正論とシュール
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ギスギスした空気…それは一向に解消されることなく、一行はカイロスへと到着した。
「こっ!これはっ、スカイ様…せ、戦場跡地にいらっしゃるのでは…?」
馬車から顔を出し、領主へ到着の報告を届けさせるつもりであったスカイはその問いに答えた。
「ああ。私もそのつもりだったのだがな…」
答えた…というより独り言にも似たそれは、兵士の耳へ無事届き、自分では分からない苦労があるんだろうなと、兵士は理解した。
「そうですか…それでは領主様へ連絡を入れておきます。このまま領主館へ向かうということでよろしいですか?」
空気が読める兵士の言葉にスカイは感謝しつつ、忌々しげに馬車内を睥睨してから表情を作り兵士に言った。
「いや、1人重要な参考人がいてな、そいつがギルマスに用があるというんだ。だからまずは組合による」
その言葉の裏に何か刺々しいものを感じながらも、兵士は平静を崩さずその旨を領主様に伝えると言い、通行の許可を(許可されぬわけもないが)出すとこの場を部下に任せどこかへ行ってしまった。
「ふん、中々優秀な小僧だったな。動揺も最初だけで、他は全てを隠していた…ああいった者も騎士団に欲しいものだ…」
交渉役や管理などの裏方役を、戦闘員以上に欲しがっているカイロス騎士団は対外的には国内最高峰の騎士団、対内的にはただの脳筋集団という評価であった。
そんな事をスカイが考えていると、中から微かにサツキとカイナの話し声が漏れていた。
「ねえ、まだなのかな〜」
「今、検問してるんだよ。もう少しさ」
「早くギルマスに聞きたいのに…街の中入ったら降りていっちゃダメ?」
「う〜ん…どうだろう」
そんな会話が聞こえてきたスカイは、扉を開け放つと言った。
「許さんぞ、お前を野放しにして何かあったらどうしようもないだろう!お前は私が監視し続ける!」
そんなスカイに驚いていた2人は、ハハハと苦笑いをし…そこにサツキが続けた。
「じゃああなたも降りればいいじゃん。歩いた方が早いでしょ?馬車は邪魔だし」
そんなサツキの正論にさしものスカイも「うむむ」と唸った。
「……」
しばらく悩んだ末スカイは結論を出した。
「馬車はここに預けていく。言っておくが寄り道はなしだ。真っ直ぐギルドへ向かい、その足で領主館へ行き、戦場跡地に帰る。分かったな!」
その返事を聞きサツキとカイナはハイタッチをした。
しかし彼女らは一体何を喜んでいるのであろうか、多少馬車よりも歩きの方が早いだけで大した違いは存在しないというのに…
もしかしたらそれは、堅物のスカイを上手く説得できた達成感からなのかもしれない。
「というわけだ。この馬車は預ける」
「え、ええ?は、はあ」
「任せたぞ」
それだけ言うと女子と女性の3人組は馬車から降り組合に向かって歩き出した。
その場には馬車の本体、馬、御者、上司にその場を任せられた哀れな兵士が残っていた。
御者は呆然と立ち尽くす兵士に声をかけた。
「騎士団ではいつもこのような感じですよ。だからほら」
その指差した先には、荷台の下に積まれた人参を勝手に漁り、ボリボリと貪る馬の姿があった。
「まずは馬車を邪魔にならないところまで寄せましょうか。案内していただけますか?」
なれた手つきで荷台を漁る馬の光景に目を奪われていた兵士は我を取り戻すと、案内をし始めた。
「こっちです…」
「こっちですね」
人参を咥えたまま走ってくる馬を御す御者…いつのまにかその御者の口にも人参が咥えられており、中々にシュールな光景であることは間違いなかった。
呆然とした兵士が先導する、馬と御者が人参を咥えた馬車…。
一部の野菜は金持ちの野菜です。この世界では。まあ騎士団は金あるんで。
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次回も本編です。




