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品質保証部の佐伯秀人はシステム部門のチーム長である林部との打ち合わせに向かうため、システム部門が入っている建屋へ赴いていた。
エレベーターは待ち人が多く、約束の時間も迫っていたため階段へと切り替える。すると一人の女性がおぼつかない足取りでフラフラと前を歩いていた。階段の手前まで来ると、ついに膝から崩れ落ちるようにその場にうずくまるではないか。
秀人は驚いて足を止めた。
「大丈夫ですか?」
背後から声をかけてみるも、元来おっとりとした声質の秀人の声は彼女の耳には届かないようだ。秀人は回り込んで今度は正面から声をかけた。
「大丈夫ですか?」
「はぁっ、はぁっ、」
顔を覗き込まれ、その女性、和花はようやく少し顔を上げた。顔色は青白く酷く怯えたような印象さえ持つ。そして目には今にもこぼれ落ちそうなほど涙がたまっていて、秀人は思わず言葉を失った。
「はぁっ、はぁっ」
「……動けますか?」
秀人の問いかけに和花は応えない。いや、応える気力すら和花には残されていなかった。