悪でなく変と基準
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他愛のない会話をしながらも無事「聖神の抱擁」にたどり着いた2人は中へ入って行った。
そしてサツキとカイナはめざとく自分達が入った際の空気の変化を感じ取った。
「ん?なんか警戒されてる?」
自分が警戒されていると空気感から理解しつつもその理由がわからず困惑するサツキ、そんなサツキに対し少し苦笑いしたカイナは言った。
「きっとサツキが死の黒波で活躍したって伝わってるんじゃない?」
そんなもっともらしい理由を受け止めつつも、それでもどこか釈然としないサツキはしばらく唸った後考えるのをやめた。
「まあいいや、じゃあさっき言ってた通り後でご飯食べようね」
「うん、分かったよサツキ。僕は少し此処にいる彼らが用があるみたいだから少し話していくね」
「オッケー、じゃあ後で〜」
そう言ってサツキは自然と人がはけ出来上がっていく道を当たり前のように通り階段を登って行った。
そしてその姿を見届けるとカイナは言った。
「それで何の用かな?僕も少し急がないといけないんだけど」
「それはすまない、だがどうしても聞いておかなければならないと思ったのでな。かの有名な傭兵団「黒の鉄槌」の「切り込み隊長」カイナ殿とお見受けするが?」
相手の丁寧な言葉に多少驚きを受けつつカイナは言う。
「まあそうだね、僕がそのカイナだよ。まあ確証がないのにそうやって言ってきた事と、その丁寧な言葉遣いには驚きがあるけれどね」
「確証はないわけではなかったが、丁寧な言葉は当たり前だろう。我々傭兵にとって実力は格付けの指標にもなる、そして何より「黒の鉄槌」と言えば…」
「ああ、そこまでね。そんな話はもう耳にタコができるぐらい聞いてるから、まあ僕のせいで話が逸れちゃったんだけど、だけどこれでおしまい。それで用件は?」
あくまで主導権は自分が握り続け誰にも譲り渡さない…それが強者の特権であり責務である。カイナはそれは体現していた。
そしてそれをしっかり理解しているこの男は…
「ああ、そうだな。用というのは先程の彼女…サツキだったか?のことなんだが…」
「何が知りたいの?」
間髪入れずカイナが聞く、そしてその気迫にも負けずに男が言う。
「一体どう言う原理で生きている?」
「どう言う意味?」
「…彼女は最初にこの宿に入ってきたとき貴族に絡まれていた。あなたも見ていただろう?あんな状況諦めるはずだった、なのに彼女は反撃した。あの殺気は本物だ、間違いなく殺すつもりだったはずだ」
漏れ出た殺気の濃密さからただの脅しを殺害予告と勘違いされる不憫なサツキ、しかし自業自得である。
そして男は続ける。
「だからこそ分からないんだ、彼女の判断基準がどこにあるのか。いつ襲ってくるかも分からないから警戒するしかない、だから教えてほしいんだ。この中で彼女と一番関わりのあるあなたから見た彼女の基準を」
いつのまにかその場にいる傭兵や冒険者たちの全てが聞き耳を立てていた。
「サツキは…」
「……」
「僕でもあまり分からない」
「…そ、そうか…」
「でも、」
「……」
「サツキは悪い子じゃないんだ、ただ変なだけで」
「……」
場を沈黙が支配する。誰も言葉を発さずただ発された言葉を咀嚼していた。
「悪意を持って接したりしなければいいのか…これは、人として当然のことだよな」
沈黙を破って誰かが言う、これはこの世界に来て未だはっきりとした判断基準が養われていないサツキのとりあえずの指標である「悪意には悪意を、全てその通りに」と言う考えと偶然一致していた。
「そうか、そうだな。必要以上に恐れる必要などなかったのかもしれないな、ありがとうカイナ殿」
「ん?礼を言われるほどかな?まあサツキとはみんなとも仲良くしてほしいし」
「それでもありがとう、少し心労が和らいだよ。仲良くできるかは分からないが必要以上の警戒はしないことにする」
もう一度礼を言うとその男は去っていった。それを皮切りに他の宿泊客たちもどんどんと去ってゆく。
その様子をどこか満足げに眺めたカイナは階段を登り自分の部屋へと歩いていった。
しかし誰も何も分かっていない、それは今のサツキだけの話だということを。
この世界での基準を形成する前のサツキの姿であると言う事を。
分かるはずもなく、今の考えの中心にある「向けられた感情を相手にも返す」と言う考えは残ったとしてもその細部は変化するのかもしれない。
またその中心がすげ変わる可能性も十分に存在する。
それらはこれからサツキが出会うこの世界のたくさんの感情によって形成されていくのだろう…。
価値観は移ろうものだから
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次回も本編です。