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異端を狩る者の詩は誰も歌わない  作者: 大嶋コウジ
ワールド壱の一:吸収衝動を味わってみるかい?
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常闇の中で

 目の前に自分達の命を狙う者が現れて、アニヴァの血液は全身を駆け巡った。それはかつて自分達を追い込んだキリスト教の信者達を思わせた。その度に彼らの魂を吸い込み、戦い、逃げた。その戦いに嫌気が指した彼女達の逃避行は数百年にも及んでいた。

 今回の敵にもアニヴァは両手を前に向けて、敵の魂を吸い込むことに集中した。


「お前などに余の生活を脅かされてたまるかっ!」


 しかし、目の前の白く輝く男から吸い取った魂は何かが違った。


「う、ぐぐ……」


 吸い込めば吸い込むほど、アニヴァの身体は揺れ始め、その顔はみるみるうちに青ざめていった。


「……な、なんだ、お前……、お前のそれは、な、何なんだっ!違う、違う……、お前の魂は"違うもの"で出来ている……。はぁ……、はぁ……、し、しかも、無くならない……、お前のそれは無くない……、どういうことだ……」


「僕は地球で生まれたわけじゃないからね」


「ま、また……宇宙だとか何だとか……言うのか……」


 アニヴァの身体の揺れは、更に大きくなり支えきれなくなり、ついに膝をついてしまった。彼女の目と鼻からは血が流れていた。

 それを妹は不安そうに見つめた。


「お、お姉ちゃんっ?!」


 津名は彼女が立てなくなるのを見届けると、また右手を挙げて彼の右手と一体となった光り輝く剣を一振りした。すると、その吸収するエネルギーの流れが切れた。


「くっ……」


 それを見つめるとアニヴァは、もはや勝ち目は無いと悟った。彼女は後ろを振り返り、妹に向かって叫んだ。


「マ、マリアンニッ!」


「は、はいっ?!」


「に、逃げろっ!お前は逃げるんだっ!余がこいつを止める間にっ!」


「えぇっ!」


「マリアンニッ!は、早くしろっ!!」


 アニヴァは妹に逃げると言うと、無駄だと分かっていても両手を再び津名に向けて、敵を足止めしようとした。


 しかし、自分の腹に巻き付く小さな手が見えて、背中に抱きついた妹は何をしているのかとイラついた。


「バ、バカッ!何をしているっ!余は逃げろと言ったんだよっ!このままでは二人ともやられるんだっ!今までの苦労を考えろっ!」


 アニヴァはその手を思いっ切り離そうとしたが珠川は決して離そうとしなかった。


「いやいやっ!それだけはいやっ!私はお姉ちゃんと一緒にいるのっ!」


「マリア……、バカなことを止めろっ!」


 珠川は、自分の死よりも姉との別れの方が嫌なだけだった。その思いはより強く姉を抱きしめて、その目には涙が溢れていた。


「やだよぉぉ、うわぁぁぁぁん……。い、いつも一緒だったじゃん……。何でそんなこと言うんだよぉぉぉっ!」


 妹の涙を見てアニヴァの腕はゆっくりと下ろされていき、その目は何故か空を見つめていた。


「……」


 すでに空は闇に落ちていた。この闇は自分達のようだなとアニヴァは思った。夜は自分達の活動する時間であり、昼間は隠れている時間だった。しかし、日本に来て少し様相が変わった。自分達を追うものは無くなり、昼間に活動することも多くなった。時代は移り変わって、妹も念願の学校に通えた。彼女が高校生として生きるために猛勉強した姿を思い出した。

 それは二人の目指した普通の生活だった。


 姉妹で作ってきた思い出が走馬灯のようにアニヴァを襲い、彼女の目にも涙が溢れていた。その涙は彼女に覚悟を促した。


「分かった、ここで終わろう……」


「アニヴァお姉ちゃん……っ!」


「もう十分だろう……」


 妹も姉の決意に同意した。


「うん、そうだね。学校にも行けたしね……」


 長く生きたた二人の姉妹は互いに抱き合って目を瞑った。それを見届けると、津名は右手の剣を天に向けた。


「つ、津名君っ?!だ、だめだよっ!!」


 日高は二階から津名が二人を切り捨てようとしているのを止めようと叫んだが、津名は彼女にニコリとすると、右手を下に振り下げた。


「あっ!」


 しかし、それは剣の一筋では無かった。光の膜のようなものがアニヴァと珠川を包んだ。その膜は彼女らの身体をすり抜けるように地面に落ちるとそのまま消えていった。


「……えっ!それは何っ?!」


 日高もその膜が何をしたのか分からなかった。無論、当人達も同じだった。


「し、死んでない……?死んでないよ、お姉ちゃんっ!」


「お前……、余達に何をしたっ!」


 いつもの学生服姿に戻っていた津名はアニヴァに答えた。


「だから、勘違いしないでほしいんだけど……。僕は君たちを殺したいわけじゃないよ。君たちの仮の両親は、ホームに帰りたいと言ってたので切ってしまったけど……。と言っても心の声なんだけどね……」


 津名がとぼけたようにそう言うと、大寬は津名に指を向けて大声で怒り始めた。


「はぁ~っ?!あり得ないってっ!なんで許しちゃうの?!バカじゃないの、あんたっ!」


「また、酷いこと言う……。許してあげようよ、美しい姉妹愛だろ……」


「あっきれた……、もうあんたには愛想尽かした、もう知らないっ!」


「えっ!なに?愛してくれていたのっ?!さすが愛の女神様っ!」


「バカッ!」


 大寬は、津名に思いっ切りビンタを食らわした。


「な、なぜ、物理攻撃……?痛い……」


 日高は、またも様変わりした大寬の姿を見て開いた口が塞がらなかった。


「ワ、ワンちゃん……?さ、さっきまでのラブラブオーラは……?」


「誰がワンちゃんよっ!!私がラブラブオーラとかあり得ないってっ!」


 大寬はすっかりツンツンモードに戻っていた。


 暗くなったアパートの庭は、どこからかの明かりで静かに照らされていた。


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