いなどと言わなければ良かったと思った。


"津名氏、何処行ったんじゃぁぁっ?!"


 日高の慌てぶりに、大寬は逆に落ち着きを取り戻し、黙って指を上に向けた。


"あぁ……、そうじゃね"


 二人は、津名の居るところに向かった。


----- * ----- * -----


 大寬はテレポートを使い、日高は人や壁をすり抜けて校舎の屋上に向かった。二人は屋上で鉢合わせると津名を捜した。


"あっ!居たね"


 津名はすぐに見つかった。彼は壁を背にして膝を抱えて下を向いていた。津名は彼女達を感じると独り言のように話した。


「……文明が一つ消えてしまった……。全てが良くなったと思った……。だから、宇宙に向かったんだ……。いや、何でも無い……、時間軸が違うのかもしれない」


"時間軸?ど、何処の時間?星が生きてるとか、久しぶりにフ~な事を言うなぁ……。だけど……、うぅぅ~、え~とぉ、あたしはどしたら良いんだよぉ~。まやちゃ~ん……"


 日高は助けるように大寬を見つめた。彼女は冷静に星の自浄作用について話した。


「自浄作用が起こるだけの事があったということでしょ?あなたなら分かってるはず……。人類のほとんどが闇に落ちてしまったということ……」


「分かってるっ!分かってるけど……。何十億もの人が……何の罪のない人達までもが……巻き込まれて死んでしまったんだっ!文明が消えてしまったんだっ!」


 顔を上げた津名は目を真っ赤にしていた。日高はすでにもらい泣きをしていた。


"うぅ……、津名君……、な、泣かないでよぉ……、こっちまで泣いちゃうじゃまいかぁ……"


 しかし、情けない顔をしていた津名を見て大寬は段々と腹が立ってきた。そして、こんな津名を見たくないと思った彼女の手は彼の頬を思い切りビンタしていた。


「痛っ!ま、またやったなぁ……」


"ま、まやちゃんっ?!……えっ、また?"


「バカねっ!!文明が消えた?あんたにはこの学校で行われていることが見えないわけ?今よ、今よっ!今、ここでやってる事よっ!!」


「い、今……?」


「そうよ、ほら立って見なさい」


 大寬は津名の襟元を掴むと無理矢理、立ち上がらせた。


「わ、分かったよ。自分で立つよ。……あっ!」


 津名が立ち上がった時、立体映像の風船が目の前を通って空に向かっていった。校舎のあちこちに花が咲き、妖精が舞っていた。屋上から下を見ればあちこちで騒いでいる学生達が居た。食べ物を頬張り、飲み物を飲んで友達同士で笑い合っていた。


「人数は少ないけど、この子達が未来を作っていくのよっ!よく見なさいっ!」


 大寬はそう言うと、文化祭のテーマが書かれた看板を指差した。


┌───────────────────┐

│    新未来は僕らが創る!     │

│   ~ 復興は僕らに任せろ ~    │

└───────────────────┘


 それは屋上からでも見えた。そこに書かれた言葉は彼らの決意を表していた。


「そうだった……。みんなで決めたテーマだった」


「そうよ、思い出した?」


 津名は、高校の生徒数が少ない理由も分かったような気がした。彼らは今を生きていた。人類や文明は絶滅したわけでは無く、その小さな一部を引き継ぎながら生きていた。


 天変地異を生き抜いた人類の苦労は計り知れないと津名は思った。しかし、彼らは、しっかりと子を産み、育て、彼らの意思を引き継いだ若者が今ここに居た。

 津名にはそれを感じることが出来た。そして自分もこのままではいけないと思った。


「教室に戻ろう……」


 それを聞いた大寬は安心した。津名の落ち着いた顔を見たからだった。


「そうね。ふぅ~、全く心配させないでよね……。って、い、居ない……?」


 しかし、大寬の話を聞くこと無く、津名はまた何処かへと消えてしまっていた。


"あ、あやつは何処に行ったんじゃ?"


「きょ、教室に戻るって行ってたわよね?」


"ままま、まさかっ?!"


 大寬と日高は、まさかと思って顔が青ざめた。


----- * ----- * -----


 大寬は女子トイレにテレポートして急いで自分の教室に向かい、日高も床などをすり抜けて教室に向かった。


「あぁっ!!あんのバカッ!」


"やっちまったかぁ……"


 案の定、教室は突然現れた津名の事で大騒ぎになっていた。


「つ、津名君、どこから来たのっ?!」

「一瞬で現れたよね?」

「め、目の前に急に現れたんだ、絶対におかしいっ!」

「ありえんてぃ~っ!」

「ど、どゆことだよっ!」


 当人は騒ぎの真ん中で頭を掻いて苦笑いをしていた。大寬と日高は津名の何も考えない行動に呆れて頭を抱えた。


「もう、ぜ~~たいアホよ、アホっ!」


"あぁ~、時々、わけ分からん事するよねぇ……天然かぁっ!"


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