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異端を狩る者の詩は誰も歌わない  作者: 大嶋コウジ
ワールド壱の一:吸収衝動を味わってみるかい?
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白い錠剤

 それはいつものT高校からの帰り道だった。

 路地裏にたむろする赤渕達にからまれて、日高はビルの間に引きずり込まれた。


「日高ちゃ~ん、こ・ん・に・ち・はぁぁぁ」


「こ、こんにちは……」


 いつもは、ここに引き込まれると虐められるのが当たり前だったが、今日の赤渕はいつもと違ってハイテンションでその素振りは無く、逆に不気味だと日高は思った。


「日高とは友達ぃぃ、今日はこれをあげよ~~~ぅっ!ひぇひぇひぇ……」


 赤渕は、よく分からない白い錠剤を日高の目の前に出した。


「赤渕さん、これ、これは?」


「良いからお前も飲めってぇ~、ひぇひぇひぇ……、良くなるぞぉぉ」


「良くなる……?」


 よく見ると仲間の女は目がうつろになって、立ったままゾンビの様にフラフラとしていた。怪しげな薬を飲む気になれなかった日高は、断って逃げようとした。


「わ、私行くね……」


 しかし、その手は容易く赤渕と彼女の仲間達に掴まれた。


「ちょ、ちょっと、離してっ!」


「おぉいぃぃぃ、何処行くんだよぉ……、無料ただでやろうって言ってんだぁ、飲めよぉ~」


 赤渕のうつろな目が日高を見つめ、そのまま無理矢理、彼女の口の中に錠剤を押し込んだ。


「う、うぐぐ……」


 日高は何とか吐き出そうとしたが、赤渕に口を押さえられ、そのままの勢いで飲み込んでしまった。


「よぉぉしぃぃ、飲んだなぁぁ」


「ぐえぇ……、げほっ……、げほっ……」


 日高は吐き出そうとしたが喉の奥まで入ってしまって、もはや取り出しようもなかった。


「ひぇひぇひぇ……、もうすぐ効くぞぉぉ」


 日高が飲まされたのは、フェンタニル類似体の錠剤だった。


 現在(2023年)のフェンタニル類似体による薬物中毒は米国で流行している。その症状はモルヒネの600倍~1万倍にもおよぶため、依存度も高く、社会問題となっている。


 ただし、その後、2024年に米国の政局が変わってからは、産出国の陰謀と判明したため、カナダなどの隣国からの輸入経路を徹底的に止め、そのお陰もあって流行はかなり止めることが出来たのだった。しかし、その矛先は日本へと移ってしまっていた。製造費は安い割りに高額で売れたそれは暴力団によって、この時代では既存の麻薬の代わりとなり、若い世代で流行してしまっていた。


「へ、へへへ……っ、あは、あはははっ!あははははっ!」


 日高は、急に自分が高揚してくるのが分かって、やがて笑いを押さえられなくなった。


「楽しいぃぃ、楽しいぃぃ、あははははっ!あははははっ!あかぶっち~~っ!あはははっ!」


「ほらぁ、良いだろうっ!」


「あかぶっち~っ!親友だぁぁっ!ありがとうぅぅ、あかぶっち~っ!」


「そうだろうっ!そうだろうっ!楽しいだろうぅぅぅっ!」


「あははっ!あはははっ!そ、それ、それじゃぁ、またねぇぇっ!」


「バイビャイィィッ!」


「ビャイビャイィィッ!」


 日高は、フラフラとした足取りで家路についのだが、途中、意識が朦朧としながら、カベや道に生えた草に話しかけるなどの行動を取った。


「こんにちはぁ、草花きゅうんっ!こんにちはぁ、カベきゅうんっ!あははははっ!」


 やがて、彼女は二階にある自室に着くなり変な踊りを踊った。


「あははっ!えへへへっ!」


 一階では彼女の母親が何かをしていると気づいたが、またバカな事をやっていると思っただけだった。やがて日高は、踊り疲れるとベッドの上にある、くまのぬいぐるみを見つけて抱きついた。


「へへへっ!なんじゃ、こりゃぁぁぁっ!くまちゃ~んでしゅた~~っ!だいしゅきぃぃぃっ!」


 日高はその人形をギュッと抱きしめると、ベッドに横たわった。


「ね、寝るぅぅぅ……」


 しかし、突然、フェンタニルによる副作用が起こった。


「う、うぅぅ……?」


 フェンタニル類似体は、依存性の高さも問題だったが、それ以上に数粒の結晶程度で致死量に至ってしまうことも問題だった。つまり、粗悪な錠剤だった場合、呼吸困難で死亡する者も後を絶たなかった。


「ぐ、げげげぇぇぇ……」


 息の出来ない苦しみで日高は暴れたが、その音は母親には先ほどと同じようにしか聞こえず、そのまま彼女は息を引き取った。


「た、たすけ……て……」


 翌朝、いつまでも起きてこない娘を迎えに行った母親によって彼女は見つかった。その変わり果てた姿は、自分の首を押さえて苦しそうな表情だった。


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