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無事に家まで辿り着き和花をベッドに座らせる頃には、和花の目はとろんとなって今にも眠りに落ちそうになっていた。
「和花、お水飲む?」
「うん」
水を取りに背を向けた秀人だったが、すぐに袖を引っ張られ足が止まる。
「行っちゃいやぁ」
「水を取りに行くだけだよ」
「やだやだ」
まるでだだっ子のように首を振るので、秀人は困って和花の隣に腰を下ろした。そっと頬に触れると和花はうっとりしながら秀人の手のひらにすり寄る。
「佐伯さんの手冷たくて気持ちいい。ずっと触っててほしい……」
上目遣いの和花に心を鷲掴みされそうになる。いつだって冷静でいようと思っている秀人の心はいとも簡単に掻き乱された。
「……やけ酒したんだって?どうして?」
「だって佐伯さんが私に興味ないから」
「どういうこと?」
「佐伯さんは真面目で責任感が強いから、だから私と付き合ってくれてるんでしょう?」
「え?」
「だって私なんて魅力ないし、背も低いし胸もぺったんこだし。変なトラウマ抱えてるし、面倒くさい女だもん」
「そんなことないよ」
「そんなことあるもん。私ばかり佐伯さんが好きだもん。佐伯さんは私のこと好きじゃないもん」
今にも泣きそうな顔で訴える和花。
和花がそんな風に考えていたなんて思いもよらず、秀人は愕然とする。自分は和花を愛していてとても大切にしているつもりだった。けれどそれは独りよがりだったのかもしれない。和花には何も伝わっていなかったのだ。




