全てが消える
赤く燃え上がる小さな太陽のような火球が渦を巻き、凄まじい暴風が辺りを引き裂く中で、ギエナは混乱しながら蜘蛛糸の足を必死にばたつかせていた。
「おいおいおいおいっ!なんじゃらぁぁぁっ!!太陽台風だらけっ!!タイタイだよ、タイタイっ!!!ヤバヤバのフ~っ!!また、死んじゃうぅぅぅっ!フ~だよ、フ~ッ!!フ~ッ!!フ~ッ!!ダメじゃぁぁっ、ふ~ってしても消えないっ!!」
呆れた顔のポリマーは、暴風に体を揺さぶられながらも必死にギエナへと叫んだ。
「ギエナッ!ふ~ふ~言ってないでレイラを連れて逃げなさいっ!!早くっ!!」
「う~、分かったっ!」
ギエナは暴風の中、レイラの元に移動する。
「レイラ、逃げよぉぉ」
しかし、赤く燃え上がる身体となったサダクを必死に守るレイラは、決して彼から離れようとしなかった。
「い、嫌よっ!サダクを置いていけないっ!!ギエナ、あなたは逃げてっ!」
「う~~……、レイラ~、ごめんよぉぉぉっ!君の護衛もあたしの仕事なのだよ」
「えっ、護衛っ!?……うっ!」
ギエナは手早くレイラに眠りを誘う簡単な魔法をかけて静かに気を失わせると素早く背負う。その様子を見て、気力で魔力暴走を抑えていたサダクは安堵の息を漏らし、ほんの少しだけ笑みをこぼした。
「ギ、ギエナ、すまん……」
「サダクぅぅぅ……ごめんよぉぉ。あたしには君をどうすることもできなよ。レイラは守るぞっ!」
サダクは暴走が抑えきれなくなり、他の三ツ目族のように赤く眩しく光り出す。
「あぁぁぁっ!!広がるぅぅぅっ!早く行けぇぇぇっ!」
ギエナは申し訳なさそうな顔をしながら、サダクから離れる。ポリマーはイェッドと自分を覆うように魔法障壁を張り、暴風と瓦礫を防いでいる。
「ポ、ポリマーとイェッドはどうするんじゃまいかっ!?」
ポリマーが答える。
「私達は平気だからレイラを連れて早く行きなさいっ!!」
「わ、分かった……。宇宙的な魔法で何とかしてぇぇぇ~~っ」
不安そうな顔をしながらもギエナはレイラを背負いながら立ち去るしかなかった。残されたポリマーはイェッドに叫ぶ。
「こ、このままでは戻る前に彼らの暴走でこの空間全体が破壊されてしまう……。この魔法防壁も持たない……。イ、イェッドッ、どうするのよっ!……あっ!」
イェッドの龍族の身体に重なるように、もう一つの黄金の身体が浮かび上がっていた。人間の姿をしているその影は、背から大きな気流をたなびかせ、まるで翼のように見えた。
光に包まれた男はどこか寂しげに静かに口を開く。
「また、剣を抜くよ……」
言葉と共に右手に光の剣が顕れた。刃は淡く震え、空気を切るような鋭い音が辺りに響く。
「……キャンッ!」
ポリマーが犬のように叫んだ時、空間全体が一斉に動き始める。
「あっ!イフレール、も、戻り始めたわ……っ!早くやってしまってっ!!」
魔族たちの棲む空間が音もなく歪み、空気は粘りを帯び、キノコも人々の暮らしも建物も海までもが揺らぎながら幻のように崩れていく。
光を纏った戦士は静かに舞い上がり、冷ややかな眼差しをコカブへと向けた。突如として現れた見慣れぬ魔族の出現に、コカブの顔に一瞬だけ戸惑いの色が差す。
「お、お前は何者だっ!!!今まで現れたこともない……。その姿は……禍族だとでもいうのか?しかし、何か違う……」
「コカブよ、お前が元凶だったか」
「な、なんだと?何故私の名を知る?」
「三ツ目族の魔力暴走を誘発など不要だったはずっ!もうすぐ戻るが、その前に三ツ目族は守らせてもらうっ!」
「な、なぜ戻りを知っているっ!?……き、貴様何をしようとするのだっ!」
光を纏った戦士はコカブの言葉を聞き流すと剣を高く掲げた。刃先から溢れ出した眩い光は波紋のように広がり、街全体へと向けられた。
「闘争と破壊に明け暮れた魂たちよ、そのくびきを平穏へと戻そう……」
「な、何をするのだっ!!」
光の剣を高々と掲げ、戦士が一閃すると、刃先から溢れた眩い光が街じゅうへと降り注いだ。赤く燃える暴風は音を立てることなく収束し、三ツ目族はまるで砂塵のように風に溶けるかのように静かに姿を消していった。残された空気には深い静寂が戻る。
「き、消えた?消えただと?どういうことだ?」
「お前が知る必要はない……また会うだろう」
「な、何者……だぁぁぁ……」
コカブの怒りもその姿とともに幻のように消え去った。
「三ツ目族の巨大なカルマ……。争い続けたが今は静かに過ごしていただけなのに……。それにしたってエメ……、君は何処にいても相変わらずだなぁ……。大きく発展させるのは良いんだけど、どうも最後が良くない……、今回はコカブに……かどわかされてしまった……かな……」
光に包まれた戦士も同じようにこの場から消えた。




