はじめてのネット検索
そして放課後、津名はフットサル部に移動することにした。そんな彼の肩を蓮沼はポンと叩いた。
「んじゃ、先に行ってるぜ~っ!」
「うん、分かったっ!」
津名は軽快に挨拶した。それを大寬と珠川、そして日高がじっと見つめていた。大寬は不安そうな顔をしていた。
「まやってば、あんたが深刻になってどうすんよ?心配しすぎじゃね?」
「だって……」
"でもでも、フットサルについては私が教えましたっ!ね、まやちゃんっ!"
「うん……」
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昼休みに津名は、いつものように屋上に籠もって、日高に教わりながらフットサルについて調べていた。
"そうか、こんな小さなコートでサッカーをやるのか"
"そだね~"
"でもさ……"
"なんじゃいな?"
津名は不思議に思ったことがあった。
"何でサッカー部が無いの?"
"え~、どうしてだろ?あたしも分からんろん。でも、もしかしたらだけど……"
"うん?"
"サッカーって11人も必要だよね?"
"それが?"
日高が当たり前のことを言ったので津名は首かしげた。
"そんなに生徒はおらんからかも"
その言葉は津名の次の疑問を呼び起こした。
"そうだ、それも聞きたかったんだ。クラスって15人ぐらいしか居ないでしょ?"
"んだよ?それが?"
"しかも、それがたった四クラスしかないし……。一学年が四クラスだから学校全体で全部で十二クラスしかない"
"それの何処が変なんじゃいな?"
逆に日高は津名が何を言いたいのか分からなかった。
"昔は1クラスが40人ぐらいで12クラスもあったよ?一学年でだよ?"
"ふぁっ?!そんなにぃ?え、一学年でぇっ?!うそだぁ……、いやいや、学校の大きさ見ればそうかも"
"そうそう、空っぽのクラスばかりでしょ?この学校って。何でこんなに空き部屋が多いのかも謎だったんだけど"
"この学校の規模から考えれば津名君の言った人数も分かるぞ。ここは昔の学校を使ってるんだよ、人口が多かった頃のね"
津名は次の疑問が沸いた。
"昔の……?う~ん、今の日本の人口ってどれぐらい?"
"調べ方は教えたのにぃっ!"
"そうでした、先生"
津名はタブレットを使って文字を入力して検索しようとした。
"え~っと、「に」、「に」「に」、「な」のところを指で動かして……"
"う、うん、そうそう"
"「ほ」?「は」行だから「は」を下に指を動かしてっと"
"う、ううう、そそ"
"「ん」は?あれ、どこ?"
"ほら、「わ」のところじゃぞ"
"おぉっ!あったっ!よし、打てたぞっ!変換は、あ~、この候補をタップすれば良いんだよねっ!おぉっ!やったぞっ!"
文字変換の成功に喜んでいる津名の額に、唐突に消しゴムが飛んできてヒットした。
「痛いっ!ひ、酷い、大寬さんっ!」
その入力が余りにも遅いため、イライラとした大寬からの攻撃だった。
「遅すぎっ!おじいちゃんかっ!」
「なんだよ、一生懸命入力しているのにっ!てか、いつから居たのさっ!」
「音声で入力しなさいってばっ!」
"あ~、それは私的に決めていた次の課題だったのだぞ、まやちゃん"
「んだよ……、何音声入力って」
"え~っとね"
日高は音声入力について津名に教えた。
「えぇっ?!嘘でしょ?話した言葉で文字を入力できるの?」
"やってみるが良いぞよ"
「う、うん……、コ、コホン……、え、え~っと……」
深呼吸して息を整えている津名の右頬に、またしても消しゴムが飛んで来て、見事にヒットした。
「痛っ!ま、また飛ばしてきて、何なんだよっ!てか、いくつ消しゴム持ってるのさっ!!」
「なに緊張してるのよっ!……クスッ」
「初めてなんだから仕方ないだろっ!今笑ったな、酷いっ!」
"あたしは前に進まないことに問題を感じるぞ……、昼休み終わっちゃうぞ、わんちゃん……"
「ふんっ!な~んかイライラするのよっ!」
"本当にこの人は女神なのか疑問が沸いて仕方ないぞよ"
大寬は日高を睨んだ。
"ひっ!ま、またっ!"
津名はそれを無視して音声入力に集中していた。
「ボタン押してからだっけ……。あ~、に、にほんのじんこうは?」
やっと思い通りの検索結果が出て来て津名は感動して立ち上がった。
「ひょっ!すごいっ!こ、声が文字になってるっ!へ~っ!はぁっ!ちゃんと検索出来たよ、日高さん、大寬さんっ!」
「バカッ!」
"津名氏は成長してきているぞ。先生は嬉しい"
しかし、津名はその結果を見て真顔になった。
「えっ、3000万人しか居ないの……?僕が知っている日本の人口は一億二千万人だったような……」
「ま~た、勉強不足をさらけ出してっ!」
「人口は分かったけど……。どうして、こんなに少なくなったんだろ……?」
津名の疑問は続いたが、昼休みを終えるチャイムが鳴ってしまった。
「あ~あ……」
「戻るわよ」
津名はタイムアウトに肩を落としたが仕方なく、その場から二人とも消えた。取り残された日高はまたかと思った。
"んが、二人とも一瞬で戻っちゃうんだよな、どういう技なんだっ!まぁ、津名君がフットサルのルールを覚えてくれたから良いかな"
日高は壁をすり抜けながら教室に戻った。
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津名は胸を張って鼻息を荒くした。
「そうだよ、もうフットサルは怖くないっ!珠川さんからもらった部員の情報も頭に入ってるっ!」
大寬と珠川はそれを聞いてシラッとしていた。
「あっそ」
「ま、ガンバッテね」
「二人とも冷たい……」
ともかく、津名は教室を後にして一階にあるフットサルの部室に向かった。




