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異端を狩る者の詩は誰も歌わない  作者: 大嶋コウジ
ワールド壱の一:吸収衝動を味わってみるかい?
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ワンちゃん大喜び

 津名は、西洋の絵画ような天使のような姿となった。その手にはいつの間にか光の剣を持っていた。しかし、その顔は険しく自分を責めているようにも見えた。


「剣は抜きたくなかったのに……」


 彼が手にしているのは一条の光だった。彼は一つの光の線を持っているように見え、それは天に向かって真っ直ぐと伸びると彼の掛け声と共に真下に向かって一直線に落ちた。


「神のくびきから外れた悲しき者よ、そのくびきを今こそ元に戻そう……」


 その光は何かを真っ二つにすると、彼の手元に収束していった。彼は二つに割れたものを悲しみの眼差しで見つめた。


 日高は二階の手すりに身体を乗り出すようにその姿を見て驚嘆の声を上げた。


「ちょ、ちょっと、君は一体何者なのよっ!!」


 消えていく一人、母親役の女性は消えながらも笑顔になった。


「あ、ありがとう……ございました……」


 津名は彼女の急速に老いていく姿を見て涙した。不思議な力で数百年生きた女は、死にたいと思っていた。しかし、死にたくもなかった。何も判断できなくなっていた彼女は、自分を断罪する神が目の前に現れたと思い、何のためらいも無く永遠の死を受け入れることにした。


 それは、もう一人の不運な男も同じだった。


「わ、私も殺してくれぇぇ。も、もう、良いのだ……、わ、私は疲れたのだ……。自分を生かすために他人の血を望むなど……」


 男は、一瞬、自分を吸血鬼にした女と目が合って一瞬、怯んだが、その言葉を最後まで言い切った。もはや、自分が生きている意味が分からなくなっていた。


 津名はその男を哀れな目で見つめると、その剣で男も二つに切り捨てた。


「ありがとう……ありがとう……」


 男も女の後を追って消え、男の目から流れた涙が地面に落ちた。


 すると何処からともなく、また犬の鳴き声のような声が聞こえた。


「キャンッ!、キャンッ!日高麻帆ぉぉっ!見た?見た?」


「う、うん?……ワ、ワンちゃん?」


「イフレールを見たかって聞いてるのよっ!!はぁ~~、あれよ、あれっ!と、とろけそうよねぇぇ」


「そ、そうだね……」


 大寬が津名のことをイフレールと呼んでいた事に違和感を感じた日高だったが、それよりもハートマークいっぱいの彼女のはしゃぎっぷりに若干引いていた。


「あっ、おばあちゃんっ!」


 はしゃぎ回っていた大寬だったが、以外にも冷静で津名の祖母の心配をして下に降りていった。


「おばあちゃん、大丈夫?」


「あぁ、大丈夫だよぉ。ありがとうねぇ……」


 大寬は、倒れた彼女を起き上がらせると空き部屋に案内した。


 それを日高はじっと見つめていたのだが、彼女は自分の肩の力が抜けるのを感じた。


(私、驚きすぎて冷静になってきちゃった……。津名君も大寬さんも……、どういった人……?)


----- * ----- * -----


 津名は、いつの間にか庭に出ていたアニヴァと珠川の方を向いた。


「二人が望んでいたことだ……」


 彼は二人の吸血鬼が何かを言う前に言い訳のようにそう言った。それは、君たちはどうするのだ、と言ってるようにも聞こえた。


 珠川は、顔を青ざめさせて姉に助けを求めた。


「ヤ、ヤバいよ、ヤバヤバだよ、お姉ちゃんっ!し、死にたくないよぉ……」


「分かってる……。お前の力は弱いんだ、下がってな」


「う、うん……」


 身体を震わせた珠川は後ろに下がった。


「へ、へっへっ!び、貧乏人めっ!お、お姉ちゃんが力を使えばお前になんて負けないんだからねっ!」


 アニヴァは、赤い目を鋭くさせて津名を睨んだ。


「お前、左腕が使えないだろう」


「あはは、バレちゃった?」


 頭を掻いて苦笑いする津名を見て大寬は大声を上げた。


「はぁっ?!イフレール、左腕が動かないのっ?!ど、どうしたのよっ!」


「いや~、あはは……、ついでに言うと左目も見えにくいし、耳も聞こえにくくてねぇ……」


 確かに彼の左腕は垂れ下がったままだった。左目も少し光を失っているように見えた。


「なななっ!ま、まさかあなたの身体……」


 しかし、苦笑いの津名を睨んだアニヴァはこの窮地に挑むだけだった。


「お前の半身がどうだろうと、お前が何者だろうと、どうでも良いこと……。余達の生活を守るだけなんだよっ!」


 アニヴァは、そう言うと両手を津名の前に出して津名の魂のエネルギーを吸い込み始めた。


「それは分かってる……」


 津名は静かにそう言ってアニヴァを見つめるだけだった。それは彼が彼女のやりたいようにやらせているように日高には思えた。それはアニヴァがどうなるのか、彼には分かっているようにも思えた。


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