ダメダメのプ~
珠川えんの策略によって、津名は自分の置かれた立場に焦りを感じていた。左半分の上半身が動かない上に視覚、聴覚も半分しか使えない状態だった。
「や、やるしかないっ!と、言いたいところだけど……」
試合は、二手に分かれたチーム戦となった。津名はAチームとなり、それと分かるように彼は赤色のドライメッシュビブスを着ていた。
「がんばれ~っ!」
「津名く~んっ!」
「ほずみく~~んっ!」
「きゃ~っ!」
黄色い声援を聞きながら、津名は軽い気持ちで参加したことを深く後悔していた。
「あれ、変な汗が出てきた……」
試合が始まると、蓮沼はキャプテンらしくフォーメーションを叫んだ。
「イプシロンッ!」
しかし、津名は何を言ってるのかさっぱり分からなくて戸惑うしか無かった。
「な、なになに?!」
「津名っ!ゴール前だってっ!」
「は、はいっ!」
訳も分からず蓮沼の指示で津名はゴール前に移動した。
「洗足っ!津名にボール回せっ!」
完全にキョドっている津名のところに洗足からのボールが飛んできたが、津名はトラップすら出来ず、ボールはそのままGKにキャッチされた。
「あ……」
蓮沼は明らかに動きのおかしい津名を見て変だなと思った。いつもなら、ボールをそのままゴールに押し込む強引さがあったからだった。
「……津名?」
応援していた女子達は、嘆きの声を上げ、復帰したばかりだから仕方ないと労った。
「あぁ~」
「どんま~い、津名君」
「気にせず、がんばれ~っ!」
「そうだよ、津名く~んっ!」
逆に珠川えんは、そんな津名を指を指して笑っていたため、応援女子達に睨まれた。
「お姉ちゃん、あいつキョドってるよっ!あははははっ!パねぇヤバさっ!」
しかし、さすがに姉の珠川すみも彼女を咎めた。
「えんっ!笑いすぎだよ」
珠川えんは、口を押さえた。
「お姉ちゃん、ごめん。笑いすぎた……ぷぷぷっ!」
とはいえ、その後の津名はドジを通り越して、完全なド素人プレイが続いた。
トラップできない、ゴールを決めるためのパスも素振り、ディフェンスの場面でゴールまで立ったまま、挙げ句は途中で転ぶ、四秒ルールも分からず棒立ちなど、散々だった。
大寬はムッとして黙っていて、日高は頭を抱えていた。
"あぁ~、やっぱり、ダメダメのプ~じゃいな~……"
こんな感じで、前半戦はあっという間に終わった。蓮沼は、息を切らせている津名のところに来て声をかけた。
「津名、どうしたんだよ?」
「え、え~っと……、ちょ、調子が悪いなぁ……、あ、あはは……。ハァ、ハァ……」
津名は、息を切らせていて顔を青白くしていて答えるのやっとだった。
「後半、行けるか?」
「だ、大丈夫だよっ!」
「病み上がりだし、無理するなよ」
しかし、ハーフタイムが終わって、後半が始まっても津名は良くなるどころか、ますます動きが悪くなっていった。走るのもやっとで、その速度も明らかに遅くなり始めていた。それに伴って黄色い声援のテンションも段々と低くなっていった。
「あんなの津名君じゃないよね」
「今日は調子悪いのかな」
「帰ろっか……」
こんな調子で徐々に応援女子達は居なくなっていった。
「ハァ……、ハァ……、ハァ……」
更に試合が進むと、津名は息が切れて考えもまともの出来なくなり始めていた。その上、視力が極端に落ち始め、目の前が暗くなり始めた。
「あ、あれ……?お、おかしいぞ……目の前が暗くなってきた……?そうか……、夜になった……んだ……な……」
無論、夜になったわけもなく、津名は力尽きて倒れてしまった。
「つ、津名っ!!」
蓮沼と部員達は、津名のところに慌てて集まったが、彼は息を荒くしていて今にも死にそうだった。
「や、やばいっ!酸素持ってこいっ!」
蓮沼が仲間達にそう指示したが、いつの間にか一人の女生徒がコートに入って津名を腕で持ち上げた。その素早さに誰もが目を疑った。
「えっ?だ、大寬さんっ?!い、いつ入ったの?……ちょ、ちょっと……?津名を……どうするつもり……」
そして、そのままさっさとどっかに行ってしまったため、部員達はあっけにとられてしまった。
「……い、行っちゃった……」
大寬の後ろを珠川えんとすみ、そして、日高が後を追った。
----- * ----- * -----
それらをフェンスの向こうから見ていた者がもう一人居た。
「ちっ!津名ってあんな貧弱になったのか。あれだと使えないじゃん……」




