開幕と主人公より主人公
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「弓兵!撃てー!」
体調の号令と共に何百という数の矢が一斉に放たれた。
「総員!突撃!」
それに追従する様に騎士団団長の命令がとび、命令を与えた本人が真っ先に突っ込んでいく…
「いくぞ!お前ら!全部ぶっ殺せ!」
荒々しくもお行儀の良い騎士団との対比の様に、ただただ荒々しい冒険者達が、誰が発したかも分からぬ号令に従いある者は魔力を練り、ある者は突撃し、ある者は様子を見た。
ここまでの行動を見ると冒険者の多様で胃が非常に際立った、それでも兵士が、騎士が魔法を使えないわけでも多様性がない訳でも無いが…これが自由な冒険者と規律の兵士、騎士との違いであろう。
かくして「死の黒波防衛戦」、又の名を「カイロス防衛戦」と言われる戦いが始まった…
「チッ」
兵士達の指揮系統の頂点にいる兵士長は強く舌打ちをした。
「やはり弓では大した攻撃にはならないか…」
「そうですね…弓が使えるのは乱戦になっていない今だけですし、もう少し撃って様子を見てから「攻防の型」を取り面で押し潰すのがいいのでは?」
兵士達は幅広く戦える様、様々な技能を満遍なく習得するため特化した者がおらす結果的に弓での攻撃も面の制圧を目的とした、いわばこれだけいっぱい打たれれば避けられないだろうというゴリ押しとなっていた。
しかし人相手ではまだしも、相手は生命力溢れる魔物である。当たっても即死でなければ大した傷にならず、恐れる事もなく突撃してきていた。
「そうだな…やはりそれしか無いか…全弓兵に伝えろ、もう一度一斉射撃を行った後「攻防の型」にはいると」
「は!了解しました!…ところで領主様は?」
「領主様はご高齢ゆえここにはいらっしゃらないが、代わりに御子息が騎士団にいるぞ、領主様がもう少し若ければな…」
…不敬とも取られるかもしれないが、この世界では領主、国王などの統治者はこういったその街や国の命運を分ける戦いでは戦場に出るのが普通であり、兵士はそれを疑問に思っただけであった。
「そうですか…それならば安心ですね!」
「うむ…(あの御子息は実力はあるんだがな…いかんせんあの気性が…まあしかたないことでもあるのか…)」
こうして優秀な指揮官によって兵士達は新たな動きをして行くのだった…
「陣形・錐!」
号令と共に突撃した騎士団長に追いついた騎馬兵達…カイロス騎士団の精鋭は新たな団長の指令が届くと同時に形を変えた。
ソレは俯瞰すると、団長を頂点とした細長い槍の様な形で尚且つ騎士達が持っている武器は、かの狩猟ゲームで「ランス」と言われる貫通力に特化した極太の槍だった。
「臆するなよ!貫くぞ!」
騎士団の全員が魔力を纏い「身体強化」をランスや騎馬ごと発動させると、次の瞬間こちらに向かってきていた魔物と、騎士団の双方が激しくぶつかり…一瞬で魔物が消し飛ぶとそのまま群れの中を疾走し始めた。
「いいぞ!やはり魔物には人と違う楽しさがあるな!」
そんなサイコパスなことを大声で叫ぶ団長を諌める様に部下達は口々に言う。
「団長、ソレはまずいですって。傭兵の時の癖が出てますよ?」
「シー!あんたこそ何言ってるの!そんなこと聞かれたら面倒なんだから、団長も大変なのよ?」
「だいたい古参の奴以外知らないんじゃね?元傭兵ってこと」
「なおさらまずいだろ」
「お姉さまは昔からあんな感じですわ」
「僕もそう思うよ」
「まああいつに引かれてからだいぶ変わったけどな」
「ああ、あいつね…ラブラブよね〜」
「あいつがいたから騎士になったみたいなとこあるしな」
「アイツも鈍感だよな」
「鈍感…団長にそんないい人がいるのか?是非引き受けてくれないかな〜」
いつの間にか話に入っていたアイツがそんなことを呟くと皆一斉に、
「ハア〜」
「はあ〜」
とため息をついた。
「な、なんだよ?」
「……」
皆黙った。
もちろんアイツは元傭兵だというを理解しており、当時から騎士として在籍しているがそんな団長が引かれるようなやついたかな?としばらく悩み続けた。
ちなみにこの間、騎士達は一切陣形を崩さず団長に付き従い突撃を続けている…
ということは…もちろんこの会話は団長にも聞こえているわけで…
「……」
「……(え?なんでこんなに?)」
そんな感じで突撃を続けていると…
「む!?」
突然遠くにあった大きな魔力がこちらに向かってくるのを感知した騎士達は、速やかに減速しながら陣形を解き、出撃前のように整列した。
瞬間空から何者かが落ちてきた。
周囲に衝撃が走り周りにいた魔物が吹き飛ばされる。
土埃がはれた先にいたのは…
「ほう、子牛頭ノ人か…という事は親がいるな?」
子牛頭ノ人というのはその名の通り子牛の頭にボディービルダーのような肉体がついた魔物でCランク下位に位置する魔物で常に親と共の行動する。
しかし待てども一向に親は現れなかった。
「親が来ない…まずいな、すぐに連絡しろ」
「はい」
子牛頭ノ人の親である牛頭ノ人は子供と離れると狂ったように暴れCランク中位の危険度からBランク下位程まで危険度が上がることで知られている。
よって騎士団長は連絡を取ったのだが…
「だがおかしいな」
「え?」
「親がいるならもうとっくに狂って暴れているはずだ。ソレが無いという事は…」
「今が好奇ですね?」
「ああ。一応伝えたな?」
「はい、伝えました」
「それでは…私がやる、お前達は周りの雑魚の処理を頼む」
「は〜い」
「いいとこばっかり」
「まあしゃあない、わかってた事だろ?」
「…うん」
そんな部下達に苦笑しながら騎士団長はただ一人の愛しい人に目を向ける。
「周りは頼んだぞ、アース」
「はい、仕方ありませんね。がんばりますよ、スカイ団長」
「ああ!」
アースは真面目なやつである。
そんな彼は上司にも敬語を使い上司に劣情を抱かない…だからこそ、アースは熱い視線に気づかなかったようだが(彼は鈍感、それだけで説明ができないほど鈍感)、それでも…とスカイは気合を入れた。
「さあ!露払いは全部部下がやってくれる!思う存分やり合おう!」
決して子牛頭ノ人は空気を読んで待っていたわけでは無い。
…ただ動けなかっただけである。
だからこそ…もう勝敗は決まったようなものであった。
「ぶっちゃけ余裕だよな?」
「お姉さまにやられるなんて羨ましい…」
「ああ、お前はそういうやつだっけ」
ただ彼等も知らない。知ることができるはずもない。全知神が知らないことを知れるはずもなく…だからこそ、これが、子牛頭ノ人でさえただの露であることを知らない。
これの親が今どこにあるかなんて知るはずもない。
主人公よりも主人公してる…名前も安直やな。
まあスカイとアースがあると言うことはよ…
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次回も本編です




