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異端を狩る者の詩は誰も歌わない  作者: 大嶋コウジ
ワールド壱の一:吸収衝動を味わってみるかい?
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クラスメイト

「剣は抜きたくなかった……」


 彼が手にしているのは一条の光だった。彼は一つの光の線を持っているように見え、それは天に向かって真っ直ぐと伸びると彼の掛け声と共に真下に向かって一直線に向かった。


「神のくびきから外れた異端なる者よ、今こそ浄化しよう……」


 その光は彼女の目の前にあった者を真っ二つにすると、彼の手元に収束していった。彼は二つに割れたものを悲しみの眼差しで見つめた。


「ちょ、ちょっと、君は一体何者なのよっ!!」


 一人残された彼女は驚きの声で彼の後ろ姿にそう叫ぶしかなかった。


----- * ----- * ----- * ----- * ----- * ------


 日高麻帆は、いつものように自室で目が覚めた。

 しかし、疲れが取れないのか都内のT高校への準備もままならず、今日も家に籠もろうかと考え始めていた。


「麻帆、朝ご飯できたよ……」


 母親の声が、ドア越しに聞こえた。その声は恐る恐る娘の機嫌を伺うような声に聞こえた。


「うん……、行くよ……」


 それは力ない決意だった。母親の心配する声に応えねばと自分を励ます意味もあった。


「ご飯はここに置いておくわね」


 麻帆の部屋の前に何かが置かれる音がした。それは彼女の為に作られた朝ご飯だった。彼女はドアを少し開くとそれをお盆毎部屋の中に入れて食べ終わると早々に部屋を出て、学校に向かった。


----- * ----- * ----- * ----- * ----- * ------


 麻帆は学校に行くのが嫌になったのは、いつからだろうかと思った。学校の通り道にあるビルの間、あいつらがいるのは確実だった。


「まほ ちゃ~んっ!」


 T高校と同じ区域のC高校、そこの女子高生、四人が学校にも行かず毎朝同じ場所でたむろしていた。それぞれが茶髪にイヤリング、短いスカート、パーカーを着ている子も居て、以下にもやる気無くダラダラとしていた。


 その一人、赤渕由布子に目を付けられていた日高は、見つかってしまったと思って気が重くなった。彼女とは小学校の頃から知り合いだったというだけで因縁を付けられていた。


 日高は、からまれたくなかったので、そのまま立ち去ろうと足早になった。


「麻帆っ!無視すんなよ」


 しかし、逃げ切れるわけも無く、赤渕の大きな声に日高はビクッとして自然と足を止めてしまった。日高は、恐る恐る赤渕の方を見た。四人はニヤニヤと彼女を見つめていた。


「ゆ、由布子ちゃん……、な、何か用事……?」


 赤渕は、その気弱な声を聞くと更に図に乗るように命令を日高にくだした。


「喉渇いたんだ~、コーラ買って来てくれな~い?」


「え……、えっと、学校に遅れて……しまう……」


「えっ?よく聞こえないんだけどぉ?」


「か、買ってくるね……」


 自動販売までは大した距離ではなかったので、自分で買いに行けば良いのにと日高は思ったが、そんなことはどうでも良いことなのだろうと思った。赤渕は、いつも何かとケチを付けては日高を自分達のパシりに使っていた。


 日高は自動販売機の前に到着するとID入りの腕時計を振れさせてコーラを購入した。


「か、買ってきたよ」


「はぁ?なんでダイエット用なのっ?あんた私が太っているって言いたいわけっ?」


「ち、違う……。ま、間違えた……の……」


「ったく、使えねぇ~な~、ちょ~使えないんですけどっ!こんなのいらねぇよっ!」


 赤渕は、因縁を付けてコーラを日高に投げつけた。


「お、お金は……?」


「間違ったもん買ってきて金払うわけねぇだろっ!」


 日高はどうせ払う気などないくせにと内心思っていた。


「じゃ、じゃぁ、行くね……」


 彼女がもう良いだろうと学校に向かおうとした。


「……ぐふっ!」


 しかし、赤渕は彼女の腹に思いっ切り蹴りを入れてきた。それをもろにうけた日高は腹を押さえて倒れかけた。彼女は赤渕を見ることも出来ず、そのまま座り込んでしまった。


「……ううぅ」


「お前を見てるとムカつくんだよっ!」


 これが昔いっしょに遊んでいた友達かと思うと日高は嫌気が指した。しかし、急に自分の後ろから男性の声が聞こえてきた。


「……あぁ~、駄目駄目、暴力は駄目だって~」


「え?だ、だれっ?」


 腹を押さえながら日高はその声の方を向いた。声の主は、自分と同じ高校の制服を着た青年だった。笑っているように見えるような細い目をしていたが、悲しい目で赤渕を見ているようにも見えた。


「君たち、何でこんなところに……?行き場がないの……?」


「あぁん?割り込んで来やがって何なんだてめぇはっ!」

「なんだよ、こいつ」

「ざっけんなよっ!」

「消えろよっ!」


 日高は彼が唐突に現れたように思えた。


「き、君は何処に居たの……?」


 彼女は、彼が誰なのかはどうでも良くなって思わずそんなことを聞いてしまった。


「あははっ!まぁ、良いじゃないか。それよりもお腹は本当に痛い?」


 しかし、彼はそれには答えず、日高に不思議な事を聞いた。


(痛いはず……だけど、あれ?痛くない……?)


 すると自分の腹の痛みがすっと治まっていったので彼女は驚いてしまった。


「んだよ、お前はっ!麻帆と同じ学校か」

「こっち来んじゃねぇよっ!汚ったねぇ制服だなぁっ!!」

「かっこつけてんじゃねぇよ、あっちいけ、きも男っ!」

「きもっ!きもすぎっ!」


 赤渕や彼女の仲間も、突然現れた青年に驚きつつ、しかし、勝手に割ってきた事に腹を立てて彼に罵詈雑言を投げた続けた。


「……ひ、酷い。僕は"津名ほずみ"だ。あれ……だったような気がする……ちょっと待ってね」


 津名ほずみと名乗った彼だったが、少し弱気な声だった。そして、後ろを向くとクチャクチャのメモを制服のポケットからまさぐり出して何かを確認した。


「うん、合ってる……。私は津名ほずみだっ!」


 今度はふんと胸を張って答えた。日高はその時は彼の行動を不思議に思うしか無かった。


「知らねぇよっ!帰れよっ!」

「帰れっ!帰れっ!」

「なんなん?」

「アホだろ、こいつっ!」


 赤渕達は、帰れを連呼して不審な男を遠ざけようとした。


「こんなところに居てもさ……。説明で分かってもらえるかなぁ……。どうしてここにいるか分かる?分からないよねぇ……」


「意味、分かんねぇんだよっ!バカにしてんのかっ!」


 赤渕は、立ち上がると手に角材を持って津名に迫った。


「な~っ!それどこにあった?」


「そ、そこ?」


 津名のツッコミに、日高はそこじゃないだろって思った。ビルの谷間だったが、何故か角材が山住に置かれていたからだった。しかし、それどころではなく、彼女の持った角材は確実に津名にめがけて振り下ろされた。


「キャ~ッ!!」


 日高の悲鳴は、ビルの間に響き渡ったが、それは杞憂に終わった。


「……もう、女子がそんなことをしたら駄目だってぇ」


 角材は空中を舞ってそのまま地面にぶつかった。日高も赤渕もどうして空振りに終わったのか分からなかった。


「はぁ?ど、どうやって避けたっ?」


「物理攻撃はダメだよ……。しかし、君はそんなものを持てるのか……すごいね」


「また、てめぇ、訳の分からねぇことを言いやがってっ!」


 赤渕の角材は、振り下ろされた場所から今度は横向きに津名を狙った。


「しょうがないなぁ」


 しかし、角材は津名にまたも簡単に避けられた。代わりに彼はため息を付いた。


「はぁ~……。愛情を望んでいるのは分かるけど、こんな小さな自己満足で良いのかい?お母さんが悲しむよ?一人で仕事しているんでしょ?君のことをずっと思ってるよ」


 赤渕の事情のことは、日高も知っていた。彼女は小学校は放課後になると学童保育に向かって親の帰りを待っていた。彼女の母親は女で一つで子供を育てていたのだった。しかし、何でそんなことを津名が知っているのか理解が出来なかった。無論、赤渕もそうだった。


「な、何でお前が……そ、そんなことを……。き、気持ち悪いんだよぉぉっ!」


 明らかに赤渕は戸惑ったが、それを振り払うようにまた津名に角材を振り下ろした。


「う~ん、少し痛い目をみないと分からないかなぁ……」


 彼がその角材を避けようとした時だった。今度は、入口の方から女性の声が聞こえた。


「イフレールッ!止めなさいっ!」


「はい?」


 その声の方に津名が顔を向けたため、角材がもろに彼の側頭部にぶつかった。津名は頭を押さえながら声の方を向いて睨んだ。


「い、痛~っ!物理攻撃、痛ぁぁぁっ……!ネシェレ……、急に横から声をかけるなよなぁ……。しかもその名前呼ぶとか……」


 日高も彼が向いている方を向いた。その声の主は、女性は腕を組んで仁王立ちしていてこちらを睨め付けていた。


「あ、あれ?あなたは……、大寬まやさん……?」


 日高は、彼女の姿を見てポカンとした。彼女が自分と同じクラスメイトだったからだった。

 彼女は、長い黒髪とスカートは風になびかせていた。後ろから照らす日の光はその姿を照らし、オーラ漂う天使のようにも見えた。しかし、その表情は険しく、眉毛がピクピクと動いていて天使どころか悪魔にも見えた。


「はぁっ?!あんたが何の罪も無い人を殴ろうとするからでしょっ!あり得ないんですけどっ!」


 日高は、彼が攻撃をするようには見えなかったので、大寬が"殴ろうとした"という意味が理解出来なかった。


「つ、罪が無い?またまた……、この子は罪作ってるでしょ……、見てなかった?」


「知らないわよっ!」


「えぇ~……っ!何で知らないのさ……。教育も大事な仕事のうちだろ?」


「なに~が教育よっ!彼女達の問題だから関わるなって言ってんのっ!暇なの、あんた?」


「暇だけど……」


「んが~~っ!屁理屈ばっかり言ってぇ~っ!」


「だって、見ていられないだろ?」


「この気弱ちゃんがどうするかが問題でしょっ!あんたが助けてどうするのよっ!」


 日高は自分の事を言われた気がした。


(気弱ちゃんって私のことかな……)


「感知したもんは仕方ないじゃないか」


「あぁ~っ!もうっ!あんたはいつもいつも余計なことをいっつもいっつもっ!」


(この状況はどうすれば……)


 いつの間にか、大寬と津名との口げんかに変わっていて、日高はどうしていいのか分からなくなっていた。無論、赤渕も訳の分からない夫婦げんかを見て更に怒りが収まらなくなっていた。


「あんたたちぃっ!私達を無視するじゃねぇよぉぉっ!」


「ちょ、ちょっと、今取り込み中なんだって……」


 すると今後は赤渕の仲間も角材を持って襲いかかってきた。津名はそれらを交わそうとした。


「手を出したら駄目だって言ってるでしょっ!!」


 しかし、またも大寬に諭され手が止まった。そのため、彼は赤渕達に殴られ続けることになった。


「ちょ、ちょ……、痛い痛い……止め……」


 大寬は彼女らを眺めているだけだった。日高も同様で、助けようにも自分が殴られるのが怖くて見ているだけだった。


「ちょ、ちょっと……、え、えぇ……」


 しかし、しばらくすると大寬は両手を思い切り二回叩いた。その音はあたかも鐘を鳴らしたようにビルの間に響いた。


「はいっ!おしまいっ!!」


「ひっ!」


 日高も突然の音でビクッとした。

 その音が響き渡った後、今まで感情のままに動いていた赤渕達は急に角材を捨てた。


「あれ……」

「んあぁ?」

「……あれ、何していたんだっけ?」

「んじゃ、帰ろうかな……」


 そして、放心状態になった彼女達は何処かに行ってしまった。


「えっ?えっ?どういうこと……?」


 日高は何が起こったのか理解出来ないまま、大寬を見つめた。当の彼女は、腕を組んで、ボロボロになった津名を上から見下すように見つめていた。


「バ~カッ!」


 そして、フンと振り返ると、捨てセリフを吐いて彼女も何処かに向かって行ってしまった。

 津名は何とか顔を上げて座ると、後ろ姿の大寬を見つめた。


「……割り込んできて何もしないとか……酷すぎる、イテテ……」


 日高は、慌てて彼の元に向かって彼の手を取って立ち上がらせた。


「……だ、大丈夫……ですか?」


「ありがとう……。あはは……」


 津名は身体のホコリを振り払い、無邪気に笑っていた。今までフルボッコされていた人間とは思えない笑顔だった。


「え、えぇ……、それは、私のセリフです……。助けてくれて、ありがとう……ございました」


「ん?あははっ!そうかもね……、痛っ……」


「あんな子たちに、からんだら駄目だよ。あれ、からまないと駄目なのか?いやいや、無視が良いよ、ムシムシッ!」


「は、はい……」


 日高は、彼についても見覚えがあった。


「あ、あの……あなたって津名君だよね?」


 彼も日高と同じクラスメイトだった。彼女は、さっきの大寬まやといい、今日は何で同じクラスメイトが色々とからんでくるのだろうかと思った。

 しかし、彼は不思議な返答をした。


「あ、あれ?そうだっけ?ついこの前に来たからなぁ……」


「えっ?この前来た?ずっと同じクラスだったでしょ?」


「へ、へぇ~?!あぁぁ、そうそう、そうだったっ!お、同じクラスぅだったよねぇ……」


 津名は、明らかにすっとぼけていた。日高は何を言っているのだろうかと思った。


「……で、誰ちゃんだっけ?」


「ズルッ……わ、私は、日高麻帆だけど……」


「あ、あぁ、そうそう、日高麻帆ちゃんね……あはは……。滑ったみたいだけど大丈夫?」


 かなり長い間同じクラスだったのだが、名前を覚えてくれていなかったことに日高はちょっとショックを受けていた。


 しかし、それ以上に彼が元気そうな姿でいることに驚いていた。


「……津名君は事故に遭ったって、先生が言っていたような気がするけど……」


 彼女は、何日か前に彼は事故に遭ったと担任から聞いていた。


「ま、まあ、軽い事故……だったような気がするよ。身体は頑丈なんだ、ほら、さっきも殴られたけど大丈夫だし、あははっ!イ、イテテ……」


 日高は、どう見ても頑丈そうに見えないので首をかしげるしかなかった。


「触覚はあるんだよなぁ……」


「えっ?何か言った?」


「いやいや……あははっ。そんなことより、早く学校に行かないとっ!って、もう遅刻確定か……はぁ~、初日からやってしまった……」


「初日?……もう9月だよ……?どういう意味?」


「あ、あははっ!な、何でもないよ、さぁ、早く行こうっ!」


「……う、うん」


 日高は混乱したまま、津名と一緒に高校に向かった。向かう途中も彼はあちらこちらを珍しそうにして見ていた。


「初めて来る場所みたい……、そんなに珍しい?」


「えっ!えぇ?そ、そうかい……?あははっ!」


 彼女は、本当に津名ほずみなのだろうかと疑い始めたが、その時は事故が彼をそうさせてしまったのだと勝手に理解した。


-----


 結局、二人は、ホームルームに遅刻して教室に到着した。怒られると思った日高だったが、担任の教師は津名を見ると驚いた顔をして立ち尽くしていた。


「お、お前……身体は……平気なのか……、ほ、報告だとお、お前は……」


「先生、やだなぁ、僕は見ての通りピンピンしていますよっ!」


 津名は担任の言葉を遮るように大きな声でそう答えた。


「だ、だけど、お前の祖母の話だと……。い、いや、今は止めよう……」


 担任はそう言うと頭を抱えて教室を出て行った。日高は、何をそんなに驚いているのだろうかと思ったが、取りあえず遅刻についてはお咎め無しだったので安心して席に向かった。


(あ、やっぱり、大寬まやさん……)


 日高は、教室の窓際に座っている大寬を見つめた。彼女は、自分達の方を睨め付けるように見つめていて、バ~カって口パクで話していた。津名は、頭を掻いて苦笑いをしていた。


(しかし、彼女ってあんな性格だったかしら……?もうちょっとおしとやかだったような気がするんだけど)


 そして、彼らの関係は何なのだろうかと思った。今まで二人が話しているところなんてあっただろうかと思った。そんなことを思って自席に戻ろうとした時だった。津名が意味不明なこと言った。


「あ、あれ?僕の席って何処……だっけ?」


「ズルッ……、えっ?!」


 日高は、また転びそうになってしまった。


「また、転びそうになったね。大丈夫?」


 大寬は、あんたのせいでしょって顔をしていた。


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