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秀人が仕事をしていると、部下の高柳が声をかける。
「佐伯さん、先に会議室行きますね?」
「え?ああ、もうこんな時間か……エスコートは?」
「橘さんに頼みましたよ」
「え?」
さも当然かのように言う高柳は秀人の反応にわずかに首をかしげる。
「ダメでした?」
「あ、ああ、いや」
と言ったものの、秀人は心配になった。
──男性と二人きりのエレベーターは苦手なんです。
和花の言葉が思い出されると同時に和花の泣き顔までよみがえってくる。
今日の来客はHOKUTOシステムズから二名だ。ここは五階だから必ずエレベーターを使うだろう。複数人と乗るのは大丈夫なのだろうか?
──乗れなくはないんです。だいぶ克服はしましたし。
秀人はモバイルパソコンを閉じて手に持つと、会議室を通り越してエレベーターの前まで足早にたどり着く。
と、ちょうど扉が開いたところだった。
HOKUTOシステムズの営業二人が順番に降りてくる。そして続いて和花が降りてきたのだが、その顔は青白く血の気が失せている様に見えた。ただ、過呼吸にはなっていないようだ。
「お世話になっております。チーム長の佐伯です。今日はよろしくお願い致します」
秀人はHOKUTOシステムズの営業の気を自分の方に向けるよう、会議室へ案内しつつ世間話を繰り広げた。
和花は黙って一番後ろを着いて歩いてくる。




