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異端を狩る者の詩は誰も歌わない  作者: 大嶋コウジ
ワールド弐の四:サダク編:
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強さと弱さ②

 翌朝、キナーンは目が覚めたがベッドの上で放心状態だった。自分を捨てたプリマが戻ってきた。驚きもあったが、嬉しくもあった。しかし、彼女の奔放な性格も知っていた。その奔放さによって来ただけのような気もしていた。だが、もしかしたら寄りを戻せるかもしれないという淡い期待もあった。

 朝の光が差し込む部屋の中、キナーンは昨夜の出来事を思い返しながら隣にいるプリマの姿を見つめていた。ベッドの上で静かに眠っていた彼女が、やがてゆっくりと目を覚ます。


「ふわぁ~~……。あら、おはよう、キナーン」


「お、おはよう……」


「どうしたの、私を見つめちゃってっ。照れちゃうじゃない、ふふっ」


「い、いや……」


 キナーンは顔を赤らめ、目を逸らしてしまった。しかし、プリマがどうしてやって来たのか確認したかった。


「き、昨日はどうしたんだい?突然、その……来たから少し驚いてしまって……」


「ふふふっ、突然、来たらダメなの?」


「そ、そんなことは……」


「君に会いたかっただけっ、……これだとだめなの?」


 無邪気に笑うプリマだったが、本当だとはどうしても思えなかった。


「駄目ってことはないけど……その……」


 プリマはため息をつくと正直な気持ちを漏らし始めた。


「もうっ、そこまで言うなら話しちゃうけどさ~……」


 プリマはキナーンの背中を指でそっと撫でた。彼は突然触られてビクッとした。


「君さ~、この街から逃げようとしたでしょ?分かっているんだからっ」


「ぼ、僕は何処にも行かない……」


「ま~た、そんなすぐにバレるような嘘をついてっ!あの荷物もそうだけどっ、嘘をつくのが昔からほっとに下手なんだから~っ。君の可愛いところだけど」


「そ、そんなことは……」


 嘘がバレてしまったキナーンが戸惑っていると、プリマはあきれ顔でため息をついた。


「はぁ……もう、仕方ないなぁ」


 プリマはキナーンの背中を撫でていた手を止めると、少し強めにつねった。


「い、痛っ……」


 そのまま背中に抱きつき、耳元で静かにささやいた。


「いい?もし逃げたら、"犯された"ってみんなに言っちゃうからね」


「なっ!?」


 キナーンは驚いて振り向いたが、プリマは無邪気な笑顔を浮かべていた。


「君は女神の娘を犯した罪で死刑かも?フナボシおじさんも評判を落として町長じゃなくなっちゃうかもなぁ~……ね?」


 プリマの脅しに、キナーンの淡い期待は一瞬で絶望へと変わった。彼女は自分の逃亡を見抜き、逃げられないように巧妙な罠を仕掛けていたのだ。


「そ、そんな……。き、君は僕を罠にかけた……のか……」


「罠?って、ヤだなぁ。だから言いたくなかったのに。君に会いたかったのは本当だぞ、寂しかったんだから」


「し、しかし、君は……」


「もう全部言っちゃうけど。私が来たって事はぁ……」


 次の言葉でキナーンは恐ろしさのあまり寒気が走った。


「……お母さんが察していたってことよ」


「キ、キエティ様がっ!?」


「だって、この頃、君の落ち込みがあからさまなんだもの。お母さんがさ~、君を外に出すなって私に言うんだよ?」


「そ、外に出すな……、そうおっしゃった……のか……」


 キエティはすでに自分の行動を見抜いていた。つまり、彼女に裏切り者と見なされたのだと悟った。そうなれば、次に拷問を受けるのは自分だ――その恐怖に、キナーンの身体は震え続けた。


「それにさ~、あんなエロ王様とか、汚職まみれの王族なんて守る必要ないって。君が色んなエンチャントを弱めていたことも、お母さん知ってたよ?」


「……そ、それは……」


 そこまで見抜かれていたのかと知り、キナーンは言葉を失った。逃げ場はもうどこにもなかった。ただ呆然としていると、プリマがそっと背中に手を回し、優しく抱きしめてきた。


「こんなに震えちゃって、可哀想……。良い子にしていたら、また可愛がってあげるからね?」


 それでも、キナーンの心には最後の疑問が残った。ためらいながらも、どうしてもプリマの本音を聞きたかった。


「き、君はキエティ様の……、お母さんのやり方をどう思っているんだ……」


 キエティは一瞬言葉をつむんだが、肩をすくめた。


「変なこと聞くね。お母さんが何か悪いことしているみたい」


「し、しているじゃないかっ!同じ種族にあんな酷いことを……」


「それはお母さんが強いからでしょ?」


「つ、強い……?」


 プリマはキエティが強いと言い切った。キナーンが思っていないセリフだった。


「なによ、そんな驚いた顔をしてっ!だって、この国は強い人が支配することになってるじゃない。毎年、武道大会とか開いちゃってさ~。そこで勝ったら王様になるって、ばっかみたい。脳筋かって~の」


「だ、だけど、そのお陰で戦争がなくなって多くに人が死ななくて済むように……」


「でもさ、脳筋しか勝てないじゃない?そんなの力の弱い人が不利でしょ?」


「そ、そうだけど……」


「お母さんは力が弱い人でも"勝てる"って証明してくれたのよ。何でか知らないけど女神様にもなっちゃったッ!あははははっ!」


「……だ、だから、君はキエティ様に従うというのか……」


「そうだよ。強い人に従った方が生きていく上で有利でしょ?」


「だ、だけど……」


「だけど、だけどって否定ばっかりっ、疲れちゃうよ?それにね、私も力は弱いけど武器を持っているつもりっ!君も"負けちゃった"でしょ?」


 プリマはまた自分の胸をキナーンの背中に押しつけた。


「あ、あぁぁ……」


「お母さんは"これ"を認めてくれるし、ご褒美で綺麗な物も買ってくれたよ?」


 今度は指輪を見せびらかすようにキナーンに見せた。彼はもはや何も言えなくなっていた。


「……」


「もう良いでしょ?今日はずっと遊ぼうよぉ~……、ね?」


 キナーンはプリマに押し倒されるとキスを甘んじて受け入れた。彼女のなされるがままとなりながら、とりとめの無い考えが浮かんでは消えた。

 プリマの言葉がキナーンの頭にこだました。


"それはお母さんが強いからでしょ?"

"私も力は弱いけど、武器を持っているつもりっ!"


 キエティやプリマは女だった。女は男に比べて力も弱かった。そんな彼女らが自分達のやり方で男である王に勝った。彼女達は強いと言えるのか、勝利者だからといって多くの人を殺してもいいのか、人を閉じ込めて自分の考えを強制していいのか、それに比べて自分は逃げているだけではないのか、キナーンは訳が分からなくなって涙が流れた。


(僕は……負けたのか……)


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