文化祭委員会①
この時代、人口減によって学生の人数も少なかった。そのため、同じ校舎に高校、中学校、小学校までが一緒に勉強をしていて、この校舎もそれに合わせて巨大であった。前述したとおり、この学校は以前使われていた校舎を再利用していたが、元は十二クラス三学年、更に六クラス三学年分の中学校まで併設しているようなマンモス高校の校舎だった。
このように学生も少ない状態のため、文化祭は中学校と合同で行われるイベントなっていて、更に小学校は高学年の有志が参加可能だった。
その日の放課後は、文化祭委員会が集まることになっていた。津名と大寬が会議室に入ると、すでに生徒会室の横にある大きな会議室には各クラスから代表に選ばれた人達が集まっていた。
その会議室の後ろの方に何故か珠川すみがちょこんと座っていて、津名と大寬を見つめていた。二人は彼女の横に座ると大寬が声をかけた。
「すみちゃん、どうしたの?文化祭委員会なの?小学校は委員会をクラスから出さないって聞いていたけど」
「余は小学部の生徒会長なんだよ」
「あら、すごいじゃない」
「余はやりたくなかったが、こいつが推薦しやがってな」
珠川すみは、そう言うと横に居てニコニコと笑う女の子に目配せをした。
その子は立ち上がると津名達に丁寧にお辞儀をした。お下げの彼女は、見るからに活発そうで珠川すみとは対照的だった。
「こんにちは、先輩っ!日出純子と申しますっ!すみちゃんがお引っ越しされた先にお住まいの方ですよねっ!」
「こんにちは、元気だねっ!大寬まやです。こっちが津名ほずみね」
「紹介が雑っ!酷いっ!日出さん、よろしくね」
「よろしくお願いしますっ!」
「日出は、余と違ってこんな陽キャラなのさ。生徒会長なんて自分でやればいいものを余に押しつけやがって。全く面倒なことさ」
珠川すみは推薦したことを恨んでいるかのようにそう言った。
「ま~たっ!すみちゃんったら、そう言うことを言うんだからっ!すみちゃんのすごさをみんなにも知ってほしいから推薦したのにっ!それから、自分の事を"余"なんて言わないっ!」
「あ~、はいはい。余……私は裏方が合ってるんだよ、な?津名よ」
「あはは……」
津名と大寬は苦笑いをしていた。珠川すみの身体は小学生だったが、魂は500歳以上も生きた老婆だった。知識と経験は小学生ではかなうわけは無かった。
そんな日出はまた珠川すみに怒り始めた。
「すみちゃん、先輩を呼び捨てにしちゃ駄目でしょっ!」
「はぁ~、やれやれ……。いつもこんな調子なのさ」
日高は日出を見て考え事をしていた。
"津名氏、年季の入ったすみちゃんを見破った日出ちゃんは、もしかしたら凄いんでないかい?"
"かもねっ!"
そんな会話をしていると、会議室の扉が開いて真面目そうな男子生徒が三人が入ってきた。
「あっ!生徒会の方々がお見えになりましたっ!はぁ~、憧れますっ!」
日出は彼らにうっとりとしていた。
彼らはT高校の生徒会長と副会長と書記三人だった。生徒会のためか、いかにも真面目そうにしていて背筋をピッと真っ直ぐにしていて、しわの無い制服にネクタイもピシッと決まっていた。
三人とも眼鏡をかけていて、それを三人が同時にかけ直す仕草をしたので、日高は笑いそうになったが我慢した。
"ぷっ!おっと……"
三人は電子黒板の前で止まると、先頭にいた生徒会長らしき男子生徒が声を発した。
「こんにちは。皆さん、集まって頂きありがとうございました。お座り下さい」
生徒達が座るのを確認するとそれぞれが自己紹介を始めた。
「私は本校の生徒会長である長田大輔と言います」
「こんにちは。副会長の荒本隼人です」
「しょ、書記の吉田浩之……です」
三人は座ると生徒会長の長田が話を始めた。
「それでは、2050年度の文化祭委員会を開催します」
「まずは豊岡先生、ご挨拶をお願いします」
長田がそう言うと、電子黒板に映像として豊岡が現れた。映像からすると五十歳は超えているように見えたが、優しい眼差しで生徒達を見つめているように見えた。
"こんにちは。主任教師の豊岡と言います。文化祭の担当となりました。さて、学校の役割も大きく変わって25年経ちました。覚えるだけの教育から創造性を重視した授業に変わってきました。始めは我々も苦労の連続でしたが、ここまでこれたと思っています。ご存じのようにほとんどの教師をAIに任せて、学校にいる大人の数も少ない状態です。このような中で皆さんの役割はより重要となっています"
「(そ、そこから……?)」
津名の失礼なコメントは豊岡にも聞こえているのか苦笑いをした。
「あははっ!これは失敬っ!歳のためか、つい長話になってしまうのですよ、津名ほずみ君」
津名はまたもやってしまったと顔を赤らめた。大寬はアホかと言った顔をしていた。
「皆さんの文化祭での活動は社会に出てからもきっと役に立つはずです。是非ともやり遂げて下さい。私からは以上です」
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豊岡が話し終わると津名はすぐに日高に声をかけた。
"日高さん?"
"はい?"
"この先生は何で僕の名前を知ってるの?"
"モニターに名前が表示されているのでは?"
"へ~……、えっ?ど、どゆこと?"
"顔認証で……"
日高が説明を始めようとしたところで大寬が止めに入った。
"あんた達、止めなさいっ!"
"ま、まぁ、あとで説明するかいな"
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「豊岡先生、ありがとうございました」
長田が豊岡に礼を言うと、長田が文化祭の準備に関する説明をした。
「テーマはAIによる選定結果から"未来"となりました」
"はぁ?選定?なにそれ……"
津名は、疑問に思ったが話を聞くことにした。
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「例年通り、高校の校舎を中心にして出し物を作ってもらいます。学校全体で立体映像機能を使えるようにします」
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「例年通り、周辺にお住まいの方には去年の内容を使ってメールで連絡済みです」
電子黒板には、メールの本文らしきものが表示されていた。
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「例年通り、テーマに合わせた装飾は過去のデータから、これに決まりました。装飾はロボットに任せます。皆さんは、ロボットにぶつからないように教室で周知をお願いします」
以前にデザインされた校舎を彩る装飾品が黒板に表示されていた。
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「例年通り、教室での出し物は皆さんの方で決めて頂ければと思います。共有フォルダに過去に実施した出し物のファイルもありますので、こちらを参照して下さい。部活の方も同様にお願いします」
これも黒板にURLが表示されていて、各人のタブレットに同時に表示されていた。
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「それでは、例年通り、担当を決めていきます」
電子黒板には昨年に実施されたスケジュールが表示された。名前の欄は空欄だった。
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一通り長田は話し終わるとドヤ顔になったが、突然机を叩いて立ち上がった者が居たので一瞬怯んだ。
「あぁ~っ!!例年通り、例年通りってっ!自分達で決めるものは無しですか?」
大寬と日高は、津名を見つめて何をしてるんだこいつはと思った。




