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異端を狩る者の詩は誰も歌わない  作者: 大嶋コウジ
ワールド壱の二:嫌になったら生まれ変われば良いんじゃね?
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文化祭委員会②

 生徒会長の長田の説明を聞いていた津名は、彼の話に納得がいかないのか、突然、立ち上がると自分の意見を言い始めた。


「あぁ~っ!!例年通り、例年通りってっ!自分達で決めるものは無しですか?自分達の文化祭ですよね?」


 大寬は、こいつは何を言い始めたのだろうかと思って慌てて津名を座らせようとした。


「ちょっと、津名っ!や、止めなさいっ!!長田会長、申し訳ございませんっ!ほら、座りなさいって……」


 その後ろで珠川すみは良くやったと思ってニヤニヤとしていた。


「いや、大寬さん。これじゃあ駄目でしょ……?」


「わ、分かったから座りなさいってばっ!」


 津名は座ろうとせず、そんな彼を長田はじっと睨むように見つめ、手元のモニターで名前を照らし合わせて確認した。


「え~っと、1年3組の津名さんですか?あぁ、フットサル部の……。何か意見があるのでしょうか?それなら手を挙げて発言するなど……」


 しかし、津名は最後まで聞かずに突っ走っていった。


「豊岡先生は、創造を重視して欲しいとのお話しでしたが、先ほどから"例年通り、例年通り"とテンプレばかりじゃないでしょうか?コピペ文化祭ですか?」


 コピペ文化祭という言葉で笑いが起こった。それに合わせて長田のこみかみの血管は切れそうになり始めていて顔が引きつった。


「わ、私達は一番問題のない方法で進めたいのですよ……。それが実績を大事にするということなのです……。それをコピペと言われるのは、ししし、心外です……。い、一体どういう意味で話しているの……ですか?」


「実績は大事ですが、それでは生徒の自主性が無いではありませんか?生徒達は何を作っているんですか?その空欄に名前を埋めることが創造ですか?大体、テーマですら自分達で決められないなんてありえないと思います。文化祭は機械の決めたとおりに進めるものでしょうか?」


 日高には、長田の血管が切れた音が聞こえた。


"今、プチって音がしたような……"


「テ、テーマはAIが様々な社会事情を分析して決めているんですよっ!こ、これだって、れ、例年通り……ですよ。と、ともかく、今までの内容を踏襲して何が悪いと言うのですかっ!」


 長田は"例年通り"と言うのを一瞬躊躇し、それを誤魔化すように口調も段々と強くなり始めた。


「このままでは問題が発生したときに解決できませんよ。僕には文化祭を考えていないようにしか見えません。大事なイベントですよね」


「だ、だだ、大事なイベントだから……。あぁぁぁっ!!き、君は僕たちを侮辱するためにここに居るんですかっ!!大体、一年生の分際で何を言っているんですかっ!フットサルで有名になったからといって……」


「一年とか二年とか三年とか、ましてフットサルなど関係ありません。もちろん、侮辱ではありません。文化祭を前向きに検討するための提言したのです。考えて行動しましょうと言ってるのです」


 討論会になってしまって、大寬は頭を抱えていた。しかし、津名が急に大寬を見つめた。


「……な、なによ」


「僕って一年生だったの?」


「あんたねぇ……」


 そんなことも知らなかったのかと大寬はあきれ果てた。


「君は僕たちが考えていないというのかっ!!な、何なんだ、君はっ!!!大体、その制服はボロボロじゃないですかっ!」


 遂に悪口まで出始めて、完全に長田の負けが確定したとき、珠川すみも声を発した。


「余……、私もこいつ(津名)に賛成だね。去年もそうだったが、つまらん会議を今年もやりやがって。お前たちは頭が無いのかい?まあ、いいさ、津名よ、自分達のクラスの方でやれる事をやれば良いんだよ」


 失礼極まりない子供の発言だったが、他の生徒達はあっけにとられて沈黙が流れた。そこに顔を青ざめさせた日出が立ち上がった。


「す、すみちゃんっ!先輩達の前で何て事を言うんですかっ!!!み、みなさん、ごめんなさい、ごめんなさい」


 彼女が珠川すみの代わりに何度も頭を下げた。しかし、長田の怒りは頂点を迎えた。


「わ、わわわ、私はみんなから選ばれた生徒会長なんだっ!」


「だから何なのさ、下らん子供の権威なんかを振りかざすんじゃないよ」


 小学生が高校三年生を子供と言い切ったので皆は訳が分からなくなり、長田は顔を真っ赤にした。


「僕はもう知らないっ!!!荒本っ!後は任せるっ!!!」


 長田は副会長に責任を押しつけて、会議室から出て行ってしまった。


「な、長田っ!出て行っちゃうとかあり得ないってっ!!はぁ~……皆さん、また開きますので連絡を待って下さいっ!お、お~いっ!」


 他の生徒会メンバーも長田の後を追って出て行ってしまった。会議室は嫌な沈黙の空気が流れ、津名はポツンと立ったまま目をパチクリとしていた。


「大寬さん、なんか不味かった?」


 大寬だけでは無く、この場に居た生徒達は一斉にため息をついた。


「はぁ~……、バカバカバカッ!!」


 日高もボ~としてしまっていた。


"麻帆ちゃんも言葉を失う"


 電子黒板に映っている豊岡もあきれ顔だったが、怒るわけでもなく苦笑いになった。


「いやはや、津名君……。あれはやり過ぎではないかね?」


「えっ!なんかごめんなさい……」


「あはははっ!しかし、コピペ文化祭は良かったなっ!」


「え、えぇ、え~っと……」


「確かにそういう面もあるが、彼らも放課後に残って必死に企画しているのだよ。君にはそれを分かって欲しいな」


「は、はい。そうですよね……。ただ、私としては高校は三年しか無いのにこれで良いのかと思ってしまって……。もっと青春を謳歌して欲しいというか。あれでは事務的すぎて何にも面白みが無いというか……。先生の意図も忘れられてしまっていますし……」


「……はぁっ!君は中年のような事を言うんだな」


「そ、そうですか……?」


 これには皆、苦笑していた。


「しかし、君の言う通りだ……」


 豊岡はそう言うと一瞬目を閉じて何かを考えたようだった。


「他のみんなも今しか出来ない事をするのが良いだろう。君たちは失敗しても良いのだ。私の歳になると失敗できなくなってしまうのだよ……。無論、自分達の考える成功は目指して欲しいが、遠慮無く何でもやれば良い。ここでの経験は、君たちのために必ずなるだろう。しかし、もしも、分からないことがあれば私たち大人を頼って欲しい。我々はそのために居るのだから。……あぁ、しまった。また長話になってしまったかな?」


 豊岡の皮肉に津名は恐縮した。


「す、すみません……」


「津名君、珠川さんの言った通り、教室で面白い企画をすると良いだろう。長田君には私から謝っておこう」


「は、はい……。よ、よろしくお願いします……」


 すると、津名と豊岡の言葉で生徒達にやる気に火がついたのか、何処かのクラスの代表達が発言し始めた。


「あ、あのさ……、文化祭の飾りはロボットでも良いんだけど、デザインは直した方が良いと思うんだ……、コピペだろ?美術部の人、どうかな?やれない?」


 この場に居た美術の部長はニコリとした。


「うん、それ良いねっ!私もどうかなって思ってたんだよねっ!部員達にも聞いてみるね」


 別の者も手を挙げた。


「津名だっけ?話していいか?」


「う、うん」


 津名はどうして自分に確認を取ったのだろうと思った。


「テーマはさ、公募したらどうかな」


 それが良いと津名は言おうと思ったが、別の女生徒が諸手を挙げて喜んだ。


「そうよね、それ良いねっ!私がみんなにメールするねっ!」


「津名、俺も言いたいことがあるんだけど、いいかな……」


 黙っていた者達も色々な意見を出すようになり、津名は流されるまま議長となり色々な意見を聞きながらまとめた。大寬は電子黒板にそれらを記述していった。

 豊岡は黙っていたが笑顔でこれらを聞いていた。


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