66.王都にて⑧
「……なるほど、お前はその竜をただの個人だとでも思っているということか」
「だとしたら、なんだっていうのさ?」
「否定はしない。お前からしたらそうなのだろうな……」
「なっ……!」
私の主張に、ローディスは笑みを浮かべていた。それは、嘲笑のような馬鹿にした笑いではなく、楽しそうな笑みである。
騎士団長になるだけあって、彼は器の大きい人物であるようだ。なんというか、厄介な人物が敵になったものである。
「……だが、お前は我ら騎士団を敵に回したということを理解しているのか?」
「国王様の思想と反しているのに、騎士団そのものを敵に回したものになるのかな?」
「確かに、お前の言っていることは正しい。しかし、この俺と同じ思想を抱く者が騎士団には数多くいる」
「何人いても関係ないさ……私はリルフを守るだけだ!」
例え厄介な人物を敵に回したとしても、騎士団を敵に回したとしても、私が引き下がる理由にはならない。
リルフを守るために戦う。その気持ちが変わることはないだろう。敵の多さも大きさも、私にとっては関係ないことなのだ。
「見事な精神力だ。だが、現実は違うということを今実感させてやる!」
「くっ……!」
「何っ……!?」
ローディスが引き抜いてきた剣を、私は自らの剣で受け止めた。速く重い一撃ではあったが、なんとか追いつくことができた。
護身用のために剣を持ってきておいて本当によかったと思う。これがなければ、私はたちまち倒されていたはずだ。
私が受け止めたことに、ローディスは驚いている。私が受け止められるとは、思っていなかったのだろう。
「なるほど……中々やるようだな」
「剣には結構自信があるんだ……」
「確かにこの俺の攻撃に対応したというだけでも、大した腕前だ。だが!」
「うっ……」
私は、自分の体が少しずつ後退していることに気づいた。私とローディスの体格の差は歴然である。普通に考えて、このまま耐えきれる訳がない。
そう思った私は、ローディスからなんとか距離を取ろうと考える。しかし、後ろにいるリルフを守らなければならない以上、何も考えずにそうすることはできない。
「む……?」
「えっ?」
私がそんなことを思っていると、リルフが動いた。私の後ろから、中庭に移動したのである。
「エボリューション」
「何!?」
「あれは……」
次の瞬間、リルフの体が光に包まれた。その体が変化して、大きな竜の姿になる。
その変化に、ローディスは驚いていた。流石に、騎士団長でもこれは予想外の出来事だったようである。
「はっ!」
「ぬっ!」
その隙を、私は見逃さなかった。剣に力を入れて、弾いてから私はリルフのいる中庭に向かう。
当然、ローディスは私を追いかけてきた。先程まで驚いていたにも関わらず、その顔は既に冷静そのものだ。私が逃げたことで、彼に冷静さを取り戻させてしまったのかもしれない。
「ストームブレス!」
「くっ!」
そんなローディスを、リルフは竜巻で攻撃した。しかし、その危険性を察知したのか、ローディスは大きく後退してそれを躱した。
やはり、彼は一筋縄ではいかない。騎士団長なだけあって、圧倒的に戦い慣れている。
だが、リルフがいれば、この場もなんとかなるかもしれない。私一人では無理でも、この子と力を合わせれば、彼を倒すこともできるのではないだろうか。




