51.迷える心⑦
「念のため、人質を取ることにしたが、もしかしたら必要なかったか? まあ、どっちでもいいか。これで、お前は終わりだな」
「うぐっ……」
「リルフ!」
「はっ! こいつが大事なら動かないことだな! 動いたら、こいつの命はないと思いな!」
男の言葉に、私はその動きを止めることになった。リルフを人質に取られている以上、迂闊なことはできない。男の指示に従うしかないだろう。
「さあ、剣を捨てな」
「お、お母さん……駄目。ボクのことは、放っておいて」
「そんなこと……できる訳ないよ」
私は、男の言葉に従うことにした。リルフはああいっているが、そんなことはできる訳がない。そもそも、これはリルフを守る戦いなのだ。リルフを守れなかったら、何も意味はない。
そう考えた瞬間、私の中にある疑問が生まれた。確か、こいつらはリルフを連れ去ろうとしているのではないかと。
「お母さん、この人たちはボクを連れ去ろうとしている。この人達は、ボクが必要なんだ。命を奪うなんて、できるはずはない!」
「……黙れ!」
「うっ……」
リルフの言葉に、私の考えは確信になった。この人達には、リルフの命を奪うことはできないのだ。
人質としているが、リルフの命を奪えば、彼らは目的がなくなる。それでは、何も意味がないはずである。
「妙なことを考えるんじゃないぞ。確かに、命は奪えないが、苦痛を与えることくらいはできるんだぜ? なんなら、今ここでこいつにナイフを突き刺してやろうか?」
「……くっ」
「お母さん!」
男の言葉に、私は自らの考えを改めた。
命を奪われないにしても、リルフが傷つけられることに、私は耐えられない。そんな光景を見て戦うことができる程、私の心は強くないのだ。
その判断は、論理的には間違っているのかもしれない。例えリルフが傷つけられようとも、戦うことが今は最善なのかもしれない。
でも、私にはそれができなかった。苦痛に歪むリルフを想像しただけで、私は自然と剣を置いてしまっていたのだ。
「さて、それじゃあ、これで形勢逆転だな……」
「はっ! ただで死ねると思うなよ。ゆっくりと痛めつけてから殺してやる」
「……」
男達の下卑た笑いが聞こえていた。その言葉を聞いて、私は少し安心する。
こいつらが私を痛めつけるということは、しばらく時間がかかるということだ。それなら、兄貴達が来てくれる可能性がある。
この男達は、本当に短絡的だ。さっさと私を殺してリルフを連れ去ればいいのに、余計な時間をかけるなんて、愚かとしか言いようがない。
「さて……」
「はっ……」
少しずつ距離を詰めて来る男達を見ながら、私は覚悟を決めた。これから何が起ころうとも耐えてみせると。




