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異端を狩る者の詩は誰も歌わない  作者: 大嶋コウジ
ワールド壱の二:嫌になったら生まれ変われば良いんじゃね?
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観察する者②

 しばらくしたある夕飯の時、螢田邦幸が学校に行かなくなり、リモートで授業を聞くと言い出した。


「……が、学校に行かない?」


 父親は仕事で遅いため、この居なかった。母親の典子は親として自分が理由を聞いておかなければならないと思った。学校で嫌な事でもあったのだろうと思ったからだった。しかし、相変わらず邦幸は面倒くさそうにしているだけだった。


「……別に学校になんて行かなくても良いだろ」


「だ、だけど、友達も出来ないだろうし……、も、もしかして、学校で虐めでもあったのかい……?」


「ねぇよっ!おまえ、本当にうるせえよっ!申請だけしておけって言ってんだっ!」


 しかし、息子は暴言を吐いて追い出すだけであり、これ以上何聞いても拉致が明かなかった。典子の不安は募るばかりであり、その晩、夫に相談したが反抗期だろうと言って取り合ってくれなかった。


----- * ----- * -----


 リモートで学校の授業を聞き始めてからしばらくして、典子が邦幸の部屋の前を通った時だった。授業時間のはずだが、誰かと話している声が聞こえてきた。学校の誰かと話でもしているのだろうと思ったのだが、もしかしたら登校しない理由でも分かるのではないかと思って、典子は悪いとは思ったが扉の前で息子の話を聞いた。


「津名ほずみか。はぁ、良いじゃねぇか。スポーツ万能で頭も良いし顔もイケてる」


「……」


「んだよな、前ん時は親父が暴力振るうし、たまらなかったぜ」


「……」


「あははははっ!そうそうっ!笑っちまうぜ、お前の仲間に殺されてやんのなっ!あんな奴死んで当たり前だっ!」


「……」


「邦幸は普通すぎたぜ、つまんねぇよ。しっかもここのババアはうるせえしな」


「……」


「次はお前の言ったとおり、こいつにするぜ」


 典子はその内容を理解することは出来なかった。自分の事を"邦幸"と呼んでいるようのも聞こえて、本当に別人なのではないかと思ったが、あり得ないと思ってそんな考えは捨てるようにした。


----- * ----- * -----


 それからしばらくしたある日曜日、マンションの近くで交通事故の音がした。

 大きな大通り沿いにあったため、事故を起こす場面はよく見たことがあったが、今度のそれは車同士がぶつかり合ったため、とてつもない音がなり、典子の住むマンションにも響いた。すぐに救急車などがやって来て現場が騒然としているのが、マンションの窓からも見えた。


 しかし、それよりも変だったのは、邦幸が唐突に自室で大声を上げた事だった。


「事故っ?!事故だってっ?!あいつが事故に遭ったっ?!それはホントかよっ!!す、すぐそこだって言うのかっ!」


 その声があまりにも大きかったので典子は邦幸の部屋まで来た。


「ど、どうしたんだい、邦幸っ?事故ってなんだい?お前、誰か友達が事故にでもあったのかい?まさか、今起こった事故のことかい?」


 典子がそう言った時には、扉を開けて邦幸が出てくるところだった。


「み、見に行くの……かい?」


「ちっ、うっせぇなぁ。俺が何処行こうと勝手だろうがぁ、いちいち関わるんじぇねぇよっ!」


「そ、そうだね……、いってらっしゃい……」


 典子は邦幸が事故現場に向かったのがマンションの窓から見て分かった。事故現場を見て、酷く気落ちしているのだけが分かった。そして、すぐに戻って来た。


「お、おかえり……、友達はどうだったんだい?」


 しかし、典子の質問には答えず、邦幸は苦虫を噛みつぶしたような顔をしていた。


「んだよっ!死に体じゃねぇかっ!使えると思ったのにっ!あぁぁっ!」


 邦幸は大声で怒鳴るだけだった。


「そ、それはどういう意味なの?」


 しかし、やはり答えはいつも通りだった。


「お・ま・えと関係ねえって言ってるだろっ!クソがっ!」


「……ご、ごめんよ、そうだね」


----- * ----- * -----


 更に数ヶ月経った頃、邦幸は珍しく上機嫌になっていたのか、その声が大きかったのでリビングに居た典子にも聞こえた。


「えっ!津名の奴、戻って来やがったっ!笑えるっ!さっすがスポーツ万能っ!ちと学校に行って様子を見てくるかぁっ!」


 更にその晩、何と登校すると言い出した。


「ババア学校行くわ、また申請しておけよ」


 典子は、引きこもったままでどうなってしまうのか心配だったため、邦幸が学校に行くと言っただけで嬉しかった。


「そ、そうっ!登校するのね。お弁当準備しないとね。し、申請っ!そうね、学校に申請するわっ!」


「要らねぇよ、クソ弁当なんてがっ!金よこせ、パンを買うから」


「……」


 翌日、邦幸は母親の差し出す金を盗むようにさっと掴むと、さっさと学校に向かってしまった。


「い、いってらっしゃい……」


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