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異端を狩る者の詩は誰も歌わない  作者: 大嶋コウジ
ワールド弐の四:サダク編:
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魔法部隊への思い

 しばらくして、魔法部隊員たちが朝の魔法演習をしていると、久しぶりにキナーンが姿を現した。長く部屋に籠もっていた隊長の突然の登場に、みな一様に驚きの声を上げた。


「やぁ、みんな。おはよう」


「た、隊長!?」

「お、おはようございます」

「その……お身体は大丈夫ですか?」

「隊長……おはようございます」


 キナーンの表情は、これまでの沈んだ様子とは打って変わって明るく、晴れやかだった。落ち込んだ顔しか見ていなかった隊員たちは、安堵の表情を浮かべた。


「みんな、心配をかけてしまってごめんね」


 小さな魔法学校の頃から共に過ごしてきた隊員たちは、自然とキナーンのもとに集まり、次々と声をかけた。


「隊長、元気が出たようで良かったです」

「そうだよ、今日は魔法を教えてくれるんだろ?」

「見てくれよ、炎の魔法を使えるようになったんだぜ?」


 しかし、アルバリだけは違和感を覚えた。キナーンの目はどこか寂しげで、三つの目もいつもの輝きを失っているように見えた。無理に明るく振る舞っているが、心の奥に何か重いものを抱えているのが伝わってきた。他の隊員たちが安心する中、アルバリだけは不安を拭えなかった。


 そんなアルバリの視線に気づいたのか、キナーンが声をかけてきた。


「アルバリ、どうしたんだい?」


「い、いえ……。お、おはようございます」


「この前は食事を作ってくれてありがとう」


「そんなこと……。あ、あの……」


「ん?」


「何て言えば良いのか……、お気持ち……、ご機嫌いかがでしょうか……」


 とっさに出たのが普通の挨拶のようで、自分でも何を言ってるのかと思った。


「大丈夫だよ?特に問題ない」


 しかし、その目は自分を見ていなかった。どこか上の空で、言葉にも力がなかった。


(いつもなら、ちゃんと目を見て話してくれるのに……。今は自分の目を見てくれない。隊長は嘘をついている。本当に元気になられたの?)


 キナーンは隊員たちの方を向き、魔法の演習を始めた。いつもより大きな声で、元気なふりをしているようだった。


「さあ、魔法の練習だよ」


 何事もなかったかのように、キナーンは隊員たちに魔法を教え始めた。将来の課題も的確に伝えていた。


----- * ----- * -----

「タスキ、水魔法が苦手なようだね。魔法書の第六章を読み直してもごらん。その後、雷魔法を覚えれば十分活躍できるようになるよ。アルバリを助けられるようなリーダーになって欲しい」

----- * ----- * -----

「諦めないでっ!この魔法は今は役に立たないが、五年後、リーダーになったときに必要になるから」

----- * ----- * -----

「君は詠唱文字が崩れてしまっている。ゆっくりで良いからしっかりと書くようにしてごらん」

----- * ----- * -----

「君は教え方が上手いね。数年したら教師役もやってくれるかい?」

----- * ----- * -----


 夕方になると魔法演習は終了した。


「よし、今日はここまでにしよう」


 隊員たちは課題を確認し合いながら、それぞれの宿舎へと戻っていった。しかし、アルバリだけはその場に残り、キナーンの背中をじっと見つめていた。


「アルバリ?帰らないのかい?」


「えっ!あ、あの副隊長として最後まで残って……、そ、そのあ、後片付けをしないとっ!」


「そうかっ、ではお願いするね。僕は帰るね?」


「は、はい、お疲れ様でした。本日はありがとうございました」


「はい、お疲れ様」


 アルバリは宿舎に戻っていくキナーンの背中をじっと見つめ続けた。


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