93.騎士団長との戦い⑤
「……そうだ」
そこで、私はあることに気づいた。彼の左胸に刻まれている傷は、一体どうやってつけられたものなのだろうか。
彼の奥義の構えを見て、私はそれを理解した。兄貴は、この奥義に合わせて、攻撃をしたのである。
あの傷は、兄貴が私に残してくれたメッセージだ。私は、構えを変える。あの攻撃に有効なのは、恐らく突き技だ。
「むっ……!」
「なっ……!」
次の瞬間、ローディスはその構えを変えてきた。右手だけで剣を持ち、左手を心臓の前に構えたのである。
どうやら、向こうも私が兄貴と同じことをしようとしていると気づいたようだ。それに対処するために、奥義を捨ててきたのだろう。
そして、同時に自身の弱点となり得る傷も庇った。今の彼に対して、兄貴のように攻撃することは意味がない。
だが、今の彼には大きな弱点がある。片手で剣を振るうというのは、難しいことだ。片手のローディスと両手の私、どちらが上かはわからないが、私の方に軍配が上がる可能性は充分ある。
「ふん!」
「はあっ!」
ローディスの一撃を、私はしっかりと受け止めた。片手であるが、かなり重い一撃だ。だが、以前の彼に比べれば軽い。
「はあああっ!」
「ぬうっ!」
私は、自身の体重をかけながら、ローディスを押していく。すると、彼が少しだけ後退した。どうやら、この場合は私の方が上手であるようだ。
しかし、それで安心できる訳ではない。まだ彼には、この状況を簡単に覆すことができる手があるからだ。
「ぬぐっ……」
「くっ……」
私の予想通り、ローディスは剣を両手で握りしめた。ぶつかり合う前は、弱点を庇う必要があったが、今はなくなったため、それは当然のことである。
私としては、こうなる前になんとかして押し切りたかった。だが、それは叶わなかったようだ。
「ぬっ……」
「くっ……」
しかし、一度は私に形勢が傾いていたため、それを覆すのは流石のローディスでも一筋縄ではいなかった。押し切ることはできていなかったが、それなりに優位には立てているようだ。
「……あの一瞬で、アラーグと同じ手を思いついたのは、見事だ。どうやら、お前達には既に俺の奥義は通用しないようだな」
「全部、兄貴のおかげさ」
「ふっ……お前達の絆の力という訳か」
「うっ……!」
そこで、ローディスは大きく後退した。恐らく、この硬直状態では、どうにもならないと思ったからだろう。
追いかけようと思った私だったが、やめておくことにした。私の方も、一度形勢を立て直したかったのだ。




