授業風景2
リーダー論という不思議な授業を受けていた津名だったが、2時間目は組織論という授業だった。珍しい授業ばかりだったので、津名が日高に声をかけた。
"組織論ねぇ、社会人向け授業が多いね"
"津名君は、文句ばっかりじゃまいか。もしかして、勉強嫌いな子?"
"好きな人いるの……?"
"う~、元大寬さんとかっ!お嬢様だから、お勉強もきっと大好きでお料理も得意で、ジイヤが居て巨大なベッドで寝ていたに違いないっ!"
"後半関係ないような……"
心の会話で勝手に話す日高の会話は大寬に丸聞こえだった。
"……あんなこと言っているけど、どうなのよ「元」大寬さん"
すると、今度は大寬の心の奥にいる元大寬が話し始めた。
"お、お勉強は好きではなくて、家に帰ってもやることが無いからやってました。も、もちろん、将来の為にやっていたんですよ。あと、執事さんなんて居ませんし、普通のベッドだと思います"
日高の意味不明な質問に元大寬は丁寧に答えたが、その内容が寂しい内容だったので日高はちょっと悲しくなった。
"や、やること無いじゃと……、結構、さもしい子?"
"お友達いませんでしたし……、部活もやっていませんでした。アルバイトも止められていましたし、テレビやインターネットも役に立たないから見るなと制限されていました"
それらを聞いていた一同は黙ってしまった。この沈黙に元大寬は何事かと動揺した。
"……え、ちょっと、ど、どうして?み、皆さん何か言って下さいっ!"
"元大寬ちゃんは、友達いないとか、こどりんこだったんだなぁ、うぅぅ……。私が生きていたら友達になったげたのにぃ"
"こ、こどりんこ?孤独という意味ですか……、はぁ……"
元大寬は、酷く落ち込んだが、それを聞くと津名は急に立ち上がった。
「違うっ!今は、みんなが君の友達だっ!」
"そうなんですかっ!うれしいですっ!……でも、今は授業中かと……"
「あ……、すみません」
津名は、またもクラスの注目を集めて椅子に座った。大寬にまたもあきれ顔だった。
"バ~カッ!何やってるのよっ!"
"あはは……"
"津名君は授業に集中した方がいいぞよ、心の声で雑談はやば~いね、笑笑"
津名は日高に注意されると頷いた。
"う、うん、そうする……。あぁ、そうだっ!"
津名は何かを思いだしたのか、鞄をごそごそとし始めた。
"津名君、今度はどうしたんじゃ?"
"おばあちゃんから借りてきたものがあったんだ。お、あったっ!"
津名は鞄の奥にあったものを見つけると、取り出して日高に自慢げに見せた。
"This is a pencil!"
しかし、早速、津名が机に文字を書こうとしたが、一向に文字が書けなかった。
"あれ、つるつるしてて書けないっ!……ど、どうしたら良いんだっ!"
"それは、なんじゃらと思ったが、紙に書くやつ鉛筆ってやつかぁ~、初めて見た"
"はぁっ?!初めて見たっ?!君は本当に学生だったのかっ?!"
"む、昔はなっ!んじゃなくて、鉛筆なんて知らないよぉ~。ペンは机の横にくっついているよ、ザッツ イズ ア ペンそ~ッ!"
津名は日高の言われたとおり、机の横を見ると磁石で接着しているペンを見つけた。
"えぇ?これっ?!先っぽが丸いけど、本当に書けるの?"
"ふっふっふっ!それを机に当てて文字を書いてみるがよいぞ、あっ、すみちゃんみたいになったっ!"
津名は言われるがまま、文字を書いてみた。その文字は自動認識されて綺麗な文字に変換された。
「うぉぉぉっ!机に文字が書けるぅぅっ!……あ、ごめんなさい」
やっぱり立ち上がって声を上げた。度重なる授業を妨害する者にさすがに教師が声をかけた。
「津名君、君は問題があるようだね。授業が終わり次第、職員室に来なさい」
「は、はい……。あれ?さっきから気になっていたのですが、先生、声が変わりました?」
教師の声が授業中と変わったので津名は思わず確認した。
「私は主任の香淀だ」
「へっ?主任?……学級主任?」
「私を知らない?よく分からないが、ともかく座りなさい」
「……は、はい。授業が終わり次第、お伺いします……」
津名は香淀の言われるまま椅子に座った。
"ど、どういうことじゃいな?"
彼は思わず日高言葉で聞いてしまった。
"ぷ、ぷぷぷっ!あははははっ!お、お腹痛いっ!くくくっ……、先生に怒られら~っ!あははははっ!そ、そうだ、書いたものは、ちゃ、ちゃんとノートに保存されるからね……ぷぷぷっ!"
"ね、ねぇ?主任ってどういう意味?あの先生が主任?"
"説明していなかったけど、あの先生は立体映像じゃよ。あっ!立ち上がったらダメだ~っ!ぷっ!ぷぷぷっ!"
日高に説明を受けてまた立ち上がりそうになったが、何とか抑えることが出来た。代わりにポカンとして教師をじっと見つめた。
"えぇ~っ!あれは映像なのっ?!"
"授業は全部、AIが教えているんだよ"
"えーあいって?"
"ほう、そこからか。教え甲斐のある子じゃいな。え~っとね……"
日高はこの時代の教師について津名に教えた。
2050年では、学校に居る人間は、校長と各学年の主任だけだった。授業は高度な人工知能が教えていて、質問にもほとんど問題なく答える事が可能となっていた。声だけでも授業は可能だったが、人が教えている雰囲気を大事にするため立体映像を使っていた。
しかし、津名のような想定外のことをする生徒を考慮し、学級主任が立体映像を使って指導することがあった。
"信じられない……。ここまで人工物に依存するようになったとは……"
"70年ぐらい前と比べると結構違うんじゃいな~"
"まぁ、有機体ロボットも宇宙では流行ってるけどね。そうか立体映像かぁ、本物みたいだね"
"そだね~って、宇宙でロボットが流行ってるぅっ?!"
"地球ではグレイって言われるね"
"グゥ、グレイっ?!あの目ん玉のでっかい灰色の宇宙生命体っ?!"
"あれ、知ってる?有名なのか。自動で動かしたり、リモート操作出来たりと便利らしいね"
"なんか凄いこと聞いた気がするが、まあいいか。津名氏は、これで授業はちゃんと聞けるようになったぞ。うんうん、私はえらいぞっ!"
"あ、ありがとね。しかし……、はぁ~、この後、怒られるのかな"
授業後の指導が不安になる津名だった。




