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異端を狩る者の詩は誰も歌わない  作者: 大嶋コウジ
ワールド壱の二:嫌になったら生まれ変われば良いんじゃね?
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もてあそばれ

 津名は主任教師に職員室に呼ばれ、死人認定されているため退学処分になると宣告された。その後、教室に戻ると学園祭の委員長に選ばれていた。


「はぁっ?!」


 津名がうろたえていると、丁度チャイムが鳴った。


「それでは、このクラスの出し物については、あとはお二人でお願いします」


 選任のために前に出ていたクラス委員の二人は、そう言うと教室をさっさと出て行ってしまった。


「え、え、えっ?!ちょ、ちょ、ちょ、ど、どういうことっ?!」


 津名は黒板ディスプレイを見つめて呆然とした。日高は彼の後ろで同情していた。


"津名氏、踏んだり蹴ったりじゃいな……"


 とりあえず、津名は大寬のところに飛んでいった。


「あんたねぇ、静かにしてよね……。こっちが恥ずかしいんだけど」


 津名は黒板を呼び指して大声で叫んだ。


「大寬さん、そうじゃないっ!あ、あれはどういう事なのさっ!」


 大寬のところには珠川えんも来ていた。


「どうって?見たとおりじゃんっ!」


 珠川は当たり前のようにそう言ったが、津名は当然納得がいかなかった。


「珠川さん、そうじゃないっ!!本人の居ないところで決めるとかあり得ないってっ!」


「いや~、まやが君を薦めてさ~、愛ってやつ?ねぇ、まやちゃ~んっ!」


 大寬はそう言われて顔を赤くした。


「わ、私はやるからには、津名とって言っただけで……」


 日高はまたも大寬をからかうチャンスと思った。


"わんちゃん、段々声が小さくなってるぅ。顔も赤いぞ"


「麻帆っ!うっさいわねっ!」


"ひぃぃっ!"


「そ、それじゃあ、最初に大寬さんに決まったと……」


「そだね~、まやが決まったのは、なんも委員会をやってないからってんで、成り行き?」


 珠川はそう言ったが、元大寬が声を出した。


「そ、それもそうでしたが、わ、私もやってみたかったのです……。そ、そのお勉強以外も何かやりたくて……。ですので、ネシュレ様にお伝えしました……」


"おぉっ!元大寬ちゃんが頑張りを見せたっ!"


 元大寬は下を向いて顔を赤らめていた。


「まや~、バカね。言わなければ良いのにっ!」


「しょぼん……」


 端から見ると、一人で怒って一人で落ち込んでと、一人芝居のようだった。そんなことよりも自分が選考されたことが気になる津名だった。


「そ、それで、僕も一緒にって言ったの?その……元大寬さん」


「そ、それはネシュレ様がやりたいとおっしゃって……」


「なっ!なんでそれを言っちゃうのよっ!"あんたが一緒にやりたい"で良いでしょっ!そう言いなさいって言ったのにっ!!」


「ですが、嘘はダメだとお父様から……」


「はぁ?お父様とか未だ言ってるわけ?あんな頑固親父っ!さっさと見捨てなさいって言ったでしょっ!」


「で、ですが……」


"わんちゃんとまやちゃんの独り言的な言い争いが続くっ!"


「あんたは黙ってなさいっ!」


"ひょぇっ、わんちゃん、怖っ!"


 津名は頭を抱えた。


「もう……、何なんだよ……。先生には退学とか言われるしさ……」


「なによそれ」

「へっ?」


 津名は大寬と珠川えんに職員室から受けた説明を二人に話した。


「はぁ~、退学?」

「うわ~、ヤッバ~ッ!」


 二人は助けてあげようというより、怪訝そうな顔をして関わりたく無さそうだった。


「あんたねぇ、退学しても良いけど、引き籠もりになるだけなんじゃないの?仕事はちゃんとやるんでしょうね」

「あははは~っ!お姉ちゃんに話すネタが出来たわ~っ!絶対に喜ぶよ~っ!」


「二人とも酷いっ!引き籠もりとかネタとかっ!どうにかしようとか、助けてあげようとか、同情とか、あるでしょがぁっ!うぅぅぅ……」


 津名の叫び声は誰にも響いていなかった。


"な、泣くでないぞ、津名君……。ウチュウの女神様にも見捨てられても、魂吸収ヴァンパイアに見捨てられても、君が泣き虫君でも、あたしが味方するっ!"


「日高さんだけがいい人っ!うぅぅぅ……」


 大寬と珠川は、遠い目になっていると、生前の津名と友達だったサッカー部の蓮沼がやって来た。


「お前たち、楽しそうだなっ!ほずみが学園祭を企画するならいいんじゃねえの、味方するぜ?」


「あ、ありがとう、うぅぅぅ……」


「泣くなよっ!お前ってそんなに泣き虫だったか?ま、いっか。んなことよりさ、部活戻ってくるんだろ?」


「部活?なんとか猿だっけ?」


 日高はそれを聞くと吹き出した。


"ぷっ!フットサルじゃまいか。君が所属して部活……、あれ、フットサルは昔からあったんかいな?サッカーみたいなスポーツじゃぞ"


「あ、あぁ、部活、そうだね、部活部活っ!フットサル部ねっ!」


 日高のアドバイスで津名は知らないことを誤魔化そうとした。


「な~んか、怪しいなぁ……」


 誤魔化せていなかったが、彼にとってもどうでも良かったらしく、会話を続けた。


「まぁ、いっか。放課後、部活に来いよっ!お前が事故った後に見舞いに行った奴らが心配していたんだよっ!昨日、登校したって言ったらすげ~喜んでいたんだぜ?」


 入院中の事は無論、津名は知らないので口を合わせた。


「そ、そうか……、心配かけたもんね」


「んじゃなっ!待ってるからなっ!」


「う、うんっ!」


 蓮沼はそのまま自席に戻ってスマホを使ってSNSで部員達にその事を知らせているようだった。しかし、津名は彼のスマホを見て驚いていた。


「わっ!なにあれ?携帯電話?そっか、モニターは空中に浮かぶから入力するところしかないのか……。はぁ~、アレ欲しいっ!お金ないけど……」


 それらを聞いていた大寬は目を細めて怪しげに津名を見つめた。


「あんた、大丈夫なの?」


「大丈夫って何が?お金はないよ?」


「違うってっ!その身体でフットサル出来るかって聞いてるの」


「で、出来るでしょ?フットサルって、サッカーみたいなもんでしょ?サッカーは昔もあったしっ!ルールは同じだよね?……あれ、違う?」


 珠川も怪しげな目をしていた。しかし、彼女は別のところを心配していた。


「人数が少ないとか、コートが狭いとかルールは少し違うだけ。んでもさ、ゾンビ君は部員達を覚えている?っていうか、知らないっしょ?ヤバくない?」


 津名は、それもそうだと思った。


「……し、知らない」


「友達に聞いといてあげるよ。でも、ボロが出そうじゃね?」


 珠川はヤバそうといった顔をしていたが、ちょっとニヤッとした。


「珠川さん、ありがと~っ!……い、今、笑った?」


 珠川は大寬に耳打ちした。


「まや~、後で見にいこうぜ~、お姉ちゃんも呼ぶっしょ」


「予備校前までね~」


「日高も来なよっ!」


"もちろんですっ!"


 津名は、何故みんなで見に来るのかと、この流れが理解出来なかった。


「な、何でみんなで来るのさ……」


「あんたが病み上がりで……、ご飯もろくに食べていないし……。あぁ、もうっ!ダメダメになるって分かってるからでしょっ!」


「あ、まやはそっちか~。私は知らない部員達とキョドる津名"様"を見たいんだよね~」


 津名は、からかうために二人が来るのだと分かって嫌になってきた。


「酷いっ!大丈夫に決まってるっ!……と、言いたいところですが……フットサルのルール教えてくださいませんか?」


 それを聞いて大寬はため息をついて、珠川は呆れて左右に首を振った。


 すると、次の授業のチャイムが鳴ったので珠川は席に戻った。


「も~どろっと」


「えっ!えっ!えっ?!フットサルのルール……」


 大寬もあっち行けと手を振った。


「ほら、戻りなさいって」


 津名はぽつんと教室で一人だけ立つことになったが、どうにも出来ず、仕方なく津名はトボトボと自席に戻り、机に顔を埋めた。


「酷いっ!うぅぅぅ……」


"あぁ~、また泣いちゃった……。あたしの出番じゃいな?"


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