60.王都にて②
今までの対応から考えて、王国側が敵意しかないという訳ではないはずである。敵意しかないなら、わざわざ私達を招く必要がないからだ。
だが、別に安心できる訳ではない。王国が、私達に何もしてこないかどうかはまだまったくわからないのだ。
そんな不安を抱きつつ、私達は待った。流石に王城に入るだけあって、かなり長い時間がかかっているようだ。
「失礼します。開けてもらってもよろしいでしょうか?」
「あ、はい」
何分か待ってから、馬車の扉がゆっくりと叩かれた。開けてみると、鎧を身に纏った男性が立っている。
男性の鎧には、紋章が刻まれている。兄貴がいつも着ている服についているのと同じ紋章だ。
つまり、彼は騎士ということである。
「私は、オーファニス王国騎士団副団長のウェルデインと申します。あなた達がフェリナ様、そしてリルフ様ですね?」
「あ、はい、そうです」
「なるほど、報告にあった外見の特徴とは一致していますね」
私達の元に来たのは、騎士団の副団長だった。副団長といえば、騎士団で二番目に偉い人である。そんな人がわざわざ私達の本人確認をしに来るなんて、今回の出来事は余程大事であるらしい。
もっとも、それはわかっていたことである。国王様に謁見するということは、考えるまでもなく大事なのだ。
「念のために、合言葉を聞いてもよろしいでしょうか?」
「トカゲ頭……です」
「やはり、本人に間違いないようですね」
私は、ラナキンス伯爵から事前に合言葉を知らされていた。念には念を入れるために、こんなことまで用意されていたのだ。
本当に、リルフのことはこの国にとって重要なことであるらしい。一体、どうして王国はこの子にこだわるのだろうか。
「さて、それではこれから王城に入ってもらいます。この後馬車が少し進み、しばらくしたら止まります。その時、改めて私が声をかけさせてもらいますから、お二人はこのまま馬車の中でお待ちください」
「わかりました」
「それでは、失礼します」
それだけ言うと、騎士団の副団長は馬車の扉を閉めて去って行った。
なんというか、とても丁寧な対応である。要人でも招いているかのような対応だったのではないだろうか。
しかし、私はこの対応を少し気味が悪いように感じていた。あのウェルデインという騎士団の副団長の目は、笑っていなかった気がするのだ。
「お母さん……」
「うん……」
リルフもそう思ったらしく、繋いでいた手の力が少し強くなった。どうやら、王城というものを完全に信じることはできないようである。




