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異端を狩る者の詩は誰も歌わない  作者: 大嶋コウジ
ワールド壱の一:吸収衝動を味わってみるかい?
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戦いの後、そして……

 アニヴァと珠川えんの二人は、戦う気力を無くして、すっかり大人しくなっていた。日高は、そんな二人を見ていて津名に問いかけた。


「津名君、二人に何をしたの?」


「そ、そうだよぉ……。私達になにをしたんだよ、ですか……?貧乏く……じゃなくて、津名……様……」


 珠川は、すっかりしおらしくなっていて、アニヴァは黙って下を向いていた。


「君たちの遺伝子を治しただけだよ。そう言った様な気がするんだけど……」


「治したっ?!私達の病気を治したのっ?!」


「そう。君たちは普通の人間に戻ったってことだよ」


「えぇっ!」

「はぁっ?!」


 日高と珠川もそれを聞いて顔を見合わせた。


「二人の遺伝子を正常な状態に戻したんだ。これで二人は、普通の人間のように寿命を迎えてホームに帰ることになる」


「はぁっ!つ、津名様……、治して頂き、ありがとうございました……」


「……ふん、ほっといて良かったのに……」


 珠川は、神に祈る姿で津名に礼を言ったが、アニヴァは未だ不満そうな顔をしていた。


「様ってのは止めてよ。元々こうするつもりだったしね」


「うわぁぁぁぁん……、お姉ちゃ~~んっ!」


「マリアンニ……」


 アニヴァは抱きついた珠川の頭をゆっくりと撫でた。そして、笑いそうになった。


「余らが普通の人間ねぇ……、はは……」


 珠川はずっと泣いていた。その涙は何なのだろうかと日高は思った。病気が治ったためだろうか、それとも自分達の人生を振り返っての涙だろうかと。


「良かったね……」


 結局、日高は、もらい泣きをしただけで、その一言しか言えなかった。


「麻帆……あんたもすまなかったね」


 珠川に名前を呼ばれて日高は戸惑った。


「えっ、ど、どうして……。あれ、名前で呼んでくれた……?」


「怖がらせちゃったでしょ?……グスッ」


「わ、私は大丈夫だよ……」


「泣いてくれてありがとうね」


「そ、そんな……」


 珠川は日高に感謝を示すと、同時に彼女の事を心配した。


「だけど、あんたも……同じでしょ?津名……くん、彼女はどうされるのでしょうか……」


 その矛先が今度は自分の方に向いていたので日高は何のことかと戸惑った。


「わ、私っ?!私の何が同じなのっ?!」


「あんたもホームに帰らないと駄目って意味よ……」


 ムスッとしていた大寬が日高とは目を合わせないようにしながらそう言った。津名は、彼女を見て慌てた。


「あぁ、大寬さん、言っちゃうの……?」


「ふん、導くのも私達の仕事でしょっ!」


「え~、だって言わないって約束したじゃない?」


「そんな約束していないわよっ!」


 二人の会話を聞いていて、日高も何かが可笑しいと気づき始めていた。そして、大寬の言った言葉の意味を思い出して寒気が走った。


「ホーム……、ホームってあの世って意味だったよね……」


 日高は急に真っ暗な世界に一人ぼっちになったような気がした。


 珠川は自分がきっかけを作ってしまったことを後悔し始めていた。


「つ、津名君、麻帆が気づいてないならいいんですよね?いい子だし友達でいたいんです……。こ、このままでも……」


 彼女は祈るように津名にお願いしていた。日高は、何が何だか分からなかった。


「わ、私って……どうしたんだっけ?どうして生きているんだっけ……?あの日、部屋に戻って……。あぁ、あぁ……、あぁぁぁっ!!」


 その瞬間、日高は全てを思い出し、その絶望感は声となって小さな庭に響いた。


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