硬直と恋?
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バルドルと魔獣改め仮称「モリノケンジャ」との戦いはまるで鬼ごっこのようなものだった…
バルドルが魔力を纏い「身体強化」を発動させると空を飛ぶモリノケンジャに向かって跳びかかった。
「スサマジイシンタイノウリョクダナ」
モリノケンジャは一瞬にして肉薄したバルドルを気に留めていないかのように呟き、褒めながら旋回すると距離をとり魔力を翼に込めた。
「チッ!」
今の自分の状況…空に浮き足場がなく踏ん張れないという悪循環を自覚したバルドルは「大剣の能力」を使い速やかに地上に着地した。
そしてすぐに自分がいた場所に魔力を纏った無数の羽が砲弾のように通り過ぎていった。
「あぶねえ」
「ヨクワカッタナ」
「あの溜めはわざとだろ、気づかせられたようなもんだ」
「イヤ、ワザトデハナイ。タダカタヨラセタダケダ」
「ん?」
バルドルは最後の偏らせるの意味がわからなかったが気にせずに仕掛け始めた。
「まあいい!行くぞ!」
バルドルは空にいられては不利なままだが、かと言ってそれを覆す技もなく…仕方ないので、
「ムッ!トウテキカ!」
石を投げ始めた。全力で。
バルドルの投げた石はたとえ相手に隙を晒さないための腕だけで投げる適当な投球だとしても、この世界の人類としての強靭な身体能力に、「身体強化」が加わったそれは凄まじいスピードと威力を作り出した。
(コイツ、コレガホンメイデハナイナ。イマモタイケンデキルスキヲ、ウカガッテイル…ソレナラバ)
モリノケンジャは再び羽に魔力を纏い、今度は溜めなしで羽の矢を打ち始めた。
「おいおい、狙いよすぎだしスピードもさっきより上がってやがる…だが威力は下がってるか?偏らせるっていうのはそういうことか…やっぱ直接ぶったぎらねえと…」
そんなバルドルの様子を見ていたモリノケンジャは一つの確証を得た。
「オマエ、ゾクセイマホウガツカエナイナ?」
「……」
「ズボシカ」
事実バルドルは、属性魔法への適性がなく、無属性魔法のみでここまで成り上がってきた完全なるインファイターだった。
しかし…
「それがわかったところで、変わらねえだろ?」
「ナニ?」
「オマエも俺も決定打がないんだよ…オマエがすげえ魔法を使おうとすれば俺は阻止するし、オマエだって同じだ。つまり硬直してんだよ」
「タシカニナ、ダガ…」
「俺はオマエを押さえておけばいい、そうすりゃあみんなが片付けてくれる。まあオマエにもオマエにもそれは言えるが…」
そう言ってバルドルは周りを見回したが…明らかに人間側が優勢であった。
「そういうことだ、俺は一人じゃねえからな」
「ソウカ…」
モリノケンジャは口をつぐんだ。
もうそこに言葉は要らなかった。
<少し遡りカイナ>
「ガイさん、メリリャさん。あの魔物僕がやってもいい?」
冒険者達と共に戦場に飛び出し、いつの間にか群れの奥まできていた「黒の鉄槌」のカイナ、ガイ、メリリャは一際大きな魔力を持つ魔物と向き合っていた。
「別にいいが…カイナはアレがなんていう魔物か知っているのか?」
ガイは問うた。
「殺人兎でしょ?」
殺人兎とはCランク下位の魔物であり、手に持ったどこから調達したかも分からない「肉切り包丁」と言われる二本の包丁を持ち、好んで人を殺してその肉を喰らう凶暴生物であり、角兎の特異進化個体である。卓越した二本の包丁さばきと、風魔法を使い獲物を仕留めるれっきとした魔物である。
「なんで一人でやりたいの?」
メリリャは許可する気満々なガイを諌め聞いた。
「だって…サツキにそっくりなんだもん」
「え?」
「サツキは2本のナイフを使うし魔法は知らないけど「身体強化」するし…サツキのライバルとしてコイツぐらいは一人で殺せるようにならないと」
サツキはかなり執着されていた。それが良い方向に傾くのか、悪い方向に傾くのかはわからないが…カイナもこの世界の常識にそい、なかなかの異常者だった。
「ふふふ、いいわよ。危なくなったら助けるわ。ほら、ガイ?行くよ」
「お、おう…」
メリリャとガイは周りの魔物を狩に歩き出した。
メリリャは思った。
(まるで恋みたいね、カイナ)
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次回も本編です




