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「和花ちゃん、ラミネートの機械貸して」
「はいはーい。ちょっと待っててくださいね」
楽しそうに仕事をする和花を見て、なぎさは「あら?」と勘づく。何だかふっきれた顔に見えたからだ。キャビネットへラミネートの機械を取りに行く後ろ姿さえ弾んでいる気がする。
「佐伯くん」
なぎさはすっと秀人の席に近づくと、真剣な表情で仕事をしている秀人にお構い無く、ガシッと肩に手を置いた。
「まさか私の和花ちゃんに手を出してないわよね?」
凄みをきかせた声で尋ねると、秀人は動じずゆっくりとなぎさを見る。
「……出したと言ったら?」
その言葉に、なぎさは敬意を表して全力でバチコーンと秀人の肩を叩いた。
「祝福するに決まってるじゃない。絶対幸せにしてよ。あの子本当に良い子なんだから。林部さんが聞いたら泣いちゃうかもよ」
言いながら、なぎさの方が感極まって泣きそうになった。何だかんだ面白がって世話を焼いていたが、それはなぎさが和花を可愛がっているからこそなのだ。和花のトラウマを知っていることもあり、なおさら和花の恋愛が上手くいくことが自分のことのように嬉しい。
「佐伯くん、聞き捨てならないな」
「林部さん?!」
いつの間にか秀人の背後に林部が不機嫌な顔で立っている。
「橘さんに手を出した、だと?」
「え、いや。あの、……お付き合いをしています」
林部は口を真一文字に結ぶと、無言のまま秀人の背中をバンバンと叩いた。
「幸せにしないと呪うからな」
「林部さん、さらっと怖いこと言っていますけど」
秀人が呟き、なぎさはこっそりと笑う。
そんなやり取りをたまたま見ていた高柳が口をあんぐりと開けながら遠慮のない声を上げた。
「えっ、チーム長、橘さんと付き合ってるの?」
その声に反応した小百合がキャーと黄色い声を上げながら「お祝いしないと!」と騒ぎ出した。




