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刷り込みで竜の母親になった私は、国の運命を預かることになりました。繁栄も滅亡も、私の導き次第で決まるようです。  作者: 木山楽斗


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74.狙われる竜⑥

「お待ちしていましたよ、フェリナさん。それに、リルフさんも……」

「なっ……」


 初老の男性は、私達の名前を知っていた。何故、名前を知っているのか。それはなんとなく予想することができる。

 しかし、まだ普通にお客さんであるという可能性が残っていない訳ではない。素直に答えてくれるかどうかはわからないが、念のため聞いてみることにしよう。


「どうして、私達の名前を?」

「簡単なことです。私が、終末を望む会の会員だからですよ」

「……やっぱり」

「私は、ジャザーンと申します。以後、お見知りおきを」


 男性は、なんてことのないことかのように自らが何者であるかを明かした。終末を望む会のジャザーン。どう考えても、私達の敵だろう。


「お待ちください。やめておいた方がいいですよ? ここで剣を抜いても、いいことはないはずです」

「何?」


 私は、咄嗟に剣に手をかけた。そんな私を、ジャザーンはまるで子供をあやすような口調で制止してきた。

 先程から、この男からは奇妙なものを感じる。この嫌な感覚は、一体なんなのだろうか。


「あなたにとって、この宿はとても大切な場所であるはずです。そんな場所を危険に晒したくはないでしょう?」

「危険だって?」

「部下に一般の客として中に入ってもらっています。私の合図で、彼はすぐに宿に火を放つでしょう」

「なっ……!」


 ジャザーンの言葉に、私は驚いた。しかし、すぐに状況は理解できたため、剣からは手を離す。


「先に言っておきますが、アラーグさんはここにはいません。なんでも、用事ができたようです。駐在騎士というものは大変ですね……何かあれば、駆けつけなければいけない。例え、誰かを護衛したいと思っていても……」

「くっ……」


 兄貴は、この三日間宿にいてくれていた。私達を守るために、傍から離れないようにしていたのだ。

 そんな兄貴が出かけている時を見計らって、終末を望む会は行動を開始した。恐らく、私達のことを監視していたのだろう。

 この三日間、何もないなんてことはなかったのだ。この人達は、ずっと機を窺っていたのである。


「ああ、ご安心ください。別に、今ここであなた達に危害を加えようだとか、リルフさんを連れ去ろうだとか思っている訳ではありません。私はただ、あなた達と少し話がしたいだけなのです」

「なんだって?」

「ここでは話がしにくいので、ついて来てもらえますか? もちろん、ついて来てもらえないなら、合図を出しますが」


 少し会話を交わして、私は自らがこの男から感じた奇妙なものの正体を理解した。このジャザーンという男は、とても狡猾な男なのだ。その邪悪さが、この男からは伝わってきたのである。

 これから、私達は何をされるかわからない。色々と気を引き締めておかなければならないだろう。


「わかった、あなたについて行けばいいんだね?」

「ええ、そうです。物分かりが良くて、助かりますよ」


 とても不服ではあるが、この男の指示には従わなければならなかった。宿を人質に取られている以上、私達はそうするしかないのだ。

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