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異端を狩る者の詩は誰も歌わない  作者: 大嶋コウジ
ワールド壱の一:吸収衝動を味わってみるかい?
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時代錯誤少年

 日高麻帆は、津名ほずみの動向が気になって仕方が無かった。それは恋心というより、どちらかというと単なる興味といった方が正しかった。


 津名は、一番後ろの窓際の席でタブレットを食い入るように見ていたが、色々とタップしてはしかめっ面になっていた。この時の日高は彼が勉強をしているのだろうと思っていた。


 そんな彼のところに、友達の蓮沼が来て声をかけた。彼はアスリートらしいスッキリとした出で立ちをしていて、津名の背中を親しみを込めてポンと叩いた。


「よ、ほずみっ!お前、どうしていたんだよっ!しばらく、学校来なかっただろ?」


「え、え~っと、ちょっと入院していたんだ」


 日高は、明らかに津名が戸惑っているのが分かった。何度も仲良く話しているところも見ていたので、どうしてだろうと思った。


「まじでっ!大丈夫なの?」


「うん、まぁ、ちょっと……、た、大変だったかも……?」


 そう言うと、その男は怪訝そうな顔で津名を見つめた。


「はぁ?それでか?何かお前、ちょっと変だよな~と思ったんだよね」


「そ、そうかな……?ど、どこが変……?」


「どこがって~、何だろ……。そんなオドオドしてたか?」


「してたかもしれない……よ」


「そっかなぁ」


「……ぼ、僕はどんな人物だった?」


「変なこと聞くなよっ!ほずみは、ほずみだろっ!今はちょっと変だけどっ!」


「そ、そうだよねっ!」


「変な奴っ!また、フットサルでもやろうぜ」


 蓮沼はボールを蹴っている仕草をして、そう言った。


「うん……、でも、ふっとさるってなんだい?猿の仲間?」


「何言ってんだよ、お前っ!」


「じょ、冗談だよっ!あは、あはは……」


「くっだらねぇっ!やっぱ、ほずみだわぁっ!」


 蓮沼は、大声で笑っていたが、日高は津名が必死にメモを取っているのが分かった。後で調べるつもりだろうと思った。


「でも、すごいね。今は教室にエアコンがあるんだね。教科書だってこの板に表示されるしさ、これなら鞄が重くならなくていいもんねっ!それにさ、生徒が少ないよね、席がスカスカだよ。教室の後ろにはカメラもあるし……あれは何でだい?」


 それを聞いた蓮沼は、眉をひそめ、津名を怪訝そうに見つめた。


「お前本気で言ってる?」


「えっ?!どどど、どうして?」


 日高は、津名が変なことを言ってしまって後悔しているのが表情から読み取れた。


「……お前やっぱ、変だわ」


「にゅ、入院の、せ、せいかなぁ……あはは……」


「……またあとでな」


「ちょ、ちょっと……」


 津名は身を乗り出して蓮沼を止めようとしたが、彼はさっさと何処かに行ってしまった。

 すると、大寬があきれ顔でやって来た。


「あんたねぇ……」


「えぇ?」


「ちょっと来なさいっ!」


 すると彼女は、津名を連れて教室の後ろから出ていってしまった。


「ほら、ネシュ……じゃなくて、大寬さん、見てよ。自動ドアだよっ!すごいっ!学校だよ、学校なのにだよっ!別の教室に入れないようになっているんだろ?すごいよねっ!」


「あぁっ!もう、良いからこっちに来なさいっ!」


 二人は人気ひとけの居ないところに来ると大寬が大声を上げた。後を追った日高は見えないところでそっと二人の会話を聞いていた。


「あんたねっ、事前調査無しでここに来るとかあり得ないんですけどっ!」


「い、いや調べたよ。調べたというか、前にも来たことあったろ?」


「まさか……」


「あの時は西暦1980年ぐらいだったでしょ?"ファミコン"は、まだあるのかなぁっ?すーぱーまいろだっけ?あれをもう一回やりたいんだよっ!あぁ、だけど、テレビがないんだった……」


「ぶちっ……今何年なのか知ってるわけっ?」


「い、いま怒った?……今は西暦2050年だろ、知っているよ」


「それでな~んで、安心しちゃってるわけ?何も調べてないって、あり得ないんですけどっ!」


「はぁ?たかが70年ぐらいだろ?大して変わらないでしょ?」


「あぁ~……、時間が止まってる」


 明らかに大寬は呆れていた。日高は彼女が頭を抱えている姿が見えるようだった。しかし、何故、彼女が呆れているのか理解出来なかった。


(ファミコンは大昔のゲーム機だっけ?津名君は何でそんなの知っているんだろう……)


「時間は止まらないって。宇宙の法則だってぇ、あははっ!」


「ものの例えよっ、バカッ!それだけ経てば色々と変わるに決まっているでしょっ!」


「そ、そう?そんなに文化レベルが上がってる?」


「上がりまくよっ!!いい?教室にエアコンがあるのは当たり前だし、あの板は、タブレットって言うの」


「はぁ、たぶれっと?あぁ、タップするれっとって意味かっ!れっとって何だ?」


「あぁぁぁぁっ!!!!」


 日高からの場所からは見えないが、地団駄を踏んでいる人を初めて見たような気がした。


「席が空いてるのは、在宅で授業を聞いている人がいるからなのっ!」


「えぇ、ど、どうやってさ」


「あんたが見つけたカメラを使ってに決まっているでしょっ!」


「はぁ~、分かったぞ。動画って奴にして、後で見るんだなっ!!」


「あぁ~~、もう~~~っ!オ・ン・ラ・イ・ンに決まっているでしょっ!」


「何それ?らいん?線のこと?」


「ぐが~~っ!リアル視聴なのよっ!一緒に聞いてるのっ!」


「えぇっ!そんなことあり得ないっしょ?ここは未来世界かっ!」


 その瞬間、日高には何かが壊れたような音がした、ような気がした。


「……あんたインターネットは……?」


「米国で発明されたっていうコンピューターをケーブルでつなげた新しい通信手段ってやつでしょ?」


「それだけ……?」


「それが今までで話した内容と何か関係あるの?たっぷれっとも関係してる?まさかねっ!あははっ!」


「絶望的……」


「な、なんだよ」


「図書館で調べれば良いでしょっ!!!んなもんがあるならねっ!」


「おぅ、図書館ね、あとで行ってみるよっ!」


「バカッ!バカッ!バカッ!も~~~、やだっ!!」


 すると、ピシャッと音がしたので、大寬が津名にビンタをしたのが分かった。やがて大寬がこちらに向かって歩いて来た。日高は隠れることも出来ず、気まずそうに立ち尽くすしかなかった。

 大寬は日高の目の前を通過するときに彼女ちらっと見た。


「……あんたも聞いていたでしょ?あいつを助けてやってっ!私は、もう呆れて何も言えない……はぁ~」


「……え、は、はい……」


 日高は、聞いていることはバレていたのだと思って焦った。そして、そっと津名の方を見た。残された津名は頬を押さえて、彼女を見つけると笑って手を振った。


「津名君にもバレてた……」


 彼女はしまったと思ってまた影に隠れた。


「ねぇ、ねぇ、日高さん、図書館の場所を教えてよっ!」


「と、図書館の場所……?」


「あるよね?学校だもん」


 日高はそっとタブレットを指差した。


「へ?たっぷれっと?」


「ち、違う……もう、ぷぷぷっ!」


「え、え、ど、どうしたの?」


「クククッ!あははははっ!!!もう、だめぇ~っ!!!お、お腹が痛い……、ぷぷぷっ!なにそれ……?た、た、たっぷれっと?!嘘でしょっ!」


 日高は、トンチンカンな津名に遂に笑いが堪えられなくなった。彼は腹を抱えて笑っている彼女をポカンとして見ていることしかできなかった。


「ちょ、ちょっと……」


「あははっ!涙まで出て来たちゃった……」


「楽しそうで良いけど……」


 津名は少し不服そうにしていた。自分が変なことを言っているとは思っていたが、そこまで笑うかと言いたげだった。


「ぷっ!……タ、タブレットを開いてっ!"たっぷれっと"じゃないよっ!あははははっ!!」


「う、うん……、開く?」


「ぷ~~っ、ぷぷぷぷっ!こ、壊して開いたら……だ、だ、だ、駄目だよっ!あはははははっ!」


 日高は、津名が顔認証でログインすると、ほとんどの書物が電子化されていること、そして、学校の図書館も無くなっていて全てタブレット端末からアクセスできることを教えてあげた。津名はいちいちそれらを聞いて驚いているので、日高はその度に吹き出してしまって説明が何度も中断した。


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