40.怪しげな集団④
「さあて、そんなことを言っている内に、向こうも覚悟を決めたみたいよ」
「そうみたいだね」
「仕方ないか……」
私は、兄貴と入れ替わるように前に出ていく。伸びている男が落とした剣を拾ってから、前方にいる敵を確認する。
前方にいるのは、二人。私の技量はそこまで高い訳ではないが、相手は恐らくあまり戦い慣れしていない。そんな相手なら、私でもなんとかなるはずだ。
「喰らいなさい! ファイアー・ボール!」
「ぬあっ!」
「ぎゃあっ!」
次の瞬間、ミルーシャの声と数人の男の叫びが聞こえてきた。恐らく、彼女の手から魔法が放たれたのだろう。
声からして、二人くらいは倒れたはずだ。これで、残り七人。半数近く、戦力は削れた。
「……魔法使い!」
「まずいな……ここは、撤退だ! 伸びている奴を回収しろ!」
ミルーシャの攻撃によって、怪しげな集団は様子を変えた。二人がすぐに倒れたため、撤退に判断を切り替えたようだ。
私は、兄貴の様子を窺った。彼は、リルフを庇うようにしている。私が狙われているといったため、あの子を守ろうとしてくれているのだろう。
その体勢からして、相手の撤退は許容するということだ。あくまで市民を守るのが兄貴の役目である。相手を逃がさないというのは、次に優先されることなのだ。
「逃がさ……」
「ミルーシャ、待って。あまり刺激しない方がいいよ」
「むぅ……」
という訳で、私は徹底的に交戦するつもりのミルーシャを落ち着かせる。相手が逃げてくれるなら、今はそれでいい。わざわざ深追いする必要はないのだ。
怪しげな集団は、倒れていた者達を担いで逃げていく。仲間を見捨てなかったのは、友情からなのだろうか。それとも、自分達のことを知られたくなかったからなのだろうか。
「……皆、大丈夫か?」
「あ、うん。大丈夫だよ、兄貴」
「そうか……それなら、良かった。しかし、一体どういうことなんだ? あいつらは一体、何者なんだ……?」
怪しげな集団が去った後、兄貴は困惑していた。それは当然だろう。彼にとって、この状況は意味がわからないものであるはずだ。
そもそも、このアルバナスは平和な町なので、こんな事件が起こること自体が珍しい。そんな事情もあって、兄貴はかなり困惑しているのだろう。
「兄貴、あいつらが何者かはわからないんだ。でも、わかっていることはある。それを説明するから、とりあえず宿屋に来てくれるかな?」
「わかった。それなら、宿屋に行こう」
私は、兄貴に事情を説明することにした。多分、悪いことにはならないはずだ。兄貴なら、きっと私達の力になってくれる。




