44.怪しげな集団⑧
「お母さんには……お母さんがいなかったの?」
「え?」
リルフは、少し不安そうな顔をしながらそのようなことを聞いてきた。その様子からは、聞きにくいことだが、思い切って聞いてみたという感情が読み取れる。
「うん……そういうことになるのかな? お母さん代わりになってくれる人はいたけど、リルフの質問にはそうだと答えるべきだと思う」
「……」
私の言葉に、リルフはさらに暗い顔になってしまった。何か、色々と考えているようである。
これは、私にとって別に暗い話ではない。だが、リルフにとっては違う。母親がいないことは、この子にとっては重大なことなのだ。
「ボクは、お母さんがいなかったら、どうなっていたんだろう……」
「リルフ……」
「そんな境遇だったら、ボクはきっと押し潰されていた……そう思ったんだ」
リルフは、私の目を見つめながらそのようなことを言ってきた。私がいなかったら、そう考えて悲しくなってしまったのだろう。
でも、リルフは一つ勘違いをしている。きっと、この子は私を母親がいなくても頑張れる強い人間だと思っているだろう。だが、そうではないのだ。
「あのね、リルフ。別に、私は私だけの力で頑張れたという訳ではないんだ」
「え?」
「私は、たくさんの人に支えられてきた。お母さんはいなかったけど、孤児院のシスターや皆がいた。だから、多分、リルフが思っているような感じではないと思うよ?」
「そう、なんだ……」
私の言葉に、リルフは目を丸くしていた。かなり、驚いているようだ。
やはり、私が考えていたようなことを思っていたのだろう。それが勘違いだったと気づいて驚いている。多分、そういうことなのだろうと思う。
その直後、リルフは少し考えるような表情を見せた。私の言葉を受けて、自分の中にある考えを整理しているのだろう。
「でも、それでも、ボクはお母さんがいてくれてよかったと思うよ」
「……リルフ」
「だって、ボクはお母さんのことが大好きなんだもん」
「……ありがとう、リルフ」
「あっ……うん」
私は、リルフを抱きしめた。リルフの言葉が嬉しくて、思わずそうしてしまったのである。
この子を守りたいという思いが、どんどんと強くなっていく。絶対に手を放さない。私は改めてそれを誓うのだった。
「さて、そろそろ寝ようか。いつまでも起きていても、仕方ないからね」
「うん……そうしようか」
話も一区切りついたので、私は寝ることを提案した。
あの集団が来る可能性などはあるが、それでも睡眠は取らなければならない。人間、いつまでも起きていることはできないのである。
結局の所、あの集団がいつ攻めて来るかはわからない。攻めて来ない可能性もないことはないので、あまり構え過ぎてもいけないだろう。私達は、いつも通りの生活をするべきなのだ。
こうして、私とリルフは睡眠を取るのだった。




