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異端を狩る者の詩は誰も歌わない  作者: 大嶋コウジ
ワールド壱の二:嫌になったら生まれ変われば良いんじゃね?
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観察する者①

 螢田ほたるだ 邦幸くにゆきは、何処にでもいるような高校生だった。

 顔は特に可も無く不可も無く、勉強もそこそこでき、運動も不得手のものも無く、体育もそこそこの成績だった。つまり、何事も始めは熱心に取り組むがすぐに飽きてしまう性格だった。

 自宅は両親がローンを組んで買ったマンションであり、その一部屋を自分に与えられた。兄弟もいないため、自室は完全に自分だけの王国だった。両親に隠れて何でも出来たし、友達を呼んで夜遅くまで遊ぶこともあった。

 与えられたものだと気づかない国王は、気分屋であり、朝起きるときも時には両親が驚くぐらい早い時もあれば、遅刻ギリギリに起きることもあった。


「邦幸、早く起きなさい。学校の朝礼が始まる時間でしょ?」


 しかし、今朝は全く起きなかったため、母親である典子は、心配になって息子の部屋の前まで来て声をかけた。この頃、邦幸は、学校に行くのが面倒になったと言い始め、自室からリモートで授業に出ることが多くなった。だからなのか、すでに朝礼ギリギリの時間だった。


「……もう起きているのかい、邦幸?邦幸?」


 母親は子供を心配していただけだったのだが、邦幸は彼女に対して罵声を浴びせた。


「うるせぇ、ババアッ!」


 母親に対してこんな言い方をし始めたのは、いつからだろうかと典子は思った。


「昨日も夜までゲームしていたでしょ?そんなんじゃ、大学にも行けないでしょ?」


 典子も思わず、切り返してしまったが、それは邦幸に取っては逆効果だった。


「うっせぇって言ってるだろうがぁっ!ざっけんな、ババアッ!引っ込んでろっ!」


「何て言い方をするのっ?貴方そんな子じゃ無かったでしょ?一体どうしたのよ」


「消えろって、言ってんだろっ!」


 螢田の母親はリビングに向かう時、このまま息子はどうなってしまうのだろうかと思った。

 今までは反抗期も無く、親も心配するぐらい大人しい子だった。しかし、ある日から突然感情を抑えられなくなって、キレることが多くなった。


 そのきっかけを典子は考えてみたが、思い当たるとしたら同じマンションに住んでいた幼馴染みの富水とみずという友達と会わなくなってからぐらいだった。しかし、因果関係は全く分からなかった。


 同じマンションに住んでいた富水の家は別フロアだったが、自然、息子の邦幸と仲良くなった。

 以前は良く遊びに来ていたのだが、全く来なくなってしばらくして、マンションの住人をも戦慄させるような事件を彼が起こした。


 富水が、自分の父親を殴り殺してしまう事件を起こしたのだった。


----- * ----- * -----


 富水とみず 大輝だいきは子供の頃から目鼻立ちが良く、女性からも良くモテていた。性格も暴力的と言うことも無く、螢田 邦幸のところに遊びに来るときも丁寧に挨拶もするぐらい爽やかな少年だった。そんな彼が親を殺してしまうなど、典子も含め、マンションの住人達にも未だに信じられなかった。


 のちにテレビなどの報道から幼い頃から大輝は、父親から殴る蹴る等のDVを受けていたということが分かった。典子も挨拶をしたこともある大輝の父親は大人しそうな人だった。その父親がDVをしていたなど同じく誰もが信じがたかった。


 事件は、息子の大輝が父親からの暴力に耐えきれず反抗して、椅子を使って頭部を打撲させたのち、包丁でめった刺しにしたのだと報道された。このため、しばらくの間、マンションの周りを報道陣がやって来て、住人達は落ち着くことが出来ない日々が続いた。


----- * ----- * -----


 知り合いによる突然の刑事事件であり、典子も心境穏やかではない日々をしばらく送った。息子は友達が事件を起こしたことにショックを受けて可笑しくなってしまったのだろうと理解していた。


 しかし、思い起こすと、そんな事件の起こる少し前から息子の様子が変わってしまったような気もしていて本当にそうだろうかと思うこともあった。

 ある日、息子が変なことを典子に聞いた。


「おい、僕の通帳は何処にありますか?」


 普段なら、"お母さん"と呼ぶ息子が、いきなりぶっきらぼうに自分を呼ぶので驚いたのだった。しかも、自分の通帳の場所が分からないと言ったので、どういうことだろうかと思った。


「不思議な事を聞くのね。私は知らないわ」


「ちっ、使えねぇな」


 舌打ちした事など無かった息子だった上に酷い言いようだったので、典子はもう一度聞き直した。


「えっ?今なんて言ったの?」


「何でもない。んじゃ、パソコンのパスワードを知ってる?」


「し、知らないわ……。私はパソコンなんて使わないし……」


「知るわけ無いか……。んでいつも使ってるくせにパスワードなんて付けるんだよ……。ちょーイラつくぜ、フォーマットしちまうか」


 邦幸は普段から使っている自分のパソコンのパスワードまで分からないと言いだした。


「ちょ、ちょっと、邦幸っ!何処行くの?」


 更に典子は普通に息子の名前を呼んだはずだが、またしても不思議な反応を示した。


「あん?邦幸……?あぁ、俺の名前かっ!俺の部屋に行くんだよっ!」


 そう言って、息子は自室に戻ったのだが、典子には訳が分からなかった。


 しばらくして、典子は息子が通帳のありかが分からなくなってしまったのだと思って代理で通帳を作り直してあげた。


「……おぉ、やるじゃねぇかっ!」


「カードのパスワードは、○○○○よ」


「分かったぜ、ありがとよ。おばさん……じゃないか、お母さん」


「……いいのよ」


 母親は何故か自分をおばさんと言った。すぐに言い換えたが違和感を感じ、悪いとは思ったが扉の前で息子の独り言を聞くことにした。


「あぁ、んだよ、あいつ、全然貯金ねぇじゃねぇかっ!」


(あいつ……?どういう意味かしら)


 また、別の日にもリビングで夜食を片付けている典子のところに邦幸がやって来て不思議な事を言った。


「おい、俺のお小遣いは、いくらなんだよ?」


「え、えぇ?三千円でしょ?」


「やっすっ!ありえねぇだろっ!一万にしろよ」


「そ、それはお父さんに相談しないと……」


「あん?」


 この時、典子は初めて息子に恐怖を感じた。

 邦幸は、自分に対して暴力を振りかねない恐ろしい目をして睨んでいた。子供の頃の純粋な目と余りにも違っていて泣きそうになった。結局、典子は父親には何も言わず小遣いを増やしたのだが、本当にこの子は自分の息子だろうかと思った。


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