54.進化した竜②
「さてと……」
「……」
戦いが終わったので、私はリルフに近づいて行った。すると、リルフが少し不安そうな顔をする。
もしかして、自分の姿が変わっているから、私が怖がっているとでも思っているのだろうか。体が大きくなっても、そういういじらしい所は、まったく変わっていないようである。
「リルフ、随分と大きくなったね……」
「あっ……」
私は、ゆっくりとリルフの体に触れて撫でてみた。その温もりは、小さな頃から変わっていない。やはり、この子はリルフだ。大きくなっても、中身はまったく変わっていない。
「お母さん……」
「わあっ……」
リルフは、その首を下げて私に頬ずりをしてきた。その顔だけで、私の体を同じくらいの大きさなので、私は少しバランスを崩しそうになる。
私は、そんなリルフの頭をゆっくりと撫でた。すると、リルフはいつもと変わらない気持ちよさそうな顔をする。
「甘えん坊だね?」
「うっ……それは……」
「あ、いいんだよ。私は甘えて欲しいんだから」
「それじゃあ……いいよね?」
「うん……」
リルフに甘えられるのは、私にとって嬉しいことだ。姿が変わっていても、それもまったく変わりはしない。
本当に、この子は可愛い子である。きっと、どれだけ大きくなっても、私のこの思いは変わらないのだろう。
「フェリナ! いるか!」
「え?」
「わぁっ!」
そんな私達の耳に、突然声が聞こえてきた。声の方向を向くと、兄貴とミルーシャ、それにメルラムもいる。
「うあっ!」
「きゃあっ!」
「わあっ!」
三人は、リルフを見て叫びをあげた。兄貴とミルーシャは驚きの叫び、メルラムは何故かわからないが喜ぶような叫びだ。
驚いているのは、理解できる。突然、こんな大きくなったリルフを見れば、それは仕方ないことだろう。
「すごい! 竜だ!」
「メルラム? あんた、なんで喜んでいるのよ?」
「だって、竜だよ! すごい。あの本で見た絵にそっくりだ!」
メルラムの言葉に、私は彼が何故喜んでいるのかを理解した。本で読んでいた空想の存在が現れたから、喜んでいるようだ。
確かに、今のリルフはあの本の絵に似ている。体も大きいし、本当に本の中から出てきたかのようだ。
あの本を昔から読んでいたメルラムにとって、その存在が現実に現れるというのは嬉しいことなのだろう。なんとなく、わからない訳ではない。
「というか……これは、一体、どうなっているんだ?」
「あ、兄貴……あいつらと戦ってね」
「そ、そうか……それなら、とにかくこの場をなんとかするのが先決だな」
「あ、うん。そうだね……」
兄貴の言葉に、私はゆっくりと頷いた。この者達を、このままにしておく訳にはいかない。
また抵抗されたり逃げられたりしないように拘束する必要があるのだ。
それに、怪我人については治療する必要もある。一応、命が助かるなら、助けるべきなのだ。
こうして、私達は兄貴の指示に従って、しばらく怪しい集団の治療と拘束を行うのだった。




