61.王都にて③
私とリルフは、騎士団の副団長であるウェルデインに連れられて、玉座の間まで来ていた。
話には聞いていたが、玉座の間というのはなんだか荘厳な雰囲気である。いるだけで押し潰されそうな奇妙な感覚に私は少し尻込みしていた。
だが、隣で不安そうにしているリルフを見ていると、そんな気持ちはすぐに切り替わっていく。私がしっかりとしないといけない。そういう気分になってくるのだ。
「あっ……」
そんなことを考えていると、足音が聞こえてきた。いよいよ、国王様が現れるようだ。
「リルフ? いい? 跪くんだよ?」
「うん。大丈夫、ちゃんと覚えているよ」
「そっか、それなら良かった」
私は、リルフに声をかけておいた。安心させるのと確認するべきことがあったからだ。
国王様の前では、跪かなければならない。それが作法であるそうなのだ。
私は、作法にそこまで詳しい訳ではない。だが、リルフは私以上にそういうことをわかっていなかった。事前に言っておいたが、それを覚えているかどうかは確認しておきたかったのである。
賢いリルフは、私の言ったことをきちんと覚えているようだ。それなら、作法については特に心配する必要はないだろう。
「あっ……」
「リルフ……」
「うん……」
そんなことを考えている内に、私達の前に一人の男性が現れた。華々しい服を纏った初老の男性は、玉座に腰を下ろして、私達を見下ろしてくる。
私とリルフは、ゆっくりと膝をついた。まず間違いなく、目の前に現れた男性が国王様である。
「楽にしてくれていい」
「は、はい……」
国王様の言葉に、私達はゆっくりと立ち上がった。この合図があるまでは、跪かなければならないというのは、なんとも難儀なものである。
「二人とも、よくぞ来てくれた。わしは、この国の王……バルディード・オーファニスだ」
「あ、えっと……私は、フェリナです」
「ボクはリルフ……です」
「そんなに固くならなくてもよい。といっても、無理ではあるか」
とても緊張している私達に対して、国王様は笑みを浮かべた。その笑みは、穏やかで温かみがある笑顔だ。
その表情に、私もリルフも困惑する。国王様の笑顔には、裏があるとはまったく思えなかったからだ。
副団長であるウェルデインの笑みには、何か裏があるように思えた。それなのに、国王様がそんな笑顔なので、なんだか少しおかしいように感じる。
もっとも、それは私達の感覚でしかない。二人とも実は裏がない可能性も、裏がある可能性もない訳ではないだろう。
結局、私達はまだ国王様達を心から信頼することはできそうにない。まだまだ警戒しておく必要があるだろう。




