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異端を狩る者の詩は誰も歌わない  作者: 大嶋コウジ
ワールド壱の二:嫌になったら生まれ変われば良いんじゃね?
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美術室

 美術室で結構な大声を出した津名だったが、クラスメイト達は、誰も相手にしていなかった。


"誰も反応してくれない……、酷いっ!んでもさ、日高さんっ!なにこれっ!み、みんな何してるのっ?"


"みんな、津名氏の大声に慣れてしまったようだな……。んじゃないか、時代錯誤君よ。これが現在美術じゃいな"


 日高がドヤ顔で手を広げた先にいる生徒達はペンを使って空中に思い思いに絵を描いていた。小さいものから大きいものとそれぞれだったが、我々の時代からすると立体映像を書いているようであり、それを粘土のように指などで成形もしていた。


 あっけにとられていた津名に、またかと大寬もあきれ顔でペンの置いてある場所を指差した。


「はぁ~、またか……。あそこにあるペンを持ってきなさい」


「大寬さんが反応してくれたっ!あ、あれね」


 津名は言われたとおりペンを持って来ると、大寬に説明を求めた。


「んで?んで?どうやって書くのっ?」


 子供のように目を輝かせていた津名を見て大寬は面倒な顔をした。


「説明は麻帆の仕事でしょっ!」


「嫌そうな顔をして……。教えてくれないとか、酷いっ!」


 日高はやっぱり来たかと思った。


"説明はやっぱりあたしか~い。人使いの荒いわんた女神だなぁ……"


"何か言ったっ?"


"な、なに~も、言ってませんです。わんた様"


"あん?"


"ひ、ひぃっ!!"


 日高は皮肉を言ってみたが大寬に勝てるわけもなくあっけなく大敗した。しかし、取りあえず気持ちを落ち着けると津名に説明を始めた。


"……まずはペンにボタンがあるから押せば良いぞよ"


 言われたとおりに津名は、ペンのボタンを押すと指紋で認証されて、立体映像が表示された。


"前の津名君が書いた絵だぞ……、しかし、う~ん……"


「おぉっ!」


 しかし、その絵は大寬のものと重なってしまっていた。


「ちょっと、邪魔でしょっ!移動させなさいよ」


「えっ、い、移動?」


"触って移動できるんだぞ"


「んなバカなっ!」


 驚きつつも津名が立体映像に触れると、そのまま移動出来たのでまたも驚きの声を上げた。


「うへぇぇぇっ!触った感覚は無いけど、くっついてくるから触ってる感じがするっ!すごいっ!」


"しっかしさ~、前の津名君は、なんつ~ヘッタクソな絵を書いていたんだっ?"


 驚いている津名よりも、日高は前の津名の書いた絵を見て笑いのツボに、はまり始めた。


"ぷっ!や、やばいぞ、わ、笑いが……、くくく、あははははっ!ひ、人の絵をバカにしてはいかんが、こりゃ、酷いんじゃないかいなっ?くくくっ……"


 確かに津名の絵は、何かの動物を書いているように思えたが、立体映像にもかかわらず足も平行に四本ボコボコと出ているだけで何が何だか分からなかった。ただ、鼻と思われるところだけが長く伸びていて、耳らしきものが大きく出ていたので、ゾウを書いているのだけは何となく分かった。


「イモムシかも……」


"いも、いもむしっ?!鼻の長いっ?あははははっ!だ、だめだめ、やめてぇぇ、苦しいっ!!あははははっ!ヒッヒッヒッ!ククク……"


 日高の爆笑は誰にも聞こえていなかったが、大寬と珠川には聞こえていたので睨まれた。


"うるさい、麻帆っ!"

"さっすがにうざいぞぉ"


"ご、ごめん……、でもさ~、ククク……"


 彼女は涙目になって口を押さえた。


「おぉ、触ると動くっ!」


 津名は立体映像をポンポンと触って、それに反応してポコンと揺れて動く絵に感動していたが、その揺れ方に日高は耐えきれなくなった。


"ゆ、揺れてるっ!プヨプヨって……、ぷぷぷっ!ひぇひぇひぇ……、ヒッヒッヒッ!"


"……わ、笑いすぎ。でも、これさ、触ったら何か出てくる、みたいなこともできるの?"


"ヒッヒッヒッ!……ででで、出来るぞよ、あ、後で教えるね……。ぷっ!そ、そんなにプヨプヨ動かさないでぇぇぇ、か、顔?顔がぶよぶよって、ひぇひぇひぇ……、い、痛い、お腹痛い……、た、耐えきれん……、ぷぷぷ……"


 腹を抱えていたが日高は、腹筋の痛みに耐えきれなくなって他の人の作品に目を向けた。


"はぁ~、はぁ~、疲れた……。しっかし、テーマは自由だったからかもだけど、体育会系君な蓮沼君も酷い絵じゃな、や、やば、それもヤバいっ!ぷぷぷっ!"


 遠くの方で蓮沼が同じように苦戦しているのが津名にも分かった。丸い円に周りにごちゃごちゃとした線が引っ張ってあるだけで、津名には円盤にしか見えなかったが、後で聞いたら朝日だと言っていた。


"は、蓮沼君、どどど、どんまい、ひぇひぇひぇ……、もう、駄目……し、死にそう……、死んでるけど、あははははっ!ヒヒヒッ!"


 静かな美術室は、霊体の笑い声がいつまでも響いていた。


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