文化祭委員会③
大寬がまとめた会議の資料はメールですでに生徒会に送付されていた。というか、すでに会議の内容は音声データから文字データに変換されていて生徒会ではその内容を把握していた。
翌日の生徒会室で生徒会長は歯ぎしりをしながら、その内容を読み返していた。
「……ギ、ギギギ。何度読んでも腹が立つっ!何だこれはっ!ぼ、僕らは要らないじゃないかっ!」
副会長の荒本は、長田をなだめるに必死だった。
「んなに怒るなよ、前向きな意見が出て良いだろ?別に俺達が不要なんて誰も言ってないぜ?」
今日はリモートではなく出勤していた豊岡も同室に居て、同じく長田をなだめた。
「そうだぞ、長田君。津名君も流れで会議を仕切っただけだ。彼も十分謝っていたんだ。先輩として許してやってくれ」
「し、しかし、先生……」
長田は教師に説得されたが納得がいかず、しかし、怒りだけは抑えようとした。すると突然、教室の扉が開いて書記の吉田が現れた。いつも大人しい吉田が、今日は更に大人しく見え、恐縮しているように見えた。
「吉田か、珍しく遅かった……って……!!!」
その理由はすぐに分かった。
「ご、ごめん……、こ、この人達に捕まってしまった……んだ……」
「つ、津名っ?!」
吉田の横には津名が真面目な顔をして立っていて、長田は憎むべき相手の登場で顔から汗が出た。
「ど、どどど、どういうつもりで来たんだっ!!」
そのため、生徒会長としてはあるまじき事にとっさに怒鳴ってしまった。
「昨日の無礼を謝りに来ました」
「ふぁっ?!な、なんだとっ!」
「自分が一年生と分からず、先輩のことを考えもせず、出しゃばりすぎました」
生徒会の面々は、自分の学年を分かっていない点で何を言ってるんだと思ったが、頭を下げて謝っているためもどかしくなった。
「大変、申し訳ございませんでした。今後も我々をご指導ご鞭撻のほどお願いいたします」
津名の横には大寬もいて、彼女も深々と頭を下げた。
「私からも謝らせて頂きます……。昨日は大変申し訳ありませんでした」
大寬は、元から学校一美しいと言われ、ネシュレという宇宙の女神が宿って更に美しさに磨きがかかっていた。お嬢様育ちだけでは説明出来ないような優しさのオーラを感じる者も居て、学校中の話題になっていた。
その彼女が目の前に現れて、その胸がシャツの隙間から見えそうになって生徒会の男子達は自然と鼻の下が伸びた。
しかし、その横には津名と一緒に失礼だった子供がフンとそっぽを向いていた。
「余は知らんからな。子供の権威……モゴモゴ」
その子供の口を急いで両手で塞いで後ろから頭を下げた茶髪の西洋人のような女性が頭を下げた。
「"妹"が失礼を働いたようで申し訳ございませんでしたっ!」
珠川えんの色っぽさも学校では評判になっており、彼女のはち切れんばかりの胸を見て、生徒会男子達の視線はシャツから見え隠れするブラに目が移っていた。
二大美人の登場で生徒会室は彼女らの匂いが充満して怒る気持ちも自然と消えていった。
「ぼ、僕たちだって、そんな大人げないわけじゃない……」
長田はそう言いつつも二人の胸元に目が向いていた。
「ふん、ただのエロガキ共が……フガフガ……」
「お、お姉……じゃなくて、妹ちゃんっ!なんだそれ?……な、何でもありません、あはは……」
珠川えんは、すみの口を慌てて押さえて混乱し、意味不明な事を言ってしまった。
顔を上げた津名は、怒りのオーラからピンク色のオーラになった長田を見て一安心すると、また、頭を下げた。
「引き続きよろしくお願いします。では我々はこれで失礼いたします」
「あ、あぁ、君の意見は貴重だからな。またよろしく頼むぞ」
長田は先輩面をしてそう言った。津名達は更に頭を下げて、顔を上げるときびすを返すと教室に戻っていった。
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「ほらね、大成功だったでしょ?」
大寬は教室への帰り道、シャツの第二ボタンを閉めながらそう言った。
"そうじゃな、さすが大女神ワンた"
「麻帆っ!」
"ヒッ!"
しかし、津名は少し不満そうにしていた。
「あのやり方は感心しないよ……」
「もうっ!あんたのせいでしょっ!!」
「で、でもさぁ……。それに元の大寬さんだって恥ずかしいでしょ?」
「……そ、そうですが、少しお役に立てて嬉しいかも……です……」
表に出て来た元大寬が顔を赤らめながらそんなことを言ったので日高は驚いてしまった。
"い、意外な事を言うお嬢ちゃまっ!"
「ほらねっ!」
「ほらねって……。ネシュレが無理矢理、彼女の身体を使っただけだろ」
「知らないわよっ!」
「それに彼らを誘惑するように念を送ってたろ」
津名は大寬が念力のようなもので彼らを操っていたのを知っていた。
「良いじゃない、別にっ!何度も言うけど、イフレのせいでしょっ!!」
「はぁ~……」
彼は勝手気ままな大寬の中にいるネシュレに呆れてしまっていた。そして、彼らの後ろを歩いている珠川すみも不満そうにしていた。
「こいつ(珠川えん)まで連れ出しやがって、まったく……。余がなんであんなエロガキに頭を下げなければならないんだよ」
「お姉ちゃんっ!私達は津名君の家に居候している身なんだよ?少しは助けて上げないとっ!」
津名は、自覚はあるんだなと思った。
「ふん、よく言うよ。部活で散々こいつをからかったくせに」
「それは謝ったじゃんっ!ねぇ、津名君」
「あはは……」
「……良いから、早くシャツのボタンを閉めなっ!お前の身体を弄んだみたいで不愉快なんだよ」
「減るもんじゃないし、気にしない気にしないっ!」
津名は、自分で言っちゃうのかと思ってしまった。
ともかく、色気を使った生徒会の懐柔作戦……ではなくて、謝罪は成功に終わった。
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その後、男子三人は生徒会室で鼻をクンクンとさせていた。
「クンクン……、はぁ~、良い匂いが未だ残っている……」
「そ、そうだな……」
「二大美女だったもんね……」
「はっ!な、何でもないっ!文化祭文化祭っ!」
長田は我に返ってそう言ったが豊岡は苦笑いをしていた。
「若いなぁ……」
生徒会室は女性の匂いで色気満々となってしばらくは仕事にならなかったという。




