職員室
二時間目が終わると、学級主任から呼ばれたため、津名は職員室に向かった。
"はぁ~、怒られるのかな"
津名の愚痴を聞いて日高は心配そうな顔をしていた。
"可哀想じゃなぁ……津名氏、ぷぷぷっ!"
しかし、やっぱり楽しそうだった。
"酷いっ!人ごとだと思ってっ!"
"くくくっ……、職員室は二階だよ~"
津名は、日高の案内で教室から出ようとした。するとその時、一人の生徒とすれ違った。その生徒はその瞬間、津名をチラリと見たが、そのまま素通りした。その仕草を日高が不審に思った。
"んん?なんか、折原くんが君を見てたような……見てたというか睨んでた?何だろ、目立ってたからかな"
"大丈夫、気にしなくて良いよ、何処かで話すことになると思うけど"
"そ、そうなの?話す予定でもあるん?分からんこと言う子じゃいな"
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津名は職員室の前まで到着した。しかし扉を開けようとしたが全く開かなかった。
"あれ、開かない"
"津名君、セキュリティというもんがあってだねぇ"
"そうだった"
この時代の学校では、学生証がセキュリティカードになっていて、許可の無い教室や職員室には簡単に入れないようになっていた。
"あ、これを押すのかな"
"そうそうっ!"
津名が扉の横にあるチャイムを押すと、しばらくして扉が自動的に開いた。
「あ、開いた。失礼します」
津名が恐る恐る職員室に入ると、そこには小学校から高校まで同じ敷地にあったので主任教師は20名ぐらいは居るように思えた。奥には校長室と書かれた扉が見えた。彼らの机の上にはモニターが多数設置されていて、そこには学校のあらゆる場所が映されていた。津名は監視室のようだなと思った。これで教育は成り立つのかとも思った。
"昔の職員室と違う"
"ふ~ん、そうなの?あんまり入ること無いけど、こんなもんじゃ?"
しかし、津名がそれ以上に不思議に思ったのは、各学年の主任と思われる教師達が一斉に自分を見つめた事だった。
"それよりも、何でみんなこっちを見ているんだろう……"
"人気者だね、君はっ!"
"不審者を見る目だよ、これは……"
すると、主任のうちの一人が立ち上がって津名を呼んだ。
「こっちだ、津名君」
「はい」
その声は、教室で聞いた香淀であることはすぐに分かった。歳は若く30代ぐらい、白いシャツに真っ直ぐなスラックスを履いていて、真面目なサラリーマンのようだった。
津名は香淀に案内されて職員室の一角にあった四人ぐらいが座ることの出来る会議室に入った。
「座りたまえ」
香淀は、津名を座らせると自分も座り話し始めた。
「次の授業と重なってしまうが、申し訳ない。まぁ、学園祭を決める時間だから大丈夫だろう。少し話が聞きたかったのだ」
「は、はい何でしょう……」
「授業中の態度は……、まぁ、それは良いだろう」
思わず日高がツッコミを入れた。
"いいんか~いっ!……しかし、津名君、先生は深刻な顔じゃいな?"
日高の言う通り、香淀は怒っているというより、眉をひそめて不安そうな顔をしていた。津名も同じように思っていた。授業に出させないぐらいだから、何か別の大事な用事があったのだろうと思った。その意味はすぐに分かった。
「それよりも、どう聞いて良いのか分からないし、傷つけたら申し訳ない……」
「は、はい」
津名は香淀がもったいぶってしゃべっているのか、何かを遠慮して話しているのか分からなかった。
「……そ、その、君はご両親と共に死亡したのだと、私は君の祖父から聞いていたのだよ……」
「あ……」
それを聞いて香淀が何を聞こうとしているのか、津名は分かったような気がした。
「そ、それが、どうして学校に来ているのだっ!も、申し訳ないが職員は混乱している……」
"ぬおぉっ!そこか~っ!ヤバヤバじゃまいかっ?!"
授業中の態度を怒られると思っていたのだが、津名は想定外のことを聞かれた。
「そ、祖父が間違えて報告したのだと思いますが……」
「し、しかしだな、私は病室で意識の無い君を見ているのだ……。き、君には申し訳ないがそんなとてもじゃないが歩ける状態ではなかった……」
「い、いやぁ……、か、か、か、回復したのです……よ」
"津名君、キョドろんら"
「回復だって?君は頭を強く打って意識を無くしていた。医師の話では回復することは無いと話されていたのだぞ。命が延びたとしても酷い障害が残ると話していたんだっ!しょ、植物人間になってしまうと……」
「あ~、いやいや、え~っと、い、医者は……、そ、そうです。き、奇跡だと、言ってました。あ、あり得ない事が起こった~っと……、あ……、駄目な予感」
「……し、しかし、き、君の死亡届、死亡届が出ているのだっ!君は死んでいる事になっている……。一体、君は誰なのだっ!」
"ぐ、ぐぇっ!これはクリティカルヒットではっ?!主任の攻撃は津名氏に一万ダメージッ!"
「ぼ、僕は、も、もちろん、津名ほずみですが……」
"うわ、弱っ!弱攻撃では対応出来んぞ、何か良いアビリティはっ?!"
津名は外野がうるさすぎて、考えがまとまらなかった。
「死亡届が出ている以上、学校としては君にこのまま居続けてもらうことは出来ないのだ……」
「そ、そうですか……」
"変身アビリティのえんじぇるモードになってじゃか~んってすれば良いのではっ?!"
"無理……"
"はぁ~……、君は人間モードだとなんでそんなに弱いのだ"
"酷いっ!"
津名が黙ってしまったため、これ以上の会話も続かず、香淀も話を止めざるを得なかった。
「……取りあえず、教室に戻り給え。申し訳ないが、職員の間でどうするか決定する」
「は、はい……」
津名は、職員室を後にした。その際も教師達は津名を見つめていた。死亡した生徒が登校しているから当たり前だと津名は思った。同時に、教師の保守体質は昔から変わってないなと思った。決定にどれぐらいかかるか分からないが、恐らく停学処分になるだろうと思った。
"津名君、どうするんじゃいな?"
"いきなり大ピンチ……。仕事がやりにくくなるなぁ……最悪学校外から仕事をすれば良いけど"
"仕事?学校に通っているのには意味があったということなのね"
"この学校には「問題児」が多くてね。だからここに通うことにしたんだ"
"はぁ、そうなのね。そっか、えんちゃんたちみたいな人を探している?……ま、待てよ、あたしもかっ!"
"日高さんは違うよ"
"あたしは別腹だったっ!"
津名は、どうなるか分からなかったが取りあえず教室に戻った。
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津名が教室の後の扉からそっと入ると、黒板ディスプレイにはこう書いてあった。
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│学園祭 │
│委員長 津名ほずみ │
│副委員長 大寬まや │
│ ガンバッテ m(_ _)m │
└───────────────────┘
「はぁっ?!」
津名は思わず声が漏れた。




