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異端を狩る者の詩は誰も歌わない  作者: 大嶋コウジ
ワールド壱の一:吸収衝動を味わってみるかい?
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アニヴァ II

 そこはシスターだけで運営するような小さな教会だった。そして、余と同じような孤児が10人ぐらい居た。寄付と教会の庭に出来る野菜だけで暮らしていたから、皆はいつも腹を空かしていた。しかし、そいつは大きな問題じゃ無かった。その頃から、余は見えないものも見えるようになっていた。つまり、魂や精霊ってやつさ。しかも、夜は眠れない身体になっていて、余は常に"起きている"ようになった。


 教会そばにあった墓地に行くと天国に帰れない魂達が沢山いた。森には可愛らしい妖精やゴブリンみたいな醜い精霊もいたんだが、夜はそいつらと会話するようになった。同じ孤児の仲間にそういったことを話したら気持ち悪がって相手にしてくれなかった。妹は小さいし、シスターもどうせ同じだろうと思って自分だけの秘密にしていた。


 ある日、病気になったという人が教会に現れた。教会で病人が治るわけないが、医学が発達していなかったから頼るものは"神様"って時代なんだ。余は、その人の後ろに居た顔が真っ青で顔が半分腐りかかっている男に気づいた。この程度の気持ち悪い奴は墓地によく居たから怖くはなかった。


 シスターは病気の治療を出来るわけもなく、祈りを捧げるだけだった。そんな祈りでも神様ってのは救ってくれるのかね、そのゾンビ顔の男は苦しみ初めて、やがてシスターに襲いかかってきた。無論、シスターも誰も気づいていなかったさ。しかし、余はシスターを助けなければと思って、とっさにゾンビ霊とシスターの間に入って震えながら両手をそいつの前に出した。シスターに近づくなって願いながらね。


 すると、そのゾンビから何か出て来て余の中に吸い込まれていったんだ。余はその瞬間、とても無い充足感に満たされた。しばらくは食事を取らなくても良いぐらいに腹も膨れた感じがした。それと同時に病気だった人は急に苦しみから解放された。みんながシスターの祈りで奇跡が起こったって言って大騒ぎさ。当のシスターも神の思し召しがあったと喜んでいたから、自分も何だか嬉しかったね。


 それからは病気を治してほしいって人が集まりだして教会は大繁盛さ。寄付金も集まったし、食べ物を持ってくる人達も多くいて、孤児達はしばらくお腹が膨れたもんさ。余もシスターの祈りに同席しては、エクソシストになって"食事"にありついた。


----- * ----- * -----


 しかし、ある日、二人で庭の野菜を世話していた時だった。私に愚痴のようにこう話した。


「アニヴァ……、神様のお力が本当に私にあると思う?」


 シスターは自分の祈りが本当に病気を癒やしているのかどうかと疑い始めていたんだろうね。みんなの前では笑顔でいたシスターが落ち込んでいるを見て、子供心ながら可哀想だと思ったんだ。


「あ、あるよっ!きっとっ!お祈りしているとき、シスターはマリア様みたいだものっ!」


「私がマリア様みたいだなんて……。本当のマリア様に怒られちゃうね」


「そんなこと無いよ、マリア様がシスターを祝福してくれてるんだよっ!」


「ありがとうね、アニヴァ」


 シスターはそれ以上何も言わなかった。自分がやってることを話した方が良いのか迷ったが、結局、誤魔化してしまった。


----- * ----- * -----


 余は、病人が来ない日は墓地に彷徨っている人達からエネルギーをもらった。エネルギーを吸い込んだ後は、消えちまうか、気力を失っちまうかだった。ある日、そんな余の姿をシスターに見つかってしまった。


「アニヴァッ!こんな遅い時間に墓地なんかに来てどうしたの……?」


「え、え~っと……」


「だ、誰かと話でもしているの?」


 余は首を振るだけだった。


「あなた私のお祈りの時、後ろで今のように両手を前に出しているわよね?」


「……」


「それはどんなお祈りなの?いつも私のそばで……もしかして、あなたが奇跡を起こしているの?」


 余は言葉を返せなくなってしまった。子供では、とっさに綺麗な嘘はつけないもんさ。


「……ううん、何でも無い……。夜に一人で出歩いたら駄目よ……。さぁ、教会に戻りましょう」


「……うん」


 シスターはそれ以上何も言わなかった。今思えば、その時に全てを悟ったんだろうね。


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