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異端を狩る者の詩は誰も歌わない  作者: 大嶋コウジ
ワールド壱の一:吸収衝動を味わってみるかい?
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赤髪の少女

 日高は登校途中、赤渕から嫌がらせを受けた場所に差し掛かった。かつては友達だった彼女からの嫌がらせを思い出すと憂鬱になった。しかし、その時出会った津名は、不思議な男の子であった。


(貧乏で時代錯誤?フフッ!変な人っ!)


 彼女は、ニヤけた顔をしてしまって、こんなところを赤渕にでも見つかったらと思うと急に真顔になった。しかし、赤渕達は、そこにはおらず、彼女はホッと胸をなで下ろした。


(あれ?あの子……)


 その代わり、よく見ると10歳ぐらいの少女がぽつんと赤渕達のいた場所に立っていた。後ろからしか見えなかったが、黒いゴシック風の服に少し赤みがかった長い髪が印象的だった。しかし、その姿はあまりにも不自然だった。行き止まりのビルで首を左右に振って何かを探しているようだった。


 日高は、何故か彼女が気になって思わず声をかけてしまっていた。


「……こ、こんなところでどうしたの?」


 すると少女は、振り返ると日高を見つめた。その瞳は、暗闇でよく見えなかったが少し赤みがかったように見えた。


「余に何かようか?」


「どうしたのかな?」


「……なんだ、お前も同じか」


 親と離れた迷子なのだと思っていた日高だったが、その大人びた声に背中がゾクッとするのが分かった。


「ご、ご両親は……?一人なの?」


「ふぅ、まあ、心配してくれたということか……。もはやここに残っている残骸にも興味が無くなったところだわ……」


 少女はそう言って下を向くと顔を上げて日高を見つめ直した。


「……うん、迷子なの……、うぇ~んっ!」


 すると、今までの声とは打って変わって年相応の可愛らしい声に変わった。日高は、その変貌ぶりに声を失った。


「……?」


「おとうさんとおかあさんにあいたいよぉ~……うぇ~ん、おねえちゃん、たすけてぇぇ~~……」


 少女は涙を流して、日高に寄ると彼女のスカートを掴んだ。


「や、やっぱり、迷子なんだね……?交番が近くにあるから行こう」


 日高は彼女の手を引くと近くの交番に向かった。


「……die Polizei?ふむ、面倒なことになった……」


「えっ?!今なんか言った?」


「ううん、なにもいってないよ、おねえちゃんっ!」


「そう?じゃあ、行こうか」


「うんっ!ありがとうっ!」


 日高は、迷子を連れて交番に向かった。

 彼女は手を繋いで子供を連れているはずだった。しかし、その手の先にいる存在がどうにもそう感じさせなかった。自分は恐ろしいものを連れているように思え、油汗が流れるのを感じた。


「おねえちゃん、どうしたの……?」


「え、何でもないよ……あはは」


 自分の手の平の感覚は子供のそれであり、ときどき振り返ると小さな子がこちらを見つめて笑っているだけだった。


「へんなのぉっ!」


「そ、そうだね……」


 不気味な感じをしつつ角をいくつか曲がって進むと、やがて交番が見えてきた


「あ、あれが、こうばん?けーさつのひとがいるところだよねっ!」


「そうだよ、よく知ってるね」


「おねえちゃん、トイレいきたいっ!」


「えっ?い、今っ?!」


「うん」


「え~、困ったなぁ……。交番で借りようか」


 日高がそう言うと少女はあからさまに嫌な顔をして舌打ちした。


「チッ……」


「えっ?!ど、どうしたの……」


「ううん、なんでもないよぉ、それよりもほらっ!」


 少女はそう言うと、公園を指差した。


「あっ、公園……、公衆トイレがあるね」


「行ってくるぅ~」


「あっ!」


 日高が一緒に行こうと言うまでもなく、少女は走ってトイレに入ってしまった。


「外で待ってるからね」


「は~い」


 しかし、いくら待っても彼女はトイレから出てこなかったので、日高は不安に駆られた。


「あ、あれ、どうしたのかな?……ま、まだかなぁ?」


 日高は仕方なくトイレに入っていったのだが、扉の閉まっているところはどこもなかった。彼女は理解出来ず、一部屋ずつ確認していったのだが、やはり何処にいなくて、いつ出たのだろうと思って、公衆トイレの周りを見て回った。そして、公園も見て回ったが何処にも少女は居なかった。


(えぇ……、あの子は何処に……?もっと迷ってしまっていたらどうしよう……。あぁ、私が連れ回さなければ良かった……)


 日高は、自分のせいで彼女が更に迷子になってしまったのだと思って申し訳ない気持ちになった。しかし、どうすることも出来ず、彼女は仕方なく諦めて、トボトボと学校に向かう事にした。


----- * ----- * -----


 そんな彼女を公園近くの家の屋上から見下ろす者が居た。それは、まさに消えた少女だった。


「ふ~、まさか声をかけてくるとはね」


「お姉ちゃん、何であの子に何にもしなかったのさ」


 いつの間にか、少女の横には制服姿の少女が立っていた。


「私を迷子だと思っただけだろ?今時、親切な子だねぇ」


「ふふっ!まさか、あの子に惚れちゃった?」


「私に気づくとはなかなかやる子かもしれない」


「ほらほら~、やっぱり気に入ったんでしょっ!ちょっとジェラシ~ッ!」


「大人をからかうんじゃ無いよ。まぁ、ありがとうって言っておくかね。ところで、ちゃんと片付けたんだろうね?」


「遠くの山に捨ててきたよ。精霊と仲良くなるんじゃない?」


「山の精霊を怒らせなきゃ良いけどね。怒りっぽいからねぇ、あいつらは。さぁ、気まぐれは終わりだ、行くよ」


「うん、分かったっ!」


「しかし、日の光ってのは眩しいねぇ……」


 二人は一瞬で何処かに消えてしまった。それからしばらくは、不良グループもあの場所にはたむろしなくなっていて、日高は安心して登校できるようになった。


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