暗闇の部屋で
少年の部屋は月明かりのみが照らされていてほとんど真っ暗だった。彼は16歳ぐらいに見え、若いが食事の取り過ぎで小太り気味だった。
そんな彼は、どっぺりとした腹を支えにベッドの上で目を瞑り、両手をあぐらの中心で組んで瞑想のようなポーズをしていた。
一筋の汗が額から頬に流れると少年の心にだけ不気味な女の声が響いた。
"ふ~ん、次はその人ってことね"
「そうそう」
少年の前には、一人の顔が整った高校生の写真が空中ディスプレイに映っていた。
"その身体は飽きたってこと?"
「だって、顔が不細工だし、身体もこんなんだし、良いところ無しだよっ!」
"贅沢な悩みだこと。確かにその写真の男は、あなたの言うイケメンね"
「でしょ?この人になれば人生が変わると思うんだ」
"ふっ、ふふふ……"
女が笑ったので少年は、腹を立てた。客観的にその姿は独り言を言ってるようにしか見えなかった。
「何がおかしいのさっ!」
"別に?ただ、あんたの考えは気に入ってるのよ。良いじゃない?気に入らなければ変わり続ければ良いのよ"
「あったり前じゃないかっ!お前が教えてくれたんだろっ!」
"そうね、そうだったわ、ごめんね"
「やってくれよっ!」
"それじゃあ、行くわ。いい?戻れないからね"
「分かってるってっ!何度目だと思ってるんだよっ!」
"ふふふ、そうだったわね……"
「まったく……、早くしろよな」
"やるわ"
女の声と共に少年は意識を失って頭を前にうなだれた。
"行ったか……、ふふふ……、あははははっ!ひぇひぇひぇ……、あいつ、本当にアホだわっ!アホほど扱いやすいっ!"
気味の悪い笑い声は、小さな部屋に響いた。それと同時に意識を失ったはずの少年が急に身体を起こした。
「……あぁっ!おぉっ!」
"久々の"身体"はどうだい?"
少年は立ち上がって自分の手を見ながら喜びに満ちていた。
「はぁぁぁっ!素晴らしいぃぃぃっ!!!身体を持つことの喜びよぉぉぉっ!ありがとうございましたっ!!」
しかし、その目は先ほどの少年とは違った。何かを狙うかのように鋭くなっていた。その顔は異様な笑みを浮かべていた。




