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異端を狩る者の詩は誰も歌わない  作者: 大嶋コウジ
ワールド壱の一:吸収衝動を味わってみるかい?
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貧乏くんの診断

 小さな部屋に魂の一部を吸収する能力を持つ二人の少女と、極限貧乏少年、そして、普通の少女が対峙していた。


「余らは逃げて逃げて……最も東の国にたどり着いちまっただけだ、もう許してくれ……」


 アニヴァという名前だった幼い少女は、何かを思い出しながら苦しそうに叫んだ。


「さっきも言ったけど君たちの生い立ちは分かっている。ねぇ、申し訳ないけど、もうそろそろホームに帰らない?」


「お前の言っているホームってはどこのことなんだよっ!」


「この星の霊域のことだよ。どの星にもある魂の故郷のこと」


 さらっと言った言葉だったが、アニヴァは意味を理解して腹を立てた。


「ちっ!余らを殺すってことじゃないかっ!」


「えぇっ!こんな貧乏が私達を?あははっ!あり得ないって、お姉ちゃんっ!」


 殺すって聞いて日高も驚きの顔を隠せなかった。


「えっ!!津名君、ほ、本気で言ってるのっ?!」


 アニヴァと珠川女は自分を殺すために現れた聖職者に身構えた。しかし、津名は慌てた。


「こ、殺すって、それは違うよ……。君たちの遺伝子の病気を戻すだけだよ。あと貧乏って言わないで……」


「はぁっ?遺伝子だって?」


「病気って言った?私達って病気だったの、お姉ちゃん?」


 アニヴァも珠川も津名が何を言っているのかと顔を見合わせた。


「君たちのテロメアは壊れてしまっていて永遠に細胞が作られ続けているんだ」


「そ、それで死ねない……」


「お姉ちゃん、テロメアって何なの?」


 珠川の質問に津名は丁寧に説明した。


「テロメアってのは魂修行の制限時間と関係している仕組みでね。この星では宇宙時間で7にセットしているみたいだね、誤差で星の個性とその人の個性も関わってくるんだけど……、あ、余談だった。ま、まぁ、細胞分裂を制御する仕組みがテロメアなんだ。DNAは分裂の度に短くなっていくんだけど、君たちの場合は短くならないんだよね」


 珠川は自分以上に自分を知っている津名に質問せざるを得なくなっていた。


「ね、ねぇ……貧乏くん。で、でも、私達はどうやって病気になったの?」


 だが、アニヴァは敵と仲良くするなと、妹を叱りつけた。


「えんっ!勝手に聞くなっ!」


「ひっ!でも、気になるじゃん……。私達だけこんなのって変だもん……、貧乏くんが何か知ってるんだよぉ……」


 それは自分の特別な命をありがたがるというより、病気と言われたことに納得した珠川の当然の言葉だった。


「び、貧乏くん……?ガクッ……。と、ともかく、君たちは炭鉱近くに住んでいただろ?その炭鉱にウラン鉱石も少しだけど混ざっていたんだ」


「ウ、ウランだって……?!」


 アニヴァはその言葉でハッとした。


「その鉱石から放射線が放出されてしまっていた。雨に乗って君たちの周りの人達も被爆してしまったはず……」


 津名の言葉に珠川も自分達の両親のこと、そして、街中の人達の異常な病気について思い出した。


「お父さんとお母さんの病気のことっ?!あぁ、町の人達もだよね……。前にお姉ちゃん言ってたじゃん。この国で被爆した人達と似ていたって……」


「……くっ!そ、それなら、余とマリアンニ……、えんはどうなんだ……ま、まさかっ!」


 アニヴァは顔をゆがめながら津名に聞いたが、話ながら自分達の病気のことを理解してしまった。


「君たちも被爆している……。しかし、特殊な遺伝子の壊れ方をしてしまった」


「それがさっきのテロメアだってのかっ!」


「そう……」


「で、では、あ、あの吸収能力は何なんだ……」


 アニヴァもすでに津名の言葉を信じ始めていた。


「君たちは寝れないだろ?」


「そ、そうだが……」


「君たちが眠れなくなった理由は分からないんだけど、魂修行している人達は寝てるときにホームに帰って宇宙のエネルギーをもらってくるんだ。この星なら太陽から降り注いでいる。しかも、死ねないから君たちは常にエネルギーが枯渇している」


「……だ、だから?」


「……だから足りない分を他の人間から吸収しているんだ。地球の神様も君たちのような人達が生まれることを想定していたのかもしれない」


「ば、ばかなっ!う、うそをつくなッ!」


「えぇ……、ちょっと……、お、お姉ちゃん……、これって本当なの?」


 アニヴァと珠川は、今までの自分達の人生は何だったのだろうかと思った。自分達の苦労は、病気で片付けられるような内容だったのだろうかと思った。

 日高も、ふ~、ふ~っと息を吐きながら頭を抱えてクルクルと回っていた。


「フ~ッ!フ~ッ!んが~っ!フ~ッ!フ~ッ!」


「日高さん、お、落ち着いて……」


 日高の混乱も最高潮に達していた。


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