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「やります!頑張ります!」


無意識にちからいっぱい返事をすると秀人は少し驚いたように目を見張り、和花ははっとテンションが上がってしまったことに恥ずかしさが込み上げ慌てて口元を覆う。

だが秀人はすぐに目元を緩めた。


「ありがとうございます」


秀人は控えめながらもにこりと微笑み、和花は口を結んだままどぎまぎと秀人を見つめる。


(佐伯さんってこんな風に笑うんだ)


普段クールな秀人の新たな一面を見た気がして和花は心なしか胸が踊った。


「それから、エスコートのことなんですが。橘さんが行く必要はないですよね?各担当がやればいいと思うんですが、どうですか?」


「え……」


思わぬ提案に和花は目をぱちくりさせる。何を思って秀人はそう言うのか、それに対してどう答えればいいのか迷ってしまう。苦手と思いつつもそれもひとつの仕事としてきちんとこなしているつもりだ。まさか過呼吸になったりしたことで周りに迷惑をかけているのではないかと勘ぐる。


「そんなに皆さんに気を遣わなくてもいいですよ。皆さんは橘さんの優しさに甘えているだけですから。それとも橘さんじゃないといけない理由はありますか?」


「いえ、ないです。私も……できれば……あの、その、やりたくなくて」


やるかやらないか、自分の気持ちを伝えるだけなのに、和花はだんだんと小さな声になっていく。

与えられた仕事に対して“やりたくない”などというのは社会人としてどうかと思ったが、もしかしたら秀人ならこの気持ちをわかってくれるのではないかと思った。


「では各担当に変えましょう。今までやってくださってありがとうございます」


「あっ、いえ……」


当たり前だと思っていた仕事に対してまさかお礼を言われるとは思っておらず、和花はどもってしまう。


だがその一言はどんな褒め言葉よりも嬉しい気がして鼻の奥がつんとしてきた。


「いえ、こちらこそ、ありがとうございます」


目元が潤んでしまったのを隠すように俯きながらそう答えると、秀人は立ち上がり際、安心させるかのようにそっと和花の肩に触れた。


本当にほんの少しだけ触れられただけなのだが、秀人が去ったあともその触れられた場所は熱を帯びたようにあたたかかった。

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