発想と退出
長ーい
「いや無理でしょ」
ギルマスの自信たっぷりな返答を聞き少し考えたサツキは、それでも無理だと結論を出した。
「だって私この国の歴史も神話も知らないし、魔法だってまともなのは使えない、戦闘実技だって私のは戦うためのものじゃないし大体ブレイって二年生なんでしょ?編入するって考え方でも一年生の分の範囲を履修しとかなきゃ入れてくれないだろうから、どう考えても10日じゃ無理だよ」
早口でそう捲し立てたサツキはギルマスの反応を待った。
「うん、そうだね。もし生徒として編入するのなら不可能だろうね」
「へ?違うの?」
サツキは自身が考えていたシュミレーションでは暗殺者は生徒か教師に紛れて入っていると考えていたため、それならば生徒として入るべきだという考えのもとここまで思考を重ねていたのだが…
「サツキ、君なら分かっているでしょう?教師として入ればいいんだよ」
「はあ!?」
生徒より条件が厳しいため無理だと考えていた教師という手段、それを提示されたサツキは正気か?というようにギルマスを睨みつけた。
「ぶっちゃけ君が期限を一ヶ月っていうまでは生徒として入ってもらおうかなんて考えていたんだけどね、まあ方法は…ね?」
そんなふうに場を茶化しながら話すギルマス、彼は続けた。
「君が一ヶ月っていったからこの学園のあるシステムを利用したらちょうどいいかなって」
ギルマスはそのシステムについて解説し出した。
「貴族たるもの一度戦争が起これば戦わなければいけない、だからこそ相応の強さというものが求められる場合が多いんだけど、春季休業、夏季、秋期、冬季それぞれの休業の後に現役の軍人や退役した軍人、現役のCランク以上の冒険者から元現役のCランク以上の冒険者などを、ちょうど一ヶ月雇って戦闘訓練や経験の共有などをしてもらうシステムがあるんだ」
サツキはそれを聞き納得したと同時に疑問を抱いた。しかしそれを発する前にギルマスは言った。
「まあもちろんしっかり厳選された人が送り込まれるんだ、貴族もたくさんいるから万が一もありうるしね。まあその厳選というのを冒険者に関しては私のような各街にいるギルドマスターが行うんだけどね、私はこれまで素晴らしい人材を送ってきた実績があるから…たとえ登録して数日の新参者を送ったとしても、多少何かあるかもしれないけれどまあなんとかなるんだ」
悪い顔をしながらそう話したギルマス、それにサツキは疑問をぶつけた。
「それはよく分かったし納得したけれども私冒険者ランクCまで行ってないよ?」
厳選…いくつかあるであろう条件のうちの最初の関門である冒険者ランク、それによってまたもやサツキたちはつまずこうとしていた…が、
「いやいや、サツキ。君は今回死の黒波において多種多様生物の討伐に、竜の撃退などたくさん貢献したじゃないか!」
「あ、」
もう終わったことだと認識していたため、それが功績だとか全く興味のなかったサツキ。まあなんにせよ最初の条件は突破できそうである。
「冒険者ランクはCまでは全然上げられるから後は今回の募集人数が少なかった時そこに入り込める実力と、面接での合格、私に対する迷惑な逆恨みから突っかかってくる面倒な他のギルマスの手先や軍人への対処、一応教師になるんだから子供への対応の仕方と貴族への正しい対応…まあ常識かな」
「ん〜…」
最後の子供への対応と貴族への正しい対応というこの世界での常識を求められ、少し気がひけるサツキ。そんなサツキを見たギルマスは言った。
「まあ学園の方も冒険者っていうのを今までの経験からまあまあ分かってくれているから、よっぽど変なことしなければ大丈夫だよ」
(それを私はしかねないんだよな〜)
しっかりと自分を客観視してギルマスの言葉を聞いても安心できないサツキ…なぜこういう時しっかりと客観視できるのに、いつもは自分を客観的に見れないのか甚だ不思議である。
まあしかし話が進まなくなってしまうためサツキは考えるのをやめた。
(その場その場で対応するばいいか)
サツキはその場その場を損得で考えることができる。目的のためなら大体のことは我慢できる、しかしそれは我慢しただけで消えたわけではない。一ヶ月経った最終日にそれが暴発しないことを祈る…。
「じゃあそういうことで大丈夫かな?冒険者ランクを上げて学園側に依頼の受注をして王都のグランドギルマスに言っておくよ」
「うん、いいけれど余計なことは言わないでね。後なんか連絡とかあったら「聖神の抱擁」の女将さんに伝えといてね」
「いいところに泊まってるね…ああ、後今回の死の黒波での報酬、50万ミム君の冒険者カードを見せれば貰えるようにしとくから」
「…命の値段の割に少なくない?」
「そうかい?じゃあ今回の依頼でお金での報酬も払うよ」
「まあいいけど。なんか依頼のこと紙とかで残さなくていいの?」
「う〜ん、あんまり今回のことは残したくないかな」
「そう」
「それとまあ毎回あるんだけど、もし定員より多かったら席を巡っての戦いと実力の確認試験や面談などが学園都市で行われると思うから、連絡が入ったら馬車で向かってね」
「分かった、まあ席の争いで負けたら仕方ないかな?」
「負けないでほしいけれど…」
「努力するよ、バイバイ」
サツキは穴の開きたてつけが悪くなった扉から出ていった。
「ふう…これでなんとかなるといいけれど…ああ!バルドルに一ヶ月以内にかたをつけてって言っておかなきゃ」
ギルマスに静かな時間は訪れず、又それはバルドルも同じ…
長かったー
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次回も本編です。
 




