魔法部隊への思い
しばらくして、魔法部隊員たちが朝の魔法演習をしていると、久しぶりにキナーンが姿を現した。長く部屋に籠もっていた隊長の突然の登場に、みな一様に驚きの声を上げた。
「やぁ、みんな。おはよう」
「た、隊長!?」
「お、おはようございます」
「その……お身体は大丈夫ですか?」
「隊長……おはようございます」
キナーンの表情は、これまでの沈んだ様子とは打って変わって明るく、晴れやかだった。落ち込んだ顔しか見ていなかった隊員たちは、安堵の表情を浮かべた。
「みんな、心配をかけてしまってごめんね」
小さな魔法学校の頃から共に過ごしてきた隊員たちは、自然とキナーンのもとに集まり、次々と声をかけた。
「隊長、元気が出たようで良かったです」
「そうだよ、今日は魔法を教えてくれるんだろ?」
「見てくれよ、炎の魔法を使えるようになったんだぜ?」
しかし、アルバリだけは違和感を覚えた。キナーンの目はどこか寂しげで、三つの目もいつもの輝きを失っているように見えた。無理に明るく振る舞っているが、心の奥に何か重いものを抱えているのが伝わってきた。他の隊員たちが安心する中、アルバリだけは不安を拭えなかった。
そんなアルバリの視線に気づいたのか、キナーンが声をかけてきた。
「アルバリ、どうしたんだい?」
「い、いえ……。お、おはようございます」
「この前は食事を作ってくれてありがとう」
「そんなこと……。あ、あの……」
「ん?」
「何て言えば良いのか……、お気持ち……、ご機嫌いかがでしょうか……」
とっさに出たのが普通の挨拶のようで、自分でも何を言ってるのかと思った。
「大丈夫だよ?特に問題ない」
しかし、その目は自分を見ていなかった。どこか上の空で、言葉にも力がなかった。
(いつもなら、ちゃんと目を見て話してくれるのに……。今は自分の目を見てくれない。隊長は嘘をついている。本当に元気になられたの?)
キナーンは隊員たちの方を向き、魔法の演習を始めた。いつもより大きな声で、元気なふりをしているようだった。
「さあ、魔法の練習だよ」
何事もなかったかのように、キナーンは隊員たちに魔法を教え始めた。将来の課題も的確に伝えていた。
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「タスキ、水魔法が苦手なようだね。魔法書の第六章を読み直してもごらん。その後、雷魔法を覚えれば十分活躍できるようになるよ。アルバリを助けられるようなリーダーになって欲しい」
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「諦めないでっ!この魔法は今は役に立たないが、五年後、リーダーになったときに必要になるから」
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「君は詠唱文字が崩れてしまっている。ゆっくりで良いからしっかりと書くようにしてごらん」
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「君は教え方が上手いね。数年したら教師役もやってくれるかい?」
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夕方になると魔法演習は終了した。
「よし、今日はここまでにしよう」
隊員たちは課題を確認し合いながら、それぞれの宿舎へと戻っていった。しかし、アルバリだけはその場に残り、キナーンの背中をじっと見つめていた。
「アルバリ?帰らないのかい?」
「えっ!あ、あの副隊長として最後まで残って……、そ、そのあ、後片付けをしないとっ!」
「そうかっ、ではお願いするね。僕は帰るね?」
「は、はい、お疲れ様でした。本日はありがとうございました」
「はい、お疲れ様」
アルバリは宿舎に戻っていくキナーンの背中をじっと見つめ続けた。