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異端を狩る者の詩は誰も歌わない  作者: 大嶋コウジ
ワールド壱の一:吸収衝動を味わってみるかい?
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フ~だよ、フ~ッ!

 想像の斜め上を行く初めての男子の部屋に笑いが堪えられなくなった日高は、お腹を抱えて笑った。津名ほずみと出会ってから何度も笑い転げた自分を思い出しながら笑った。何度も笑えるような友達は居なかったので、彼との出会いは特別に思えた。


 そんな津名は窓の方を見ながら困ったような顔をしていた。


「あぁ、やっぱり来ちゃった……」


「え?」


 津名の見つめる先、部屋の窓のところにいつの間にか二人の女性が立っていた。夕焼け空をバックにした幼い少女と若い女性の姿だった。その二人を日高は知っていたので戸惑った。


「ま、迷子の子と、珠川さん?どうしてここに?というか、どうやって入ったの?」


 二人は真っ黒なマントを羽織っていて別人のようにも見えた。黒いマントのせいで赤みがかった髪と真っ赤になった目がより際立たせていた。


「瞳が赤い……?!あんなに赤かったっけ?ゆ、夕焼けのせい……?」


 二人から漂ってくる何かが自分を責めてくるように思えて日高は恐怖した。しかし、津名は二人に向かってとぼけたことを言った。


「ちょっと、土足は止めて欲しいんだけど……」


「ふっ、気にするところはそこかい?」


 少女は鼻で笑うと、子供らしからぬ声で答えた。


「土足厳禁だよ?日本のしきたりは知らないのかい?」


「ここ(日本)は長いから分かっているさ」


 日高は、少女の言う"長い"という意味が分からずにいると、今度は日高の方に話しかけて来た。


「デートのところ、すまないね。日高だっけ?あんときはありがよと」


「え、え~っと、あの後、お家に帰れたの……?」


「ふ、ふふ……あははっ!あんたも空気を読まないねぇ、ちゃんと帰れたさ、良い子ちゃん。しかし、何でこいつと一緒なんだい?」


 日高は顔を赤くしてモジモジとした。


「何でって……、お家に誘われて……」


 そんなラブラブ話を聞いて今度は珠川が笑い出した。


「ぷっ!あははっ!こ~んなきったない部屋でイチャイチャする気なの?日高麻帆ちゃんっ!」


 皮肉たっぷりに言った言葉だったが、日高は照れ笑いをした。


「イ、イチャイチャって……そんな……。そ、それよりも珠川さんも、こんなところにどうして来たの?二人は知り合いなの?」


「お姉ちゃんだからね」


「お姉ちゃん?妹じゃなくて?」


 二人は姉妹のようだったが、年下の少女を"お姉ちゃん"と呼ぶ珠川を日高は理解出来なかった。


「あんたとは仲良くなりたかったけど、私達の邪魔をする奴と仲間だったとはね……、残念だなぁ~」


「じゃ、邪魔?何のこと?」


「その男に聞いてみなって~」


「えっ?」


 日高はそう言われて津名の方を見たが、彼は身構えるでも無く、手に持った麦茶を入れた冷水筒とコップを持ったままだった。


「献血車のところに居たあの二人は誰なんだい?君たちの親じゃ無いよね?……麦茶飲む?」


「津名君、それって献血車のところにいた二人のこと?」


 日高は、津名の言葉を聞いて、採血のために居た二人の中年男性と女性のことだと分かったが、それが何なのだろうと思った。少女は淡々と話を続けた。


「あぁ、ここ(日本)で"見つけた"親さ。ああいうのが居ないと住みにくいのさ、この国は。住民登録とか面倒だろ?あんたらに分かりやすく言うなら、眷属って言うのかねぇ。……今は喉は渇いてないよ


 少女は津名の出した麦茶を断りながらそう言った。珠川が首を振りながら困ったというジェスチャーで続けた。


「そうなんだよね、学校にも行けないもんね」


 日高は少女の言葉も珠川の話も飲み込めなかった。


「み、見つけた親とか、眷属って、ど、どういう……」


 津名は親と呼んだ二人の中年男性と女性について聞いた。


「彼らの魂は縛られてしまっていたよ。あれじゃあ、ホームに帰れない。何をしたんだい?」


「さぁね……」


「お姉ちゃんの魔法だよっ!目でビ~ってやるとみんな言うことを聞くんだっ!すごいだろっ!」


 少女はとぼけたが、珠川が自慢げに答えてしまった。


「えんっ!余計なこと言うなっ!!」


「えぇ~、だってお姉ちゃんはすごいじゃん……、睨まないでよぉ~、ご、ごめんなさい……」


 怒られてしょぼんとなった珠川だった。津名は少し感心していた。


「催眠術みたいな能力かい?しかし、命を延ばす事も出来るんだからすごいかも……。いつの時代の人?」


「ふっ、余らがここに来た頃だから、江戸って呼ばれた時代だったかねぇ」


「はぁっ?!400年ぐらい前の人達?あの二人がぁぁっ?!」


 少女の言葉を聞いて日高は思わず声が出てしまった。


「霊体の力の吸い込みと、生き血まで飲んでいるんでしょ?吸血鬼みたいだね」


「きゅ、吸血鬼ぃぃっ?!あなたも、た、珠川さんもっ?!」


 津名の話した内容に、日高はまた声が出てしまった。日高が二人の吸血鬼を見ると珠川が彼女にウインクしたのでドキッとした。しかし、少女は気落ちしているようだった。


「余らはこうして何百年も生きてきたんだ……、お前に何が分かるって言うんだ……」


「一応、君らのことは分かっているつもりだよ。そのために来たんだから」


 津名はそう言ったが、少女はそれを聞いて腹を立てた。


「はぁっ!私らのことが分かるだってぇ?お前は何者だって言うんだい?」


 少女は得体の知れない津名の正体を探るように聞いた。


「君たちのような特殊な人達を狩る者って言えば良いかなぁ、いやぁ、僕は狩るって言い方が嫌いなんだけど……。宇宙を統べる方から命令を受けていてね」


「……な」


 少女は何かを言おうとしたが、その前に日高が大声で叫んだ。


「なにそれぇぇぇっ?!フ~だよ、フ~っ!」


 その言葉の意味は誰もが分からなかったので時間が一瞬停止した。ちょっとした後、代表して津名が聞いた。


「そ、その"ふ~"ってなに?」


「え~、イミフだって意味っ!」


「イミフ?」


「い・み・ふ・め・い~~っ!君たちはフ~だよっ!んが~~っ!」


 日高は声を上げて自分は理解出来ないと叫んだ。珠川は少女に耳打ちした。


「お姉ちゃん、若い子の言葉だよ。ドラマで流行ったらしい」


「フ~かい、あははっ!ホントに余らはフ~だねぇ」


 少女は自分の境遇を笑っているようだったが、真顔に変わった。


「しかし、宇宙からの命令で狩りに来たってのは笑えないね。イエスの聖職者もよく私達を殺そうと来たんでねぇ……」


 少女は話ながら怒りを抑えきれなくなっているようだった。


「全くっ!どいつもこいつも腹が立つっ!余らはただ静かに暮らしたいだけなんだっ!」


「ひぃっ!」


 日高はその声に身体を震わせたが、津名は彼女の背中をポンと叩いて大丈夫だと教えた。


「君たちは、炭鉱近くに住んでいただろ?」


「そ、それが何だって言うんだよっ!」


 少女は津名に声を張り上げ、自分達の今までの人生を振り返った。


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