もてあそばれ
津名は主任教師に職員室に呼ばれ、死人認定されているため退学処分になると宣告された。その後、教室に戻ると学園祭の委員長に選ばれていた。
「はぁっ?!」
津名がうろたえていると、丁度チャイムが鳴った。
「それでは、このクラスの出し物については、あとはお二人でお願いします」
選任のために前に出ていたクラス委員の二人は、そう言うと教室をさっさと出て行ってしまった。
「え、え、えっ?!ちょ、ちょ、ちょ、ど、どういうことっ?!」
津名は黒板ディスプレイを見つめて呆然とした。日高は彼の後ろで同情していた。
"津名氏、踏んだり蹴ったりじゃいな……"
とりあえず、津名は大寬のところに飛んでいった。
「あんたねぇ、静かにしてよね……。こっちが恥ずかしいんだけど」
津名は黒板を呼び指して大声で叫んだ。
「大寬さん、そうじゃないっ!あ、あれはどういう事なのさっ!」
大寬のところには珠川えんも来ていた。
「どうって?見たとおりじゃんっ!」
珠川は当たり前のようにそう言ったが、津名は当然納得がいかなかった。
「珠川さん、そうじゃないっ!!本人の居ないところで決めるとかあり得ないってっ!」
「いや~、まやが君を薦めてさ~、愛ってやつ?ねぇ、まやちゃ~んっ!」
大寬はそう言われて顔を赤くした。
「わ、私はやるからには、津名とって言っただけで……」
日高はまたも大寬をからかうチャンスと思った。
"わんちゃん、段々声が小さくなってるぅ。顔も赤いぞ"
「麻帆っ!うっさいわねっ!」
"ひぃぃっ!"
「そ、それじゃあ、最初に大寬さんに決まったと……」
「そだね~、まやが決まったのは、なんも委員会をやってないからってんで、成り行き?」
珠川はそう言ったが、元大寬が声を出した。
「そ、それもそうでしたが、わ、私もやってみたかったのです……。そ、そのお勉強以外も何かやりたくて……。ですので、ネシュレ様にお伝えしました……」
"おぉっ!元大寬ちゃんが頑張りを見せたっ!"
元大寬は下を向いて顔を赤らめていた。
「まや~、バカね。言わなければ良いのにっ!」
「しょぼん……」
端から見ると、一人で怒って一人で落ち込んでと、一人芝居のようだった。そんなことよりも自分が選考されたことが気になる津名だった。
「そ、それで、僕も一緒にって言ったの?その……元大寬さん」
「そ、それはネシュレ様がやりたいとおっしゃって……」
「なっ!なんでそれを言っちゃうのよっ!"あんたが一緒にやりたい"で良いでしょっ!そう言いなさいって言ったのにっ!!」
「ですが、嘘はダメだとお父様から……」
「はぁ?お父様とか未だ言ってるわけ?あんな頑固親父っ!さっさと見捨てなさいって言ったでしょっ!」
「で、ですが……」
"わんちゃんとまやちゃんの独り言的な言い争いが続くっ!"
「あんたは黙ってなさいっ!」
"ひょぇっ、わんちゃん、怖っ!"
津名は頭を抱えた。
「もう……、何なんだよ……。先生には退学とか言われるしさ……」
「なによそれ」
「へっ?」
津名は大寬と珠川えんに職員室から受けた説明を二人に話した。
「はぁ~、退学?」
「うわ~、ヤッバ~ッ!」
二人は助けてあげようというより、怪訝そうな顔をして関わりたく無さそうだった。
「あんたねぇ、退学しても良いけど、引き籠もりになるだけなんじゃないの?仕事はちゃんとやるんでしょうね」
「あははは~っ!お姉ちゃんに話すネタが出来たわ~っ!絶対に喜ぶよ~っ!」
「二人とも酷いっ!引き籠もりとかネタとかっ!どうにかしようとか、助けてあげようとか、同情とか、あるでしょがぁっ!うぅぅぅ……」
津名の叫び声は誰にも響いていなかった。
"な、泣くでないぞ、津名君……。ウチュウの女神様にも見捨てられても、魂吸収ヴァンパイアに見捨てられても、君が泣き虫君でも、あたしが味方するっ!"
「日高さんだけがいい人っ!うぅぅぅ……」
大寬と珠川は、遠い目になっていると、生前の津名と友達だったサッカー部の蓮沼がやって来た。
「お前たち、楽しそうだなっ!ほずみが学園祭を企画するならいいんじゃねえの、味方するぜ?」
「あ、ありがとう、うぅぅぅ……」
「泣くなよっ!お前ってそんなに泣き虫だったか?ま、いっか。んなことよりさ、部活戻ってくるんだろ?」
「部活?なんとか猿だっけ?」
日高はそれを聞くと吹き出した。
"ぷっ!フットサルじゃまいか。君が所属して部活……、あれ、フットサルは昔からあったんかいな?サッカーみたいなスポーツじゃぞ"
「あ、あぁ、部活、そうだね、部活部活っ!フットサル部ねっ!」
日高のアドバイスで津名は知らないことを誤魔化そうとした。
「な~んか、怪しいなぁ……」
誤魔化せていなかったが、彼にとってもどうでも良かったらしく、会話を続けた。
「まぁ、いっか。放課後、部活に来いよっ!お前が事故った後に見舞いに行った奴らが心配していたんだよっ!昨日、登校したって言ったらすげ~喜んでいたんだぜ?」
入院中の事は無論、津名は知らないので口を合わせた。
「そ、そうか……、心配かけたもんね」
「んじゃなっ!待ってるからなっ!」
「う、うんっ!」
蓮沼はそのまま自席に戻ってスマホを使ってSNSで部員達にその事を知らせているようだった。しかし、津名は彼のスマホを見て驚いていた。
「わっ!なにあれ?携帯電話?そっか、モニターは空中に浮かぶから入力するところしかないのか……。はぁ~、アレ欲しいっ!お金ないけど……」
それらを聞いていた大寬は目を細めて怪しげに津名を見つめた。
「あんた、大丈夫なの?」
「大丈夫って何が?お金はないよ?」
「違うってっ!その身体でフットサル出来るかって聞いてるの」
「で、出来るでしょ?フットサルって、サッカーみたいなもんでしょ?サッカーは昔もあったしっ!ルールは同じだよね?……あれ、違う?」
珠川も怪しげな目をしていた。しかし、彼女は別のところを心配していた。
「人数が少ないとか、コートが狭いとかルールは少し違うだけ。んでもさ、ゾンビ君は部員達を覚えている?っていうか、知らないっしょ?ヤバくない?」
津名は、それもそうだと思った。
「……し、知らない」
「友達に聞いといてあげるよ。でも、ボロが出そうじゃね?」
珠川はヤバそうといった顔をしていたが、ちょっとニヤッとした。
「珠川さん、ありがと~っ!……い、今、笑った?」
珠川は大寬に耳打ちした。
「まや~、後で見にいこうぜ~、お姉ちゃんも呼ぶっしょ」
「予備校前までね~」
「日高も来なよっ!」
"もちろんですっ!"
津名は、何故みんなで見に来るのかと、この流れが理解出来なかった。
「な、何でみんなで来るのさ……」
「あんたが病み上がりで……、ご飯もろくに食べていないし……。あぁ、もうっ!ダメダメになるって分かってるからでしょっ!」
「あ、まやはそっちか~。私は知らない部員達とキョドる津名"様"を見たいんだよね~」
津名は、からかうために二人が来るのだと分かって嫌になってきた。
「酷いっ!大丈夫に決まってるっ!……と、言いたいところですが……フットサルのルール教えてくださいませんか?」
それを聞いて大寬はため息をついて、珠川は呆れて左右に首を振った。
すると、次の授業のチャイムが鳴ったので珠川は席に戻った。
「も~どろっと」
「えっ!えっ!えっ?!フットサルのルール……」
大寬もあっち行けと手を振った。
「ほら、戻りなさいって」
津名はぽつんと教室で一人だけ立つことになったが、どうにも出来ず、仕方なく津名はトボトボと自席に戻り、机に顔を埋めた。
「酷いっ!うぅぅぅ……」
"あぁ~、また泣いちゃった……。あたしの出番じゃいな?"




