小麦粉
私は、朝の11時に起きてから、シャワーを浴びながら歯を磨く。
昼を過ぎると軽い昼食を食べて、直ぐ胃薬を飲んだ。
2錠。
安っぽいプラスチックケースから買ったばかりの衣服を取りだし、鏡の前でポーズ。
それに着替える。
午後14時半を過ぎると家を出た。
交通費を浮かす為に歩いて職場のパン屋に向かう。
いつものこと。
数分後、
ちょうど私が空を何気なく見上げたときだ。
綺麗な青色に、
よくこねた長く大きな小麦粉の塊みたいな雲の集団が遠くから来ているのが分かった。
私は急ぎ足になりながら
"ほんの少しスピードを緩めて"
とその小麦粉の集団にお願いをした。
しかし
辺りに湿りのある風が
ヒュー!ヒュー!って吹き始めると私は、
泣きそうになりながら..
(そのときは、感情的になっていた)
"あと、ちょっとでパン屋に着くから"って、
それに買ったばかりで、
今日初めて着る水色のワンピースがびしょびしょになるから我慢してって
その大きな小麦粉の塊に懇願して腕時計を見た。
午後15時07分だった。
まだ目的のパン屋に着くまで20分くらいかかる所にいた私に、
空はゴロゴロ、ゴロゴロと秒読みを開始した。
"楽しい時間を見つけたときに嫌がらせは付きもの...
だね♪"
ガン...ゴローン...ガガッ..ガガーン!
と運動会の徒競走のスタートみたいなものが鳴ると、
一斉にポタポタポタポタボタボタ! バァァー!
と雨粒は落ちて来た。
雨の集団は地上に、
あの小麦粉の塊みたいな雲たちは突風の応援に乗って鈍足ながらも東の空に向かって走っている。
そんな中
やめろ! やめろ!
と泣き叫ぶ私の顔に、
その夕立の強い雨粒がどんどん飛び込んで来て、
涙と雨粒が一緒になって流れていく...
まるで
"お前の涙を奪ってやろう"
と言わんばかりに...
私の泣き叫ぶ声も周りに聞かさぬように...
表情すら奪っていった。
"晴れるかな? 雨..止むかな?
そういう時間って本当に長い...
長いよ...
早送り出来たらいいのにね..."
午後15時半頃、
私は目的のパン屋の前に立っていた。
びしょびしょになってしまった大事な、
真新しいワンピースのスカート部分の裾から
ポタポタと滴を垂らしながら。
「このぉー...どうしてくれるんだ!」
って睨み付けて愚痴をこぼすそんな私に、
空は何事もなかったような涼しい顔で太陽の陽射しをプレゼントしてくれた。
東の空にあの雨雲の集団が見えた。
そして、私のこころにこう言った。
もうその場所でのレースは終ったよ。
またね...
私は、そんな意地悪くて大きい、
でも目を離すと直ぐに遠くに行ってしまう
そんな小麦粉の塊に
「おめでとう...
あんたが1位だよ」
と言葉を送った。